1 特殊事情によるマイナス差額の配分
2 賃貸借に関する事情によるマイナス配分
3 賃料に関する合意とマイナス配分
4 賃貸借以外の利益によるマイナス配分

1 特殊事情によるマイナス差額の配分

差額配分法の賃料試算では,マイナス差額の配分は一般的に否定されます。
詳しくはこちら|差額配分法におけるマイナス差額の配分の肯定/否定説と配分率
しかし,特殊な事情によってマイナス差額の配分を行うこともあります。
まず,例外的な特殊事情を分類します。

<特殊事情によるマイナス差額の配分>

あ 基本的事項

マイナス差額の配分は原則的に認めない
しかし,契約の経緯に特殊性があれば認めることもあり得る

い マイナス差額を認める特殊事情

ア 賃貸借に関する事情(後記※1イ 賃貸借以外の事情 例;純粋な賃貸借以外での利益がある(後記※3

2 賃貸借に関する事情によるマイナス配分

賃貸借に関係する事情によって,例外的にマイナス差額を配分することはあり得ます。

<賃貸借に関する事情によるマイナス配分(※1)

あ 借主の意向の影響が強いケース

借主の懇願により貸借契約を開始した場合
→マイナス差額の負担割合を減らすべきである
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p76

い 賃料に関する合意があるケース

賃料を特定の指標に連動させる合意がある場合
→『差額の配分』自体が当事者の合意や想定を裏切ることになる
→マイナス差額を貸主がすべて負担することは合理的である
=合意に反してまで借主が負担することは不合理である
合意内容とマイナス差額の配分は後記※2のように対応している

3 賃料に関する合意とマイナス配分

賃料に関する合意はマイナス差額の配分につながることがあります。

<賃料に関する合意とマイナス配分(※2)

あ 基本的な方針
合意(特約)の内容 マイナス差額の配分
賃料を変更しない合意 借主に大きく配分する
賃料を特定指標に連動させる合意 借主に配分できない
い 理由

原則として
『マイナス差額の分配』を借主に負担させる合理性がない
ただし,合意した算定方法の結果として
借主がマイナス差額の一部を負担したのと同じ状況はあり得る

4 賃貸借以外の利益によるマイナス配分

賃貸借そのものではなく,周辺部分の事情がマイナス差額の配分につながることもあります。借地上の建物建築の請負による利益を理由としてマイナス差額の配分が行われた裁判例を紹介します。

<賃貸借以外の利益によるマイナス配分(※3)

ハウスメーカーが家賃保証をした共同住宅の継続家賃
建築請負時に既にハウスメーカー側が大きな収益を得ている
→マイナス差額の配分は不合理ではない
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p79