1 境界線付近の掘削の制限(民法237,238条)
2 境界から1or2メートルの掘削制限の規定
3 深さの2分の1の距離の掘削制限の規定
4 慣習の優先扱い
5 隣地所有者の承諾による影響
6 境界線付近の掘削制限の違反の責任
7 境界線付近の掘削に関する注意義務の内容
8 掘削に関する注意義務違反の責任

1 境界線付近の掘削の制限(民法237,238条)

隣地との境界の付近では地面を掘削する工事が制限されます。
設置(掘削)するものの種類によって,制限の内容は異なります。
本記事では,民法237条,238条の掘削の制限について説明します。

2 境界から1or2メートルの掘削制限の規定

掘削の制限のうち1つは,境界線から1メートルと2メートル以内の工事が禁止されるというものです。
設置する構造物のリスクの大きさによって禁止となる距離が分かれています。

<境界から1or2メートルの掘削制限の規定>

あ 最低距離2メートル制限

『ア〜エ』を設置する(掘る)場合
→崩壊・漏出のリスクが大きい
→境界線から2メートル以上を保たなければならない
ア 井戸
イ 用水だめ
ウ 下水だめ
エ 肥料だめ

い 最低距離1メートル制限

『ア〜ウ』を設置する(掘る)場合
→崩壊・漏出のリスクが小さい
→境界線から1メートル以上を保たなければならない
ア 池
イ 穴蔵
穴蔵室などのことである
ウ し尿だめ
改良式便所はし尿だめに該当する
肥料だめには該当しない
※山口地裁昭和32年12月12日
※民法237条1項
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p373

3 深さの2分の1の距離の掘削制限の規定

導水管や溝・堀は,前記の工作物よりも,生じるリスク(影響)が小さいです。
そこで,設置する工作物の深さの2分の1のマージン(境界との距離)だけで済みます。

<深さの2分の1の距離の掘削制限の規定>

あ 導水管・溝・堀

『ア・イ』のいずれかを設置する工事について
境界から,『い』の中の短い方の距離を保たなければならない
ア 導水管を埋める
イ 溝or堀を掘る

い 保つ距離

ア 設置物の深さの2分の1の距離
イ 1メートルの距離
※民法237条2項

4 慣習の優先扱い

以上の規定とは異なる地域の慣習がある場合は,慣習が優先的に適用されます。

<慣習の優先扱い>

あ 慣習を優先する規定の有無

その地域の慣習を優先する規定はない
※民法236条参照

い 解釈

『あ』と同様に考えられる
前記※1,※2と異なる慣習が存在する場合
→その慣習に従う
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p373

5 隣地所有者の承諾による影響

境界付近の掘削制限の趣旨は,隣地所有者に損害が生じないようにするというものです。
そこで,隣地所有者の承諾があれば,掘削制限の規定は適用されません。

<隣地所有者の承諾による影響>

あ 承諾による適用除外の規定の有無

民法237条の規定について
隣地所有者の承諾により適用を除外するという規定はない

い 解釈

隣人の承諾があれば民法237条の制限は適用されない
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p374

6 境界線付近の掘削制限の違反の責任

前記の掘削制限の規定に違反すると法的責任が生じます。
典型的な責任は,設置を廃止する請求や,設計(工作物の内容)を変更する請求が認められるというものです。
これ以外に損害賠償の責任もあります。

<境界線付近の掘削制限の違反の責任>

あ 設置の廃止・変更の請求

民法237条の規定に違反する工事が行われた場合
→隣地所有者は廃止or変更を請求することができる

い 損害賠償請求

実損害が生じた場合
→損害賠償請求ができる

う 請求期間の制限

『あ・い』の両方について
→請求する期間の制限はない
※民法234条2項参照
詳しくはこちら|境界と建物の距離制限違反の法的責任(建築中止・変更請求・損害賠償)
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p374

7 境界線付近の掘削に関する注意義務の内容

前記の境界からの距離の制限以外にも,掘削に関する義務があります。
工事の際に,隣地の地盤が崩壊するなどの損害発生を回避する注意義務です。

<境界線付近の掘削に関する注意義務の内容>

あ 条文規定

境界線の付近において民法237条の工事をする場合
→土砂の崩壊or水・汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない
※民法238条

い 必要な注意(相当な措置)の例(※3)

隣地の地盤を支持する工事
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p374

8 掘削に関する注意義務違反の責任

掘削に関する注意義務(前記)に違反すると法的責任が生じます。
妨害の予防,つまり前記のような地盤支持の工事を請求するものが代表的な内容です。
実際に損害が生じてしまった後であれば,損害賠償の責任も生じます。

<掘削に関する注意義務違反の責任>

あ 妨害予防請求権

相当な措置(前記※3)を講じないで工事が行われようとした場合
→隣地所有者は妨害予防の請求をすることができる

い 損害賠償請求

ア 請求権の発生
実損害が生じた場合
→隣地所有者は損害賠償請求ができる
イ 立証責任
工事者が,必要な注意を怠らなかったことを立証しない限り
→工事者は賠償責任を免れることができない
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p374

本記事では,境界付近における土地の掘削の制限について説明しました。
実際には個別的な事情によって,具体的な扱いが大きく変わることもあります。
実際に境界付近の掘削工事に関する問題に直面している方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。