1 抵当権が優先→競売により賃借人は明渡義務|『敷金返還請求』が残る
2 敷金返還請求についての配当要求|配当要求権者=『債務名義』が必要
3 敷金返還の配当要求|確定判決+『配当要求終期までの明渡完了』が必要
4 敷金返還の配当要求|配当要求終期までに『仮差押』→期限延長可能
5 敷金返還|仮差押→配当要求|一時的に『供託』→後から実際の配当実施

1 抵当権が優先→競売により賃借人は明渡義務|『敷金返還請求』が残る

(1)賃借人の明渡義務

入居前に抵当権の設定登記があれば,対抗要件では抵当権が優先となります。
抵当権に基づく競売の買受人の方が,賃借人よりも優先,ということです。
新所有者は賃貸人とはなりません。
結局,買受人(新所有者)から賃借人への明渡請求が認められます。

(2)賃借人から『元所有者=賃貸人』に対する『敷金返還請求』

この場合,新所有者が敷金関係を承継する,ということもありません。
また『賃貸借が継続できない状態になった→賃貸借契約の終了』となります。
そこで,賃借人は『元所有者=賃貸人』に対して敷金返還を求めることになります。

2 敷金返還請求についての配当要求|配当要求権者=『債務名義』が必要

競売をされるような状態であれば,通常,返還する原資が不足していることが多いでしょう。
最低限,この競売手続きにおける配当として返還を受けたいところです。
とは言っても,敷金返還請求権,というのは法律上,特別に強化されているわけではありません。
不動産賃貸の先取特権という制度はありますが,これは賃貸人側(=賃借人の債務)だけしか認められていません(民法312条)。
配当に参加するためには,一定の手続きが必要となります。
『配当要求』という手続です。

<配当要求のできる一般債権者>

あ 執行力ある債務名義の正本を有する債権者
い 差押えの登記後に登記された仮差押債権者

※民事執行法51条1項

3 敷金返還の配当要求|確定判決+『配当要求終期までの明渡完了』が必要

敷金返還について,競売手続で配当要求するには『債務名義』が必要です(前述)。
『債務名義』とは,主に確定判決のことです。
しかし『敷金返還請求』の場合,判決の中で『明渡と引換』と記載されます。
『敷金返還』は『明渡完了後』に具体化する,と解釈されているのです。
そこで問題点と解決法をまとめます。

<敷金返還請求権の『債務名義』化の問題点>

あ 敷金返還請求権の『判決』獲得の問題点

退去前に『請求』することはできない
理由=履行期未到来

い クリア(判決獲得)の方法

『将来給付訴訟』
→退去前に提訴・判決獲得が可能
※最高裁平成11年1月21日;ただし,この判例は『確認』請求

う クリアできない問題

現実に明渡を完了するまでは『執行文』を得られない
※民事執行法27条

え 結論

『配当要求終期』までに明渡完了が実現しないと『配当要求』ができない
理由=『執行力のある債務名義』がないため

4 敷金返還の配当要求|配当要求終期までに『仮差押』→期限延長可能

配当要求の前提として『仮差押』する方法があります。
仮差押は対象債権がちょっと緩和されています。

<期限・条件付き債権×仮差押→配当要求>

あ 仮差押

期限や条件付きの債権
→これを被保全債権とする仮差押は可能
→仮差押が認められると『仮差押登記』がなされる
※民事保全法20条2項

い 配当要求

『差押の登記後に登記された仮差押債権者』に該当する
→配当要求可能

敷金返還請求も『期限・条件付き債権』として仮差押ができるのです。
その結果,配当要求が可能となります。
もちろん,緊急性や必要性が認められ,かつ,一定額の保証金を預託して初めて仮差押が認められます。
詳しくはこちら|民事保全(仮差押・仮処分)の基本|種類と要件|保全の必要性

5 敷金返還|仮差押→配当要求|一時的に『供託』→後から実際の配当実施

仮差押の登記が行われれば,配当要求が可能となります。
ただし,文字どおり『仮』の手続きです。
具体的に配当により現金が入手できるわけではありません。

<仮差押後の配当要求|実際の配当まで>

あ 仮差押→配当要求

配当金は一旦『供託』がなされる

い 最終的な配当実施

『債務名義(確定判決など)を取得+明渡完了』の時点
→配当が実施される
=供託金の還付手続
※民事執行法91条1項2号

『長期間でもプール(供託)されている』というのがポイントです。
訴訟手続や明渡の実行の『時間的余裕』を作れるのです。
なお,このように配当要求ができたとしても,配当の優先順位では,登記された担保権(抵当権)が優先です。
状況によっては,一般債権者(敷金)にまで配当が回るかどうかは別問題です。