1 1筆の土地の一部を対象とする仮処分
2 保全範囲を超える1筆全体の仮処分(原則=否定)
3 仮処分債権者による分筆登記の代位申請
4 分筆登記申請における測量範囲の時代変化(概要)
5 保全範囲を超える1筆全体の仮処分(原則=肯定)
6 1筆の土地の一部の仮処分(まとめ)

1 1筆の土地の一部を対象とする仮処分

普通は,土地の取引(売買)は,単位で行われます。というのは登記上1つの土地となっているもの(1つの地番がつけられている)ものです。
この点,土地の時効取得の場合は,1筆の土地の一部であるのが通常です。また,売買でも,土地の一部を対象とすることもあります。このようなケースでは,登記上はA所有だけど,その土地の一部だけは(実体は)B所有,という状況になることがあります。最終的には訴訟をして,B所有登記を実現することになりますが,その前に処分禁止の仮処分をしておくことも多いです。
ここで,1筆の土地の一部だけに対する仮処分をしたいのですが,登記手続として単純にそのようなことはできません。本記事では,この問題について説明します。

2 保全範囲を超える1筆全体の仮処分(原則=否定)

処分禁止の仮処分は,その登記がなされることによって,処分できない状態となります。ここで,登記は1筆単位にしかできません。
では仕方がないので,1筆全体に仮処分をするという発想が出てきます。確かに登記手続は簡単になりますが,保全すべき範囲を超えて仮処分をしてしまうことになります。
申立人自身の権利がないものに仮処分をする,ということになるので,昭和28年判例はこれを否定しました。

保全範囲を超える1筆全体の仮処分(原則=否定)(※1)

しかしながら仮処分は請求保全の目的を以てなされるものであり,裁判所はこの目的を達するに十分にして必要な限度においてのみその処分を定めなければならないこと多言を要しない。
果して然りとすれば,被上告人において本件仮処分により保全せんとする賃借権が本件土地の一部二八坪について存するに過ぎないものである以上,この部分のみにつき処分禁止の措置を講ずればその請求保全の目的を達するに十分であること勿論であつてたとい右二八坪が一筆である本件土地の一部であるとしてもこの一事により被上告人主張にかかる賃借権の目的でない他の部分を含めて本件土地全部に対して仮処分をなす必要ありということはできない
※最判昭和28年4月16日

3 仮処分債権者による分筆登記の代位申請

では,1筆の土地の一部に対して仮処分をしたい場合はどうしたらよいのでしょうか。昭和28年判例がその説明をしています。
申立人は,仮処分の決定書を得たら,それを法務局に提出すれば,代位によって(1筆の土地の所有者に代わって)分筆登記を申請できるのです。分筆登記で2筆に分けて,そのうち申立人の所有である方の筆についてだけ仮処分をすればよいのです。過不足ない範囲で仮処分ができたことになります。

仮処分債権者による分筆登記の代位申請

すなわち本件についてこれを見れば本件土地の中被上告人が賃借権を取得したと主張する二八坪がその全体のいずれの部分に該当するかを明確にしそしてその部分のみにつき処分禁止の仮処分がなされたとしてこの場合仮処分債務者たる上告人(賃借権を対抗せられる土地所有者)において任意右二八坪を分筆しその登記をしないとしても仮処分債権者は当該命令正本を代位原因を証する書面として債務者に代位してその部分の分筆の申告及びその登記をすることができるのであるから(昭和二七年九月一九日法務省民事局甲第三〇八号民事局長回答法務省民事局編民事月報第七巻第一〇号一五四頁参照)かかる手続を経た後にあつては,仮処分裁判所において前示二八坪に対する仮処分の執行としての登記記入をなさしめることにつき何等の妨もないこと明らかである(民訴七五八条三項参照)。
※最判昭和28年4月16日

4 分筆登記申請における測量範囲の時代変化(概要)

昭和28年判例の理論はその後の時代の変化で通用しにくくなっています。それは,分筆登記の時に必要な測量の範囲が大きく関係しています。
以前は,分筆後の筆のうち片方だけの測量で済んでいましたが,平成16年以降は分筆前の土地の全体について測量が必要になっているのです。

分筆登記申請における測量範囲の時代変化(概要)

あ 基本ルール

分筆登記申請の際には,原則として,分筆前の1筆の土地全体の測量が必要である(全筆求積)
例外的に1筆の土地の一部(分筆後の土地の片方)だけの測量で足りることもある(残地求積)

い 実務の運用の変化

ア 平成16年以前 例外である残地求積が広く認められていた(むしろ原則となっていた)
イ 平成16年以降 残地求積が認められるのは限られた場合だけになった(本当に「例外」となった)
詳しくはこちら|分筆登記における測量の範囲・残地求積と全筆求積

5 保全範囲を超える1筆全体の仮処分(原則=肯定)

昭和28年判例は,仮処分の決定書をもらってから代位で分筆登記をするという方法を指摘しました(前述)。この方法は現在では,非常にやりにくいです。
まず,平成16年以降は,分筆登記の時に,土地全体の測量が必要になっています。実務上,測量には(地積測量図を作るには),隣接地所有者の確認書(押印)が必要です。一方,仮処分は相手方に知られないうちに登記を完了させる必要があります(密行性)。周辺住人と一緒に現地で筆界の位置を確認していたら,相手方にばれてしまう可能性があります。なお,平成16年以前も,一部の測量は必要だったので,ばれる可能性があったのは同じですが,全体の測量ほどのリスクではありませんでした。
いずれにしても,分筆登記を行う限り,仮処分の実現までに相手方にばれて,移転登記をされてしまうリスクが大きいのです。そこで,平成23年の裁判例は,1筆全体の仮処分を例外的に認めました。
この事案では,申立人の所有である範囲は,1筆の土地の80%でした。相手方の所有する面積は20%にすぎないということです。仮処分のオーバー部分が20%と比較的小さかったことも,例外を認めた理由となっています。(面積に関係なく)一般化はできないと思います。

保全範囲を超える1筆全体の仮処分(原則=肯定)

あ 保全範囲を超える1筆全体の仮処分(原則=否定)

一筆の土地の一部についての権利を保全するため,当該一筆の土地全部について処分禁止の仮処分の申立てをすることも,原則として,保全の必要性を欠くものとして,理由がないというべきである。
(注・昭和28年判例(前記※1)の判断と同じである)

い 土地の一部の仮処分の現実的な支障

しかしながら,仮処分債権者において,一筆の土地の一部についての仮処分命令の発令を得た場合,その執行として公示のための登記をするには,当該仮処分命令の正本を代位原因を証する書面として,債務者に代位して当該対象部分の分筆の手続を行い,その上でその部分について仮処分の内容に沿う仮処分登記手続をすることになるのであるが,現行の登記実務においては,実際には,分筆手続のためには,すでに地積測量図が作成されているような場合を除いて,隣地所有者立会の上作成された筆界確認書,立会者の印鑑登録証明書,測量図の提出が要求されることとなる。
したがって,仮処分債権者において,仮処分発令後に分筆のための手続を履践していると,測量等に相当の時間を要するばかりでなく,その密行性を保てなくなるおそれがあり,その間に債務者が土地を一筆ごと転売するなどして,仮処分の目的が達成されなくなることも十分に考えられる。

う 例外扱い(肯定)・昭和28年判例との違い

そして,本件にあっては,抗告人X1(本件土地二にかかる部分を除く。)及び同X2の本件申立てにかかる被保全権利については,その疎明はあると認められる。
また,「一筆の土地の一部に対する処分の制限の登記の嘱託は受理することができないが,債権者が当該命令正本を代位原因を証する書面として,債務者に代位してその部分の分筆の登記の申請することができるので,その分筆の登記がなされた後に当該処分の制限の登記の嘱託がなされたときは,これを受理することができる。」とする昭和二七年九月一九日民事甲三〇八号民事局長回答,並びに「土地の一部について(被保全権利が)存するに過ぎない場合は,処分禁止の措置はこの部分のみについて講ずべきである。」とする最高裁判所昭和二八年四月一六日第一小法廷判決(注・昭和28年判例(前記※1))・民集七巻四号三二一頁は,いずれも分筆登記について上記のような厳格な手続が要求されていなかった時期における先例や判例であること,一件記録によると,抗告人らがAから買い受けてそれぞれ占有してきた土地の範囲は,本件土地一及び二の約八〇パーセントを占めることが認められ,残余部分の処分を制限されることにより債務者らが被る不利益は小さいといえることからすると,本件申立て(抗告人X1の本件土地二に関する部分を除く。)は,いずれも理由があるというべきである。
※大阪高決平成23年4月6日

6 1筆の土地の一部の仮処分(まとめ)

1筆の一部を対象とした仮処分をしたい場合の具体的な対応をまとめます。
仮処分をする範囲(面積)の割合が大きい場合は,分筆不要の1筆まるごとの仮処分を申し立てることで裁判所に認めてもらうことを目指します。
仮処分をする範囲の割合が小さい場合は,(1筆全体ではなく)その範囲だけの測量をして,その部分だけの測量図を作ります。それをつけて,土地の一部の仮処分の申立をします。仮処分の決定書を得たら,切り出す部分だけの測量図で分筆登記を申請します。法務局は,全体の測量を行うという原則論を要求してくるかもしれません。その場合は,例外的に一部の測量による分筆(残地求積)が認められるケースであることをしっかりと説明する必要が出てきます。例外(残地求積)が認められる状況については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|分筆登記における測量の範囲・残地求積と全筆求積

本記事では,1筆の土地の一部を対象とした仮処分について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地の時効取得や境界(筆界)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。