【譲渡禁止特約付債権・譲渡制限株式の差押|租税滞納→株式公売は多い】
1 譲渡禁止特約付債権・非公開・譲渡制限株式の差押
強制的な債権回収手段として差押を活用することがあります。差押の対象とする財産にはいろいろなものがありますが、その1つとして、債権や株式があります。普通に売却しようとしてもできない(制限されている)場合でも、差押については法律上可能となっています。本記事では、このような差押について説明します。
2 債権の譲渡禁止特約の差押→譲渡不可でも差押は可能
個別的な取引における債権や預貯金債権は譲渡禁止特約が付いていることが多いです。債権の差押も譲渡と似ているところがあるので禁止されるのでしょうか。結論としては、差押は可能です。昭和45年最判がそのような判断を示し、平成29年改正で条文として明文化しました(民法466条の4)。
詳しくはこちら|債権の譲渡性(平成29年改正民法466条〜466条の5)(解釈整理ノート)
これについては次に説明します。
3 譲渡制限株式の差押→競売はできるが会社に主張できない
譲渡禁止特約付の債権と似ているものに譲渡制限付株式があります。
株式を差し押さえて換価→回収を実現、という方法もあります。
一般的に『非公開会社』では、株式について『譲渡制限』が設定されています。
差押の結果、競落人に株式が移転するので『譲渡』に似ています。
そこで『差押→競売』ができるかどうか、という問題があります。
譲渡制限株式の競売
あ 株式の譲渡制限
株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨定款に定められている
競売による株式取得につき取締役会の承認がない
い 効果
会社に対しては『競売前の株主が』いまだ株主としての地位を有する
※商法204条1項、204条の2、204条の5(当時の条文)
※最高裁昭和63年3月15日
結果としては『競売自体はできる』『会社に対しては株式の移転の効果を主張できない』という状態になるのです。
4 譲渡制限株式|競売後の対応|譲渡承認請求・会社が買い取るor買取人指定
譲渡制限株式が競売により売却されることもあります。
その後の手続をまとめます。
譲渡制限株式×競売→その後の対応
あ 会社の承認or拒絶
承認した場合→株主が『競落人』となる
拒絶した場合→株主は『元の株主』のままとなる
※会社法139条1項
い 譲渡拒絶→競落人の対応
買受人は『譲渡承認請求』を行う
※会社法137条
う 譲渡承認請求に対する会社の対応
次のいずれかを行う
ア 会社は『自ら買い取る』イ 指定買取人を指定する
※会社法140条1項、4項
最終的に買受人は実質的に『株主になる』か『金銭になる』という結論に達します。
ただ、上記のように一定の手続を要します。
5 非公開会社の株式の差押|実務では『情報不足・支配割合』がハードルとなる
譲渡制限株式の差押では、買受人が一定の手間・時間を要します(前述)。
その結果、入札しにくい=換価されにくい、という一定のハードルがある、と言えます。
この点『非公開会社の株式』としては、別のハードルもあります。
非公開会社の株式の差押|ハードル
あ 情報不足のハードル
当該会社の経済的状態を債権者側が把握することが非常に難しい
差し押さえたとしても『買い取る人(入札者)』がいない
換価できない可能性が高い
い 『支配割合』のハードル
議決権が一部=100%ではない、という場合
→『会社としての意思決定=株主総会での議決』ができない可能性がある
『株式を1人が100%保有している』場合であれば『い』のハードルはありません。
逆に言えば、複数人で持ち合っている状態であれば『差押の防御』となります。
6 非公開会社の株式の差押|国税による公売では売却できることも多い
非公開会社の株式差押のハードルは『会社の資料・情報(不足)』なのです(前述)。
逆に『情報不足』ではない状況・当事者であれば入札されることが期待できます。
『租税の滞納』の場合は、債権者である税務署が会社の情報を把握しているのが通常です。
そこで、例外的に『公売→入札者が登場する』ということがよくあるのです。
非公開会社の株式の差押|公売では売却可能性あり
→税務署は従前の『財務資料(情報)』を保有している
→差押・公売となった場合『公表』できる
→実務上、公売で入札者があり、売却に成功するケースも多い
7 非公開会社の株式の差押|買受人の典型|役員・従業員・取引先・テナントオーナー
非公開株式の株式の競売において入札する者のクラスタは大体決まっています。
非上場株式の公売→典型的な入札者
要するに、株式を入手した後に経営権を取得して運営することができる者、ということです。
賃貸建物のオーナーは、会社解散・廃業→明渡実現、という目的が前提となることが多いです。
この場合、株式の買受けは、実質的に『明渡料の拠出』と言えます。
本記事では、譲渡禁止特約付の債権や譲渡制限株式の差押について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に差押など、債権回収に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。