【地図混乱地域(筆界未定地)の意味・問題点・発生経緯】

1 地図混乱地域(筆界未定地)の意味・問題点・発生経緯

公図(法務局の地図)に、地番がはっきりと記載されていない地域がまれにあります。地図混乱地域とか筆界未定地といいます。
本記事では、地図混乱地域の基本的知識として、その意味や問題点、発生経緯を説明します。地図混乱地域の解消のために、このような基礎知識が役立ちます。

2 地図混乱地域の(筆界未定地)の意味

地図混乱地域とは、法務局の地図(公図)と現地が広範囲にわたって相違している地域のことです。

地図混乱地域の(筆界未定地)の意味

地図混乱地域とは、一定の地域で、かなり広範囲にわたるその全域が、登記所に保管されている地図に表示された土地の位置及び区画と、これに対応する現地の位置及び区画とが著しく相違している地域をいい、登記実務上の呼称である。
※中村隆ほか監『Q&A表示に関する登記の実務 第2版 新版』日本加除出版2007年p419

3 地図混乱地域の公図の状況

土地の位置を把握、確認するためには、法務局の地図(公図)を見ます。通常は1筆ごとに位置が記載されているので位置関係をすぐに把握できます。
しかし、地図混乱地域では多くの土地(複数筆)をまとめた1つの区画として記載されています。たとえば、10個の土地(地番)をまとめると、大きな四角形となることは分かりますが、個々の土地の位置や形状は分からないことになります。

<地図混乱地域の公図の状況>

あ 通常(前提)

通常は、1筆の土地ごとに1つの地番が記載され、隣接する土地との間に境界線が記載されている

い 地図混乱地域

地図混乱地域では、複数の筆の土地が一体(1区画)として記載される
個々の土地に境界線が引かれていない
複数の地番が連記される
例=「〇〇+〇〇+◯◯・・・・」

4 地図混乱地域の問題点

地図混乱地域の土地は、あくまでも法務局の地図(公図)では土地の位置が特定できていないだけで、理論的には所有権は存在します。理論的には売却や担保設定といった処分ができます。
しかし実際には、公図で位置が特定できない土地を買う人が現れない、またはよほど安くないと売れないということになります。金融機関は通常、公図で位置が特定できない土地を担保として認めないので、融資を受けられません。
分筆登記もできないので、この点でも、分譲する(売却する)ことはできなくなります。

<地図混乱地域の問題点>

あ 手続的な問題

ア 分筆・合筆登記ができないイ 地積更正登記ができないウ 地目変更登記ができない

い 事実上の問題

ア 売却することが困難である 売却できるとしても大幅に安くなる
イ 融資を受けることが困難である 不動産を担保として金融機関から融資を受けることがほぼ不可能となる

5 地図混乱地域発生の経緯・要因

普通は、法務局の地図(公図)と現地は対応していて、位置が特定できないということはありません。では、地図混乱地域がどのように生じるのでしょうか。いろいろな要因がありますが、各種の登記手続や宅地造成が杜撰だったという事情が原因となっていることが多いです。

地図混乱地域発生の経緯・要因

あ 登記手続の未了

ア 区画整理の中断 土地改良法又は土地区画整理法に基づき一時利用又は仮換地の指定まで行ったが、土地の配分又は精算金等の関係で紛争が生じたために、正規の換地処分、あるいはそれに伴う登記手続がなされないまま、事実上事業が中断されて現在に至っている地域
イ 事実上の区画整理 正規の法手続によらない私的な土地改良、あるいは区画整理のように、数人の関係者が事実上土地の交換をしたり、あるいは土地の位置及び区画を変更した地域
ウ 災害後の非公式の区画 川の氾濫、あるいは山崩れ等による災害後、土地所有者等が任意に土地を区画して占有したことによるもの
エ 軍用地の返還 戦時中に軍用地として強制買収された民有地が、戦後境界不明のまま返還されたために、元の筆界の回復が全く不可能となった地域

い 宅地造成における机上分筆

ア 典型的な前提事情 合筆しようとする土地の1筆に担保権がある
合筆予定地の中に公図上無番地となっている里道、水路等の法定外公共用物がある
イ 机上分筆 造成区画した土地に即して分筆の登記ができず、分譲する宅地の形状及び位置とは関係なく、従来の土地区画の中に入り込めるような形での分筆の登記(いわゆる図上で行う机上分筆)を行い分譲した結果、公図上に表示された土地の区画が、現地とは全く異なるものとなってしまった

う 不正確な公図に合致させた机上分筆

当初、公図が不正確であった
分筆登記の申請の際に、公図と地積測量図の不一致を登記官に指摘されるのを逃れるために、不正確な公図に合致させる形で机上分筆を行った
不正確な公図に見合う地積測量図を作成して提出し、これを前提に同様の分筆手続が繰り返された結果、公図に表示された土地の位置及び区画と、現地におけるそれとが全く異なる状況となった
※中村隆ほか監『Q&A表示に関する登記の実務 第2版 新版』日本加除出版2007年p420〜421

6 地図混乱地域に陥った経緯が分かる証拠

以上のように、地図混乱地域になってしまった経緯にはいろいろなパターンがあります。地図混乱地域を解消する手続はいくつかありますが、その時に、地図混乱地域になった経緯を把握することが必要になることがあります。
詳しくはこちら|地図混乱地域(筆界未定地)の解消方法(全体像)
経緯が分かる証拠(資料)としては、地図作成時の成果簿や航空写真などがあります。

<地図混乱地域に陥った経緯が分かる証拠>

あ 成果簿

地図作成作業の経緯や結果がまとめられたもの
法務局に保管されている
謄写はできず、写真撮影ができるのみ

い 法務局からの手紙

地図作成事業に関して、法務局から住民に手紙が送付され、その控えが法務局に保管されていることがある
地図混乱地域となった理由などが説明(記載)されている

う 不動産売買契約の書類

過去の不動産取引に関する書類に、地図混乱地域となった経緯や理由が記載されていることがある

え 航空写真

長期間にわたり現在の状況が継続していることが分かる

本記事では、地図混乱地域(筆界未定地)の意味や問題点、発生経緯を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、最適な対応方法(解消方法)が違ってきます。
実際に地図混乱地域に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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