1 建物賃貸借|オーナーの破産+抵当権実行|明け渡す義務+敷金返還請求権
2 オーナー破産→賃借人は『寄託請求』により敷金の保護ができる
3 賃借人の『寄託請求』|最後配当の除斥期間までに明渡をさせる必要がある
4 寄託請求による敷金の保護→物上代位による差押で無効化される(キャンセラー)

1 建物賃貸借|オーナーの破産+抵当権実行|明け渡す義務+敷金返還請求権

<事例>

A社はオフィスとして,賃貸ビルの1フロアを借りた
その時点で既に抵当権登記があった
多額の敷金をオーナーに預けた
オーナーが倒産し,破産手続が始まった

(1)抵当権vs賃借権→対抗要件で抵当権優先→賃貸借は終了→明け渡す義務

抵当権登記が先なので,賃借権よりも抵当権が優先です。
仮に抵当権が実行されて,競売されると,競落人(新所有者)から明渡請求を受けることになります。
明渡請求を受けた時点で,元々の『賃貸借契約』は履行不能に至り,終了することとなります。

(2)敷金返還請求権は破産債権となる

賃貸借契約が終了→退去,は仕方ないとして,敷金が返還されるかどうかがポイントです。
これは『破産債権』(破産法2条5項)として扱われます。
破産開始決定『前』に存在していた,破産者に対する債権という意味です。
この点,実際に敷金の返還請求を行う時点は,破産開始決定『後』です。
しかし,賃貸借契約(正確にはセットとなっている敷金契約)の成立時に『敷金返還請求権』自体は発生します(最高裁昭和48年2月2日)。
正確には『停止条件付』の請求権,ということになります。
『敷金返還請求権』は破産開始決定『前』に発生していた債権=破産債権,となるのです。

(3)破産債権は大部分が免除(回収不能)となる

破産債権については破産手続の中で『配当』が行われます。
しかし一般的には,債務超過なので破産者の財産は『ごくわずかしか戻ってこない』はずです。
配当率は非常に低いのが通常です。
配当を受けられなかった大部分の金額は免除になってしまします(個人破産の『免責』や法人破産の『法人格消滅』)。

2 オーナー破産→賃借人は『寄託請求』により敷金の保護ができる

オーナーが破産した場合,建物が売却されることが多いです。
この点,賃貸借に対抗力があれば,その後のオーナーに敷金も承継されます。
詳しくはこちら|任意売却→新所有者に『賃貸借・敷金』が承継される
しかし,賃貸借に対抗力があっても,その後のオーナーから更新拒絶や解約申入をされることが想定されます。
そうするといずれは将来,明け渡しをすることになります。
詳しくはこちら|『賃貸借が優先』という場合→賃貸借は継続するが将来更新拒絶・解約申入がある
そこで,賃借人サイドから『早期に退去して敷金返還を受けることを優先する』という方法もあります。
しかし『敷金返還請求権』は破産債権となり,回収の希望が薄い状態となります。
このような場合,破産開始決定の直後に,破産管財人に対して『寄託請求』(破産法70条)を行うのが得策です。
これにより,その後月々支払う賃料を管財人が『寄託』することになります。
簡単に言えば,各債権者への返済用プール口座には入れないで『別に隔離して保管しておく』という意味です。
例えば,敷金が賃料2か月分であれば,2か月分は別に保管(=寄託)されることになります。
そして,賃貸借契約が終了し,退去すれば,その時点で寄託された賃料2か月分の金銭が戻ってきます。
ここの動きの裏の債権債務の操作はちょっと複雑です。

<『寄託』された金銭と賃料との扱い>

あ 相殺処理

『未履行の賃料債務(2か月分)』と『敷金返還請求権』を相殺する
↑実は,寄託した賃料2か月分は賃料として支払済みではないということになっている

い 寄託された金銭の返還

寄託された金銭の返還を受ける

結果的に『敷金が戻ってきた』のと同じような状況になるのです。
『寄託請求』は『賃貸借に対抗力がある/ない』とは関わらず使える制度です。

3 賃借人の『寄託請求』|最後配当の除斥期間までに明渡をさせる必要がある

賃借人が破産管財人に対して『寄託請求』をすれば『敷金の保護』ができます。
しかし,一定の『時間制限』があります。

<寄託請求による敷金保護の期間制限>

あ 期限

最後配当に関する除斥期間
最後配当に関する公告がなされ,その後2週間が経過した時点のこと
この時点で『配当』が確定(クローズ)する

い 期限までに賃借人が行うべきこと

敷金返還請求権の行使
↑『賃貸借契約の終了+明渡の完了』の時点で行使可能となる

『寄託』された金銭は,『最後配当に関する除斥期間』満了時点までに相殺されない場合,破産財団に組み込まれます。
また建物が売却され,新オーナーに賃貸借契約が承継された場合も『寄託』の金銭は破産財団に組み込まれます(条解破産法p516)。
正確には,最後配当の一部として,債権者への配当に充てられる,ということです(破産法201条2項)。
最後配当に関する除斥期間のうちに,(敷金返還請求権を)行使することができるに至っていれば,相殺(→寄託金の返還)が可能です(破産法198条2項)。

4 寄託請求による敷金の保護→物上代位による差押で無効化される(キャンセラー)

(1)寄託請求による敷金保護→物上代位の差押で無効化

賃借人としては『寄託請求』により『敷金の保護』ができます。
しかし,保護が機能しない,ということもあります。

<『寄託請求』による『敷金保護』のキャンセラー>

抵当権者による賃料債権の差し押さえ(物上代位)

(2)物上代位による差押

抵当権の本来的な機能は,対象物を強制的に売却し,金銭に換え→返済に充てるというものです。
しかし,その延長・補強として,物上代位という制度があります(民法372条,304条)。
抵当権の対象物である不動産からの賃料も対象に含まれる,というものです。
具体的には『賃料の差押』が可能なのです。

(3)賃料債権差押後の処理

抵当権者が賃料を差し押さえた場合,それ以降は具体的に次のようなフローに変わります。

<賃料差押後の『賃料』支払フロー>

状態 賃借人が賃料を払う先
通常=賃料差押『前』 所有者=破産者(破産管財人)
賃料差押『後』 差押債権者(=抵当権者)

賃料差押『後』は,破産管財人は『賃料の受領』ができなくなります。
物理的に破産管財人が『賃料収入を保管しておく』ということができなくなります。
結果的に賃借人による『敷金との相殺→寄託金の返還』というワザが使えなくなります。

判例・参考情報

[最高裁判所第2小法廷昭和46年(オ)第357号敷金返還請求事件昭和48年2月2日]
そして、本件のように、明渡前に賃貸人が目的家屋の所有権を他へ譲渡した場合でも、貸借人は、賃貸借終了により賃貸人に家屋を返還すべき契約上の債務を負い、占有を継続するかぎり右債務につき遅滞の責を免れないのであり、賃貸人において、貸借人の右債務の不履行により受くべき損害の賠償請求権をも敷金によつて担保しうべきものであるから、このような場合においても、家屋明渡前には、敷金返還請求権は未確定な債権というべきである。