日照権侵害について,幼稚園・保育園などの幼児の教育施設が日影になる場合,違法性が認められやすいのでしょうか。

1 日照確保が不十分だと,幼児の発育,教育に悪影響がある
2 幼児教育施設では日照権侵害が認められやすい
3 日照阻害の受忍限度判断における幼児教育施設の特殊性

1 日照確保が不十分だと,幼児の発育,教育に悪影響がある

(1)幼児の発育,教育と日照との経験則は認められ,実証的な研究もなされている

幼児の教育・発育において,日照(日なたで活動すること)が重要である,ということは常識(経験則)として当然の前提とされています。
立法上も,各種法律,規則等で幼児にとって日照が重要ということが前提とされています(児童福祉法1条,2条,7条,35条,45条,学校教育法22条,学校教育法施行規則1条)。
なお,日本内外の各種研究機関では,日照と身長(の伸び),とか,日照と近視・視力低下,という相関関係をデータとして調査しているものがあります。

(2)訴訟等における立証としては実証データは必要とされない

しかし,その信頼性(再現性の確認)は徹底されていません。
訴訟における立証としても,そのような統計的,実証的データが必要とされるわけではありません。
日照が阻害される時間帯を主張,立証するのが原則です。
もちろん,具体的な影響のデータについても立証に加えると受忍限度の判断において反映されます。

2 幼児教育施設では日照権侵害が認められやすい

低年齢の子供の教育においては,日照の必要性が強いと認められています(前記『1』)。
日照の保護がより強い,ということです。
そこで,保育園,幼稚園などの教育施設への日照阻害は,日照権侵害が認められやすい傾向があります。
専門的には,『日照権侵害の受忍限度が低く設定される』ということになります。
<→別項目;日照権侵害の違法性は受忍限度で判断する;受忍限度論
ただし,他の用途の施設,建物と比べて,極端・大幅に異なる扱いがされている,とまでは言えません。

3 日照阻害の受忍限度判断における幼児教育施設の特殊性

日照阻害(日照権侵害)についての,一般的な受忍限度判断要素と,その要素のうち幼児教育施設に特有な要素を以下まとめておきます。

<日照阻害の受忍限度判断要素;一般的なもの>

ア 加害建物の建築基準法違反の有無
イ 地域性
ウ 日照阻害の程度
エ その他
・加害,被害回避の可能性
・加害,被害建物の用途
・加害建物と被害建物の先後関係
・加害建物建築に至る交渉経緯

<日照阻害の受忍限度判断要素;幼児教育施設特有のもの>

『被害建物の用途』(上記『エ』その他)として,日照の必要性が考慮される(前記『2』)

<幼児教育施設において日照阻害の受忍限度が下がる要因>

・実際に利用(滞在)する子供の年齢が小さい
・利用する人数が多い

条文

[児童福祉法]
第一条  すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。
2  すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない

第二条  国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。

第七条  この法律で、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターとする。
2  この法律で、障害児入所支援とは、障害児入所施設に入所し、又は指定医療機関に入院する障害児に対して行われる保護、日常生活の指導及び知識技能の付与並びに障害児入所施設に入所し、又は指定医療機関に入院する障害児のうち知的障害のある児童、肢体不自由のある児童又は重度の知的障害及び重度の肢体不自由が重複している児童(以下「重症心身障害児」という。)に対し行われる治療をいう。

第三十五条  国は、政令の定めるところにより、児童福祉施設(助産施設、母子生活支援施設及び保育所を除く。)を設置するものとする。
2  都道府県は、政令の定めるところにより、児童福祉施設を設置しなければならない。
3  市町村は、厚生労働省令の定めるところにより、あらかじめ、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出て、児童福祉施設を設置することができる。
4  国、都道府県及び市町村以外の者は、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の認可を得て、児童福祉施設を設置することができる。
5  児童福祉施設には、児童福祉施設の職員の養成施設を附置することができる。
6  市町村は、児童福祉施設を廃止し、又は休止しようとするときは、その廃止又は休止の日の一月前までに、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならない。
7  国、都道府県及び市町村以外の者は、児童福祉施設を廃止し、又は休止しようとするときは、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の承認を受けなければならない。

第四十五条  都道府県は、児童福祉施設の設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない。この場合において、その基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するものでなければならない。
2  都道府県が前項の条例を定めるに当たつては、次に掲げる事項については厚生労働省令で定める基準に従い定めるものとし、その他の事項については厚生労働省令で定める基準を参酌するものとする。
一  児童福祉施設に配置する従業者及びその員数
二  児童福祉施設に係る居室及び病室の床面積その他児童福祉施設の設備に関する事項であつて児童の健全な発達に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの
三  児童福祉施設の運営に関する事項であつて、児童(助産施設にあつては、妊産婦)の適切な処遇の確保及び秘密の保持、妊産婦の安全の確保並びに児童の健全な発達に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの
3  児童福祉施設の設置者は、第一項の基準を遵守しなければならない。
4  児童福祉施設の設置者は、児童福祉施設の設備及び運営についての水準の向上を図ることに努めるものとする。

[学校教育法]
第二十二条  幼稚園は、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする。

[学校教育法施行規則]
第一条  学校には、その学校の目的を実現するために必要な校地、校舎、校具、運動場、図書館又は図書室、保健室その他の設備を設けなければならない。
2 学校の位置は、教育上適切な環境に、これを定めなければならない。