1 一定のカテゴリの債権は『優先』される|先取特権
2 先取特権の種類・整理
3 先取特権の優先順位|特別の先取特権が強いが登記が必要なこともある
4 特別法上の先取特権|税金・マンション管理費
5 先取特権の『実行』は『判決(債務名義)』なしでも申立可能
6 商品納入後に取引先が滞納→倒産状態→動産先取特権|活用例

1 一定のカテゴリの債権は『優先』される|先取特権

<先取特権の趣旨>

あ 複数の債権の扱いの原則論

債権者平等の原則
《具体例》
差押における配当は『債権額で按分』される

い 先取特権の特徴

一定の種類の債権については『優先扱い』となる
『合意』その他の手続は不要

う 先取特権の『優先扱い』の内容

ア 債務名義がなくても差押・競売ができる
イ (他の債権者よりも)優先弁済・配当が受けられる
ウ (特別の先取特権のみ)債務者の破産でも優先権が維持される;別除権
※破産法2条9号,65条1項

債権回収の場面において,債権者同士が競合することがあります。
この場合の原則は『平等』です。
一定の債権について,優先的な特別扱い,というルールがあります。
逆に,一般論としては,複数の債権者は『平等』とされているのです。
この『債権者平等の原則』の例外の1つが『先取特権』です。
優先的な扱いがされるのです。
抵当権などと同じ『担保物権』の1つです。
抵当権と違い『合意(契約)』がなくても『優先扱い』となります。
この『種類』に該当しさえすれば,当事者が『優先扱い』の約束(合意)や手続をしていなくても『優先扱い』となります。
当事者が先取特権の制度を知らない場合でも適用されます。
その意味で,先取特権は『法定担保物権』という性質とされます。

2 先取特権の種類・整理

(1)先取特権の種類|大分類

先取特権は,法律上『種類(類型)』が列挙されています。
これに該当するかどうか,だけで『適用の有無』が決まります。

<先取特権の種類|大分類>

種類(大分類) 担保となる財産 手続
一般先取特権 債務者の『総財産』 不要
動産先取特権 債務者の『特定の動産』 不要
不動産先取特権 債務者の『特定の不動産』 登記が必要

※『特別の先取特権』=動産先取特権+不動産先取特権(総称)

(2)一般先取特権の種類

<一般先取特権の種類|小分類>

次の費用について,債務者の『総財産』が担保となる

あ 共益の費用;民法307条

各債権者の共同利益のために要した費用
例;債務者の財産の保存・清算・配当に関する費用

い 雇用関係

雇用主と従業員との間の雇用関係に基づいて生じた債権
例;給与などの賃金

う 葬式の費用;民法309条

債務者or債務者の扶養親族のためにされた葬式の費用
金額が過剰な場合は『相当の額』に制限される

え 日用品の供給;民法310条

債務者or債務者の扶養する同居の親族の日用品の費用
最後の6か月間の飲食料品・燃料・電気の供給

(3)動産先取特権の種類

<動産先取特権の種類|小分類>

次の各種類の取引の対象である『特定の動産』が担保となる

あ 不動産の賃貸借;民法312条〜

ア 担保される債権(債務)
不動産の賃貸借関係から生じた賃借人の債務
例;賃料
イ 対象となる財産
賃借人がその建物に備え付けた動産

い 旅館の宿泊;民法317条〜
う 旅客・荷物の運輸;民法318条〜
え 動産の保存;民法320条
お 動産の売買;民法321条
か 種苗・肥料・蚕種・蚕飼養用桑葉の供給;民法322条
き 農業の労役;民法323条
く 工業の労務;民法324条

<動産先取特権の限界>

債務者がその目的である動産を第三者に引き渡した後は先取特権の行使はできない
※民法333条

(4)不動産先取特権の種類

<不動産先取特権の種類|小分類>

次の各種類の取引の対象である『特定の不動産』が担保となる
ただし,一定の『登記』が必要とされる

あ 不動産の保存;民法326条

・不動産の保存のために要した費用
・不動産に関する権利の保存・承認・実行のために要した費用

い 不動産の工事;民法327条

不動産の工事の設計・施工・監理をする者が負担した工事の費用

う 不動産の売買;民法328条

不動産の代金・利息

3 先取特権の優先順位|特別の先取特権が強いが登記が必要なこともある

先取特権はネーミングどおり,『一般的な債権』よりも優先的な扱いとなります。
一方で『先取特権同士』『他の担保権』との優劣関係は細かいルールがあります。

<先取特権の優先順位>

あ 一般の先取特権同士;民法329条

上記の順序(条文順)

い 一般の先取特権vs特別の先取特権

特別の先取特権(=動産先取特権or不動産先取特権)が優先する

う 動産先取特権同士;民法330条

上記の順序(条文順)

え 不動産先取特権

上記の順序(条文順)

お 不動産先取特権vs抵当権(約定担保権)

ア 『保存』『工事』の先取特権vs抵当権
先取特権が優先する
※民法337〜339条
イ 『売買』の先取特権vs抵当権
登記の順による
※民法337〜339条の反対解釈

4 特別法上の先取特権|税金・マンション管理費

(1)特別法上の先取特権|まとめ

『先取特権』として,民法に規定されたものを以上で説明しました。
『先取特権』は,民法以外で規定されたものもあります。
債権者の立場・債権回収の場面では,『盲点』となりがちです。
債権回収では『他の債権者』『他の債権』との『優劣関係』が結果に直結する重要なことなのです。

<特別法上の先取特権>

先取特権を定める特別法 担保される債権(債務) 対象となる財産
国税徴収法8条 国税 納税者の総財産
地方税法14条 地方自治体の徴収金 納付者の総財産
建物区分所有法7条 管理組合の債権(マンション管理費) 区分所有権
借地借家法12条(※1) 借地の地代 借地上の建物

(2)借地権設定者の先取特権(上記※1)

<借地権設定者の先取特権|まとめ>

あ 前提条件(要件)

借地について地上権or賃借権の登記がある

い 担保される債権

過去2年に弁済期が到来した地代等

う 担保となるもの

借地上の建物

え この先取特権よりも優先されるもの

ア 先取特権
共益費用・不動産保存・不動産工事の先取特権
イ 約定担保権
登記上先行する担保権(抵当権・根抵当権・質権)
※借地借家法12条

借地権設定者の先取特権は条件が『地上権or賃借権の登記』です。
一般的な借地について『地上権・賃借権の登記』が行われることはレアです。
『借地上の建物の登記』で代用できるからです(借地借家法10条1項)。
この点『借地権設定者の先取特権』の条件としては『建物登記による代用』は適用されないと一般的に解釈されています。
これについてまとめておきます。

<借地権設定者の先取特権|『登記』の要件>

効力 地上権・賃借権の登記 建物登記による代用
『借地権』対抗要件
借地権設定者の先取特権

※基本法コンメンタール借地借家法 日本評論社p94,p253
※斉藤・不動産体系3p408〜

立法趣旨では『地上権・賃借権登記』についての地主のメリット→地上権・賃借権登記の促進,というものでした。
しかし,実際に『借地人が地代を滞納した』という場合の地主の対応は他にもあります。
トータルで考えると『借地権設定者の先取特権』は,地主にとってのメリットとして弱いのです。

<地代滞納に対するオーナーの対応|整理>

手段 最終結果
解除→明渡請求 更地として戻ってくる
借地権設定者の先取特権 最大地代2年分を優先的に回収できる+貸地は続く

通常は,地主にとっては『更地として戻ってくる』方が大幅に有利です。
『借地権設定者の先取特権』は,相対的に『有利ではない』のです。
そのため,『立法趣旨は機能しない』=『地上権・賃借権登記が普及しない』という状態なのです。

5 先取特権の『実行』は『判決(債務名義)』なしでも申立可能

抵当権の場合,設定の時点で,担保設定の『契約書』を作るのが普通です。
一方,先取特権の場合『担保設定』という意図的・積極的なプロセスは通常ありません。
先取特権の実行=差押・競売の申立の時に添付する『先取特権の証拠』が『ない』ことが多いのです。
これについて,以前は『判決』が必要でしたが,現在は民事執行法改正により大幅に緩和されています。

<先取特権の実行=差押・競売の申立時の必要書類>

あ 不動産の競売申立

ア 不動産先取特権
登記をした上で→『登記事項証明書』提出
イ 一般先取特権
『先取特権の存在』を証する文書提出

い 動産の競売申立

ア 債務者の協力が得られる場合
次のいずれか
・債権者が対象動産を預かる→執行官に提出
・債権者が債務者の『同意書』を得る→執行官に提出
イ 債務者の協力が得られない場合(通常のケース)
『先取特権の存在』を証する文書を裁判所に提出
→『裁判所の許可』
→執行官に提出

う 債権の差押

担保権の存在を証する文書を裁判所に提出

え 特許権などの『登録可能な財産』の競売申立

『確定判決』or『公正証書』を裁判所に提出

詳しくはこちら|担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件

6 商品納入後に取引先が滞納→倒産状態→動産先取特権|活用例

例えば『取引先の倒産』の際に活躍するのは『動産先取特権』です。
既に納入済の製品・商品を引き上げることを狙います。

<納入済の製品・商品の引き上げ・確保の方法>

あ 相手が協力的である場合

『売買契約の合意解除』の書面に調印
商品を任意に返還してもらう

い 相手が協力的ではない場合

『先取特権の存在』について裁判所の許可を得る
→商品について『動産競売申立』を行う