1 信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の判例
2 ショッピングセンターでの粗暴言動による無催告解除
3 長期間の賃料不払いによる無催告解除
4 失火発生による無催告解除(建物賃貸借)
5 名義借り運送業による無催告解除(否定)

1 信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の判例

本来,賃貸借契約を解除するには,賃借人に本質的な義務違反があり,賃貸人が催告をした後に解除の通知をする必要があります。
しかし,信頼関係破壊理論によって,本質的な義務違反も催告もないのに解除が認められることがあります。
詳しくはこちら|信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の理論と判断基準
本記事では,このような解除を裁判所が判断した判例を紹介します。

2 ショッピングセンターでの粗暴言動による無催告解除

ショッピングセンターの一部の建物賃貸借のケースです。賃借人が攻撃的で粗暴(暴力的)な行為を繰り返しました。
そこで,賃貸人は粗暴な言動や迷惑行為を禁止する特約の違反を理由として解除を主張しました。
この特約は賃貸借契約の要素である(本質的)義務ではないのですが,裁判所は解除を認めました。

<ショッピングセンターでの粗暴言動による無催告解除>

あ 建物の状況

賃貸人は,ショッピングセンターとするために1棟の建物を区分してこれを青物商,果物商などの店舗として賃貸していた
ショッピングセンターの正常な運営維持のために,賃貸借契約に特約を付した

い 特約の内容

『ア〜ウ』のような賃借人の行為を禁止する
ア 粗暴な言動を用いること
イ みだりに他人と抗争すること
ウ 他人を煽動してショッピングセンターの秩序を乱すこと

う 反社会的行為の内容

賃借人がこの禁止に違反して他の賃借人に迷惑をかける商売方法をとった
他の賃借人とトラブルを起こした
そのため賃貸人が,他の賃借人から苦情をいわれて困惑した
賃貸人はそのことにつき賃借人に注意した
賃借人は暴言を吐き賃貸人に暴行を加えた

え 裁判所の判断

賃貸借契約の基礎である信頼関係は破壊された
賃貸人は契約を無催告で解除することができる
※最高裁昭和50年2月20日;建物賃貸借

3 長期間の賃料不払いによる無催告解除

いわゆる迷惑行為(反社会的行為)ではなく,賃料滞納が問題となったケースです。滞納した期間が異常に長かったのです。
そこで,裁判所は信頼関係破壊理論を適用して無催告での解除を認めました。

<長期間の賃料不払いによる無催告解除>

あ 事案

約9年10か月間賃料の支払いがなかった
賃借人が賃貸借関係自体を否定していた

い 裁判所の判断

『あ』の賃借人の行為は不信行為である
賃貸人は無催告で解除できる
※最高裁昭和49年4月26日

4 失火発生による無催告解除(建物賃貸借)

賃借人の過失により,賃貸借の目的(対象)である建物が火災になってケースです。
賃借人には意図的な迷惑行為を行ったわけではありません。しかし,結果(被害)が非常に大きいため,裁判所は無催告解除を認めました。

<失火発生による無催告解除(建物賃貸借)>

あ 事案

建物の賃貸借において
賃借人の失火により建物が焼損した

い 裁判所の判断

信頼関係が破綻した
賃貸人は無催告で解除できる
※最高裁昭和47年2月18日;建物賃貸借

5 名義借り運送業による無催告解除(否定)

裁判所が無催告解除を認めなかったケースもあります。
借地人が運送業の免許を取らずに(無免許で)営業していました。しかも,トラックを敷地からはみ出して駐車していました。
素朴に考えて非常識極まりないといえるでしょう。
しかし一方で,はみ出し駐車を解消することは容易であり,また,実際の近隣からのクレームもなかったという事情がありました。
そこで裁判所は信義則上の義務違反があるとは認めませんでした。つまり解除できないことになりました。

<名義借り運送業による無催告解除(否定)>

あ 借地人の反社会的行為の内容

借地人が,借地の約半分にあたる空地をトラック置場として,無免許で自動車運送事業を営んだ
トラックが完全に格納できずに公道上に約1メートルはみ出して公衆の通行を妨害していた

い 信頼関係破壊を否定する事情

トラックの格納を完全にするための工事は比較的容易である
近隣や歩行者から苦情が出たことはない

う 裁判所の判断

地主は,用法違反or信義則上の義務違反を理由として解除することはできない
※最高裁昭和47年11月16日

本記事では信頼関係破壊理論による,信義則上の義務違反を理由とする解除を扱った事例(判例)を紹介しました。
実際には,細かい個別的な事情の主張・立証によって判断(結論)が大きく変わってきます。
実際に賃貸借契約の解除の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。