【仮登記担保|適用対象・実行方法・清算方法】

1 仮登記担保の要件
2 仮登記担保法の制度趣旨
3 譲渡担保と仮登記担保は,所有権移転時期第三者の関与の影響,が異なる
4 仮登記担保の実行方法は,見積額の通知清算金の支払
5 『差額』が生じる場合は,清算金として所有者に払う義務がある
6 2か月の待機期間は,評価額への反論の機会+受戻しが可能
7 仮登記担保法は強行法規性があるため,債務者に不利な特約は無効
8 仮登記担保も抵当権と同様に『法定借地権』が生じる
9 弁済による代位×仮登記担保|概要

1 仮登記担保の要件

仮登記担保法の適用を受ける『仮登記担保』とは次のような要件です(仮登記担保法1条)。
契約書のネーミングがどのようなものであっても,この要件に該当すると『清算義務』などのルールが適用されます。

仮登記担保の要件>

あ 金銭債務の担保

金銭債務(債権)を担保する目的の契約である

い 『不履行』がトリガー→権利移転

不履行の際,債務者または第三者(物上保証人)から債権者に,財産(権利)が移転することを目的とする契約である

う 契約の類型は限定されない

代物弁済予約停止条件付代物弁済契約売買予約等の形式の契約である

2 仮登記担保法の制度趣旨

実務上,次のような担保確保方法が編み出され,利用されてきました。
譲渡担保に類似するものです。

<仮登記を利用した不動産担保方法>

・債権者名義の所有権移転仮登記を行っておく
・仮に弁済が不履行となった場合に,本登記に改める

しかし,少額の貸付金のカタとして,高価な不動産が取り上げられてしまう,という不合理な運用による弊害も生じました。
そこで,仮登記担保法,を制定し,実行方法などについて明文ルール化がなされたのです。
不当な運用がされないよう,実行時の清算義務などが規定されています。

3 譲渡担保と仮登記担保は,所有権移転時期第三者の関与の影響,が異なる

譲渡担保仮登記担保は似ていますが,別の形式です。

(1)譲渡担保と仮登記担保は所有権移転時期が違う

譲渡担保仮登記担保の所有権移転時期の違い>

・譲渡担保=設定時
 解釈上,移転する所有権は確定的ではない=形式的,とされています。
・仮登記担保=実行時

譲渡担保の場合,文字どおり,譲渡することが担保機能となっています。
仮登記担保の場合,仮登記が担保です。
つまり,設定時は仮登記を行うが,所有権そのものが移転するわけではない,ということです。
そして,債務不履行があった場合の実行として,所有権を債権者に移転させるということになるわけです。

(2)譲渡担保と仮登記担保は第三者が関与した時の効果が違う

<第三者が関与した時の効果>

あ 譲渡担保

債権者が担保物を第三者に譲渡できてしまう。
債権者の債権者から差押を受ける可能性がある。

い 仮登記担保

債務者が担保物を第三者に譲渡できてしまう。
債務者の別の債権者から差押を受ける可能性がある。
※ただし,最終的には仮登記後の譲渡は否定されることになります。

(3)譲渡担保と仮登記担保の違いのまとめ

<譲渡担保と仮登記担保の違いのまとめ>

あ 譲渡担保

所有権が最初から債権者に移ってしまう。
債権者としては実行が容易なので便利。
債務者としてはリスクが高い。

い 仮登記担保

所有権は実行まで債務者に残る。
債権者としては実行時に一定の時間・手間がかかる。
債務者としては,リスクが低い。

4 仮登記担保の実行方法は,見積額の通知清算金の支払

仮登記担保の実行方法は法律上規定されています。

<仮登記担保の実行方法>

あ 清算金の見積額の通知

債権者から債務者または物上保証人に通知する
※仮登記担保法2条

い 2か月の経過(仮登記担保法2条)

『あ』の通知が債務者に到達してから2か月経過後
→所有権が債権者に移転する
※最高裁平成3年4月19日

う 『清算金』の支払

『清算金』が生じている場合
→債権者から債務者(物上保証人)にこれを支払う必要がある
この実行方法が仮登記担保法によるルールの要である
次の弊害を封じている
弊害=少額の債権のカタとして高額の不動産を取り上げる
※仮登記担保法3条

5 『差額』が生じる場合は,清算金として所有者に払う義務がある

<「清算金」算定方法>

清算金 = 目的物の価格 − 被担保債権額

まさに,少額の債権の対価として高額の不動産を取り上げる,を防止する趣旨です。
『差額』を金銭として債務者に戻す,というものです。

6 2か月の待機期間は,評価額への反論の機会+受戻しが可能

(1)待機期間は評価額への反論の機会

見積額の通知から所有権の移転までの間に2か月間が待機期間として必要です。
この待機期間は,『評価額(清算金額)が不当な場合の反論の機会』という趣旨です。
例えば,債権者が担保不動産の評価額を不当に低く見積もったような場合,債務者としては対抗して評価を行います。
正式・本格的に評価を行う場合,不動産鑑定士に依頼するなど,一定の時間を要するのです。
このような準備は,債権者から本登記の請求について提訴や仮処分申立がなされた時に対抗することになった場合に役立ちます。

(2)待機期間中に受戻権が行使できる

また,元々が金銭の借入(債務)ですので,返済さえ行ってしまえば,代物弁済はなかったものとして扱うことになっています。
これを『受戻権』と呼んでいます。
※仮登記担保法11条

7 仮登記担保法は強行法規性があるため,債務者に不利な特約は無効

仮登記担保法は,制定の経緯から,一定の不当な契約,取引を禁止するという趣旨です。
つまり,合意,契約の設定の自由を否定するところが根幹なのです。
合意が優先という一般論は排除されています。
※仮登記担保法3条3項
これを強行法規性と言います。
例えば,契約書上に『実行方法を簡略化,短縮化する』条項,特約があっても,これは無効となります。

8 仮登記担保も抵当権と同様に『法定借地権』が生じる

<事例設定>

土地,建物のうち土地だけについて仮登記担保を設定した
実行により第三者Aが土地を取得した
Aは建物所有者に対して,建物の撤去を請求する

単純に考えると,『土地利用権』がない状態→『不法占拠状態』です。
土地所有者の明渡請求は認められるはずです。
しかし,建物を解体せざるを得ない,というのは社会経済的に不合理です。
そこで,法律上,予めこのようなことについてルールが規定されています。
「法定借地権」という土地利用権が認められるのです。
※仮登記担保法10条
これは抵当権における法定地上権と同様のルールです。
※民法388条
仮登記担保は,形式こそ『代物弁済予約』などですが,実質的には担保です。
抵当権と同様のルール設定が妥当という考えに基づきます。
なお,民法388条では地上権ですが,仮登記担保法10条では賃借権となっています。

法定借地権の内容>

あ 法定借地権の要件

※いずれも
・土地,建物の所有者が同一である
・土地だけに仮登記担保がなされた

い 法定借地権の内容

建物所有目的の土地賃借権(=借地権)が成立する
別項目;土地賃貸借;借地借家法;建物所有目的

9 弁済による代位×仮登記担保|概要

一般的な担保物件では弁済による代位という制度があります。
これは仮登記担保にも適用されます。

<弁済による代位×仮登記担保|概要>

弁済による代位について
→仮登記担保にも適用される
詳しくはこちら|一部弁済による代位|基本

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