1 自力救済特約×有効性|東京高裁平成18年3月
2 自力救済特約×有効性|東京地裁平成18年5月
3 自力救済特約×有効性|東京地裁平成16年3月
4 自力救済特約×有効性|札幌地裁平成11年12月
5 自力救済特約×有効性|浦和地裁平成6年4月
6 自力救済特約×有効性|適格消費者団体の差止請求
1 自力救済特約×有効性|東京高裁平成18年3月
建物明渡に関する自力救済は『適法/違法』が問題になりやすいです。
自力救済の適法/違法の判断全般については別に説明しています。
(別記事『自力救済特約・基本』;リンクは末尾に表示)
本記事では具体的な事例を紹介します。
まずはいくつかの判例を整理します。
<自力救済特約×有効性|判例>
あ 特約内容
賃貸借終了後,賃借人が建物内の動産を賃貸人が指定する期限内に搬出しない場合
→賃貸人はこれを搬出保管または処分の処置を取ることができる
い 解釈|裁判所の判断
占有侵害を伴わない態様の措置を認める趣旨である
例;賃借人が任意に退去した後の残置動産について
※東京高裁平成3年1月29日
2 自力救済特約×有効性|東京地裁平成18年5月
<自力救済特約×有効性|判例|事案>
あ 特約内容
ア 立ち入り条項
賃借人が賃料を滞納した場合
→賃貸人は賃借人の承諾を得ずに本件建物内に立ち入り,適当な処置を取ることができる
イ 解除条項
賃借人が賃料を2か月分以上滞納した時
→催告なしで解除できる
い 事案
滞納が2か月分に達した
管理業者は解除の旨を内容証明郵便で通知した
賃借人の不在中に建物内に立ち入った
ドアの施錠具を取り付けた
賃借人が本件建物に入ることが困難となった
※東京地裁平成18年5月30日
<自力救済特約×有効性|判例|裁判所の判断>
あ 立ち入り条項の有効性
賃借人の『平穏に生活する権利』を侵害するものである
→公序良俗に反する
→無効である
※民法90条
い 具体的措置の責任
立ち入ったこと+施錠具の取り付け
→これらは不法行為に該当する
→賃借人からの損害賠償請求を認めた
精神的苦痛=5万円
※東京地裁平成18年5月30日
3 自力救済特約×有効性|東京地裁平成16年3月
<自力救済特約×有効性|判例|事案>
あ 特約内容
保安管理その他の必要がある場合には建物内に立ち入ることができる
い 事案内容
賃貸人は当該建物でインテリア小物の販売を行っていた
賃借人(法人)の実質的経営者が司法的な身柄拘束を受けた
賃料の滞納が2か月分以上に達した
賃貸人は賃借人に解除通知を行った
この時点で賃借人は正常な業務を遂行できていなかった
その6日後に賃貸人は鍵を交換した
賃借人が立ち入ることができなくなった
鍵交換については,賃借人への事前の連絡はなかった
賃借人には,動産を搬出する機会さえなかった
※東京地裁平成16年6月2日
<自力救済特約×有効性|判例|裁判所の判断>
あ 特約の有効性×行為の違法性
特約の有効な範囲ではない
→不法行為が成立する
い 損害算定
『逸失利益=損害』は発生していない
→結果的に賃貸人の責任は生じなかった
※東京地裁平成16年6月2日
4 自力救済特約×有効性|札幌地裁平成11年12月
<自力救済特約×有効性|判例>
あ 特約内容
賃料の支払いを7日以上怠った時
→賃貸人は,直ちに建物の施錠をすることができる
その後7日以上経過した時
→建物内にある動産を賃借人の費用負担において賃貸人が自由に処分できる
い 解釈|裁判所の判断
特約条項は一定の範囲だけで有効である
※札幌地裁平成11年12月24日
5 自力救済特約×有効性|浦和地裁平成6年4月
<自力救済特約×有効性|判例>
あ 特約内容
ア 自動解除
次のいずれかの事情が生じた場合,無催告で契約は解除される
・賃借人が契約の各条項に違反し,賃料を1か月分滞納した時
・無断で1か月以上不在の時
イ 所有権放棄
解除後,明渡ができない時
→室内遺留品は放棄されたものとする
ウ 動産処分
賃貸人は,保証人または取引業者立会の上,随意遺留品を売却処分の上債務に充当できる
い 解釈|裁判所の判断
具体的事情によっては適法ではない
=条項は一定の範囲だけで有効である
※浦和地裁平成6年4月22日
6 自力救済特約×有効性|適格消費者団体の差止請求
特約自体について『差止請求』を行う制度もあります。
適格消費者団体による差止請求の制度内容は別に説明しています。
詳しくはこちら|消費者契約法|差止請求|適格消費者団体・公表・提訴前フロー
自力救済特約についての差止請求がなされた事例を紹介します。
<自力救済特約×有効性|差止請求事例|特約内容>
あ 締め出し1
賃借人が家賃などを遅延した場合
→賃貸人は入口(玄関ドア)の錠前を取替・施錠し賃借人の入室を拒むことができる
い 締め出し2
賃借人に賃料の未払いが生じた後
賃貸人からの請求にも関らず指定期日までに支払を行わなかった場合
→賃貸人が『強制退室』を行う
う 動産処分
賃借人が契約終了時までに本件建物内外の賃借人の占有に係る車両及び動産を持ち出さない時
→賃貸人がこれを任意に処分して未払賃料等の損害に充当できる
この場合,賃借人は賃借人の所有物の所有権を放棄したものとみなす
賃貸人は,物件内の賃借人の所有物を処分することができる
明渡に要した費用はすべて賃借人の負担とする
例示=裁判費用・弁護士費用・運送料・荷物運搬人日当
え 賃借人の請求シャットアウト
契約終了後賃借人が直ちに原状回復・退去をしない場合
→賃貸人は直ちに明け渡しを執行することができる
その際,賃借人は賃貸人に対して契約に基づく金銭以外の請求を一切しない
請求できない項目の例示=移転料・立退料・損害賠償
お 解約通知の簡略化
賃借人の債務不履行による解除により直ちに明渡す場合
→賃貸人が鍵交換を執行した日を以て『解約通知日』とする
<自力救済特約×有効性|差止請求事例|結果>
あ 結論
いずれの条項も改善された
い 公表情報
適格消費者団体による差止請求は『公表』される
以上紹介した事案は公表されたものの一部である
オリジナルの情報はオンラインで開示されている
外部サイト|消費者庁|差止請求事例集
↑のサイトのp63〜,104〜