ある会社Aに融資しています。
今回,支払不能となったので,競売にしようと思います。
複数の土地を担保にしています。
ただ,全体を一体として売らないと,トータルの価値は下がってしまいます。
実際に裁判所で全体を一体として売却することはできるのでしょうか。

1 競売の対象不動産が複数である場合,一括売却or個別売却は裁判所が判断する
2 一括売却の方が有利である場合に裁判所はこれを選択する
3 申立人が一括売却を希望する場合は,その理由を書面として裁判所に提出すると良い
4 債務者,申立人が異なる,という場合でも一括売却は可能である
5 一括売却の方が著しく有利なのに,裁判所が個別売却を実施した場合は,売却不許可となる
6 債権者が複数不動産のうち,競売申立対象不動産を選択することは自由にできる
7 過剰売却は禁止されるが,債務者の同意があれば可能

1 競売の対象不動産が複数である場合,一括売却or個別売却は裁判所が判断する

<事例設定>

ある会社Aに融資している
今回,支払不能となったので,競売にしようと思う
複数の土地を担保にしている
ただ,全体を一体として売らないと,トータルの価値は下がってしまう
実際に裁判所で全体を一体として売却することはできないのか

複数の不動産について競売をする場合,1個ずつバラバラで売るのか複数を1セットとして売るのかを裁判所が判断できる規定があります(民事執行法61条)。
担保権ではなく,債務名義に基づく競売の場合についても準用されています(民事執行法188条)。
このように複数の不動産を1セットとして売却(競売)することを一括売却と言います。
なお,バラバラで売ることを個別売却と呼んでいます。
さらに,似ているネーミングで一括競売という別の手続きがあります。
間違えやすいので,これらの用語には注意が必要です。
<→別項目;一括競売

2 一括売却の方が有利である場合に裁判所はこれを選択する

裁判所が個別売却ではなく一括売却を選択する基準を説明します。
一括売却の制度趣旨も含めて,条文の規定と解釈をまとめます。

(1)一括売却制度の趣旨

一括売却の制度趣旨>

不動産は各別に売却するのが原則であるが,一括して売却する方が高価に売却できるのであれば,それは債権者・債務者双方の利益となるし,利用上の牽連性があれば買受人の便宜にも資するため,例外的に一括売却を認めたものである
※上原敏夫=長谷部由起子=山本和彦『民事執行・保全法』(第2版補訂)有斐閣127頁

(2)一括売却要件

<条文上の一括売却の要件>

同一の買受人に買い受けさせることが相当であると認めるとき
※民事執行法61条

条文上の規定は抽象的なので,実務上の解釈をまとめます。

一括売却の要件>

ア 目的物が執行裁判所を同じくする複数の不動産であること
 →執行裁判所の同一性
イ ある不動産を他の不動産と一括して同一人に買い受けさせることが,その相互の利用関係からみて相当であること
 →利用上の牽連性
ウ 超過売却となる場合には債務者の同意があること

最終的には,執行裁判所が判断します。

(3)一括売却の効果

一括売却の決定がされると各不動産は1個の売却単位となり,売却基準価格の決定や売却許否の決定などが,一括して行われる。

以上のことを非常に大雑把にまとめるとまとめて売った方がトクな場合は,まとめて売るということになります。

3 申立人が一括売却を希望する場合は,その理由を書面として裁判所に提出すると良い

(1)一括売却は規定上,申立権はない

一括売却にするか,個別売却にするか,という判断については,理論上,裁判所の職権となっています。
つまり,当事者が申し立てるという手続は用意されていないのです。

(2)当事者が意見を裁判所に提出することは推奨される

実際には,その前に,申立人のサイドから,一括売却をして欲しいその方が有利だ,ということをアピールすることが行われています。
通常は,申立書とは別に上申書を作成します。
その中に,一括売却した方が,トータルで高く売れる,ということを記載しておくのです。
裁判所としても,判断材料があった方が,職権での判断をしやすくなります。

4 債務者,申立人が異なる,という場合でも一括売却は可能である

同時期に競売が申し立てられ,同時期に複数の不動産が競売の対象となっていさえすれば,一括売却は可能です。
条文上『差押債権者又は債務者を異にするものを含む』とカッコ書きで明記されています(民事執行法61条)。
逆に言えば,一括売却を希望する場合は,対象となる複数の不動産について,同時期に申立をする必要があります。

5 一括売却の方が著しく有利なのに,裁判所が個別売却を実施した場合は,売却不許可となる

原則として,一括売却にするのか,個別売却にするのかの判断は裁判所の裁量です。
ただし,完全な自由裁量ということではありません。
これではきまぐれになってしまいます。
仮に,次の状況であれば,裁量を逸脱した,ということになります。

一括売却の判断;裁量権逸脱>

一括売却の方が,個別売却よりも著しく有利に売却ができることが明らかなのに個別売却をした

要は,重大な判断ミス,ということです。
その場合,売却不許可事由に該当することになり,結論としては,売却し直す,ということもレアケースですが,あり得ます。
そして,やり直しの売却,については,当然,一括競売がなされることになります。

6 債権者が複数不動産のうち,競売申立対象不動産を選択することは自由にできる

<事例設定>

融資の際,5個の不動産を担保として取っている
競売する時に,敢えて担保不動産のうち2個だけを対象にする,ということをしたい

どの不動産を対象に競売を申し立てるのかは,債権者(申立人)が自由に設定できます。
まさに,このようなことが融資時に複数の不動産を担保に取った理由です。
最も有利な状態で競売にかけて,最大限有利な状態で債権回収をする,という趣旨です。
特に禁止するルールもなく,当然に可能であると考えられます。

7 過剰売却は禁止されるが,債務者の同意があれば可能

<事例設定>

融資の際,5個の不動産を担保として取っている
2個の不動産の売却で全額回収が可能である
敢えて『5個全部を一括売却』とすることはできるのか

一括売却という制度によって,複数の不動産をセットで売却することが可能です。
しかし,競売の大前提として目的=債権回収です。
一般論として,回収のために最小限の売却にとどめるべき,という基本方針があります(無剰余差押の禁止;民事執行法63条)。
そこで,一括売却についても,原則として,過剰に売却することはNGとされています。
条文上は次のように規定されています。

一括売却ができない場合>

あ 原則=一括売却できない

数個の不動産のうち,あるものの買受可能価額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある場合

い 例外=一括売却できる

所有者の同意があるとき
※民事執行法61条

例外として所有者の同意があれば,過剰でも一括売却ができる,とされています。
なお,条文上は『債務者』という文言ですが,『所有者』として解釈されます。
条文上は『債務者兼所有者』を前提としているという意味です。
所有者としては,売却された後,過剰分を剰余金として交付されます。
(どうせ一部の不動産を売られるなら)まとめて有利に売って現金化したいというニーズに応じられるようにしてあるのです。

条文

[民事執行法]
(一括売却)
第六十一条  執行裁判所は、相互の利用上不動産を他の不動産(差押債権者又は債務者を異にするものを含む。)と一括して同一の買受人に買い受けさせることが相当であると認めるときは、これらの不動産を一括して売却することを定めることができる。ただし、一個の申立てにより強制競売の開始決定がされた数個の不動産のうち、あるものの買受可能価額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある場合には、債務者の同意があるときに限る。

(不動産執行の規定の準用)
第百八十八条  第四十四条の規定は不動産担保権の実行について、前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)の規定は担保不動産競売について、同款第三目の規定は担保不動産収益執行について準用する。