【騒音,振動に対する差止,損害賠償請求;まとめ】

1 騒音,振動に対して差止請求損害賠償請求が認められる
2 騒音,振動が違法となるのは受忍限度を超えた場合である
3 騒音,振動についての受忍限度の判断では多くの要素が用いられる
4 差止損害賠償で2段階の違法性がある;違法性段階説
5 騒音の環境基準が定められており,差止,損害賠償の判断で参考とされる
6 騒音,振動公的規制は地方自治体の条例で定められている
7 騒音,振動公的規制違反→民事上も違法と判断されやすい
8 工場稼働における騒音,振動の裁判例

1 騒音,振動に対して差止請求損害賠償請求が認められる

(1)騒音,振動が問題となる典型例

実際に,騒音,振動が問題となることは多いです。
典型的な例をまとめます。

<騒音,振動の紛争;典型例>

・工場稼働
・建物建設
・建物(内部)改修
・深夜飲食店等(カラオケ店等)

(2)騒音,振動に対する請求内容

騒音や振動を発する行為の程度によっては,法的な請求が認められます。

<騒音,振動に対する法的請求>

・差止請求
・損害賠償請求

(3)差止請求,損害賠償請求の法的根拠

次のような法的根拠が考えられます。
実際の裁判例ではあまり詳しく論じられないことが多いです。
結論にほとんど影響がないからです。

<騒音・振動に対する差止請求・損害賠償請求の法的根拠>

ア 物権的請求権説イ 人格権説ウ 不法行為説エ 環境権説,日照権説

また,日照権の法的根拠と基本的に同様です。
別項目;日照権侵害の違法性は受忍限度で判断する;受忍限度論

2 騒音,振動が違法となるのは受忍限度を超えた場合である

当然,個人の生活,各業務の遂行において音や振動を発することは日常的に起こります。
一定の限度,を超えた場合にだけ,差止や損害賠償が認められます。
この限度は受忍限度論と言われるものです。

<受忍限度論>

権利の制限の程度が社会生活上一般に受任すべき限度を超えた場合に違法となる

要は,常識を超えた場合に違法となるというものです。

3 騒音,振動についての受忍限度の判断では多くの要素が用いられる

実際に,騒音・振動の受忍限度,を考える際には,多くの事情が考慮に含まれます。
大きな分類は次のとおりに整理されます。
実際に判断された裁判例は別に説明します。

<騒音・振動の受忍限度判断要素>

あ 被害の内容・程度
被害内容 イライラする 電話で会話できない 睡眠できない 精神障害発症
程度
い 公法上の規制との関係

環境基準や公的な規制が法律,条例で定められています。
本来,これらは公的規制であり,民事における適用を目的とされていません。
しかし実務的には,この基準が重視される傾向にあります。

う 地域性
え 先住性

加害側が後から接近した場合,以前の環境は保護される傾向が強くなります。

お 侵害行為の程度,態様

音量,継続時間,時間帯,音の種類(音質)などです。

か 被害者の状況

《典型例》
個人の居宅→基本的な生活環境の侵害
企業活動→従業者の健康被害,営業の妨害

4 差止損害賠償で2段階の違法性がある;違法性段階説

差止については,加害側の営業・事業の中止と直結するものです。
当然,影響が非常に大きくなることもあります。
そこで,差止は,特に違法性が高い場合に限定される傾向があります。
その一方,損害賠償請求は,その程度を金額で調整できます。
差止よりは認められやすいという傾向があります。
※大阪地裁昭和62年4月17日
このような段階を認める考え方を違法性段階説と呼んでいます。

5 騒音の環境基準が定められており,差止,損害賠償の判断で参考とされる

(1)環境に関する根本的な公的基準がある;環境基準

国や地方自治体が個々の規制,施策を行う際の参考となる基準を政府(環境省)が定めています。
具体的には,大気,水(水質),土壌,騒音について,望ましい基準を政府が定めるというルールが環境基本法で制定されています(16条)。
そして,この法律を受けて,通達において,具体的な基準が数値として規定されています。
この具体化された数値としての基準を環境基準と呼んでいます。

(2)4種類のエリア別に騒音の環境基準が作成されている

騒音の環境基準は通達(平成17年5月2日環告45)において示されています。
地域を4種類に分け,かつ,昼間と夜間で分け,それぞれデシベルという単位で基準値が定められています。

<騒音に関する環境基準(基準値)>

昼間 50~60デシベル
夜間 40~50デシベル

(3)環境基準は罰則はないが,各種施策や民事上参考とされる

なお,環境基準はこれに違反した場合の罰則などは規定されていません。
あくまでも,他の法律・条例制定や個別的施策の決定プロセスで参考とされるためのものです。
結果的に,個別的な騒音の差止・損害賠償において,裁判所でも重要な参考情報として活用されています(上記『2』)。

6 騒音,振動公的規制は地方自治体の条例で定められている

騒音・振動については,各地域の実情によって規制内容を調整する必要があります。
事業活動と,周囲の方(個人・会社)への影響の両方のバランスを取らなくてはなりません。
小さな単位での地域(コミュニティ)の実情を反映させる必要があるのです。
そこで,騒音規制法,振動規制法ともに,詳細な規制内容は条例に委任しています(騒音規制法3,4条,振動規制法4条1項)。
各自治体は,これに対応して条例で基準を定めています。
エリアによって異なりますが,騒音・振動ともにデシベルという単位で規定されています。

7 騒音,振動公的規制違反→民事上も違法と判断されやすい

公的規制は,事業者(個人や会社)と国や地方自治体との間のルールです。
民事(私人同士)に適用されることは目的とはなっていません。
理論的には,公的規制は民事的な問題に適用されるわけではありません。
しかし,民事上の差止請求損害賠償請求における違法性の判断の1要素して公的規制は影響します。
詳しく言えば,公的規制受忍限度の1要素となるということです(前記『3』)。
特に,騒音・振動の裁判例などの実務においては,結果的に民事でも公的規制が重視されます。
※仙台高裁平成5年12月20日

8 工場稼働における騒音,振動の裁判例

(1)工場稼働における騒音,振動の裁判例

工場の騒音・振動に関して,程度がひどいので受忍限度を超えるかどうかが問題となることは多いです。
これに関する裁判例を紹介します。

工場稼働騒音,振動に関する受忍限度判断ポイント>

客観的な数値となっている環境基準公的規制(条例)が重視される
※仙台高裁平成5年12月20日;工場
※大阪地裁昭和62年4月17日;工場

(2)建物建設工事における騒音,振動の裁判例

建物建築工事の際,周囲への騒音が問題となることは多いです。
これについて判断された裁判例を紹介します。

建物建築工事騒音に関する受忍限度判断ポイント>

個別的な特殊事情を考慮しつつも,条例による規制を重要な参考数値として用いている
※東京地裁平成9年11月18日

建物建築工事の騒音の事例で考慮された特殊事情

あ 被害者が深夜のタクシードライバーである

→被害者側の事情(職業選択)であるが,日中の騒音を睡眠妨害と認めた

い 加害者は,代替の居住場所の提供を提案した

→提案を拒否した後の違法性は否定された

(3)深夜飲食店における騒音の裁判例

カラオケ店など,一定の大音量を発する店舗については,近隣への騒音が問題となることが多いです。
このような騒音に対する差止や損害賠償請求について判断された裁判例があります。

<カラオケ店の騒音の差止仮処分の事例>

カラオケ装置の使用の差止を認めた
禁止された深夜時間帯=午後11時以降翌日の午前6時まで
※名古屋地裁平成6年8月5日

仮処分において,騒音を発生するカラオケ装置の使用の差止が認められた珍しい決定です。
深夜の時間帯については,愛知県の条例の基準である40デシベルを流用しています。

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