東京高判令和4年7月7日|シフト制アルバイトの合意退職は否認され、賃金は復職要求後の分だけ認められた
1 東京高判令和4年7月7日|シフト制アルバイトの合意退職は否認され、賃金は復職要求後の分だけ認められた
シフト制で働くアルバイトが、ある時期からシフトを提出しなくなり、使用者の側も退職したものとして社会保険の資格喪失手続をとる。数か月後に労働組合を通じて復職を求めたが拒まれ、地位の確認と賃金を求めて提訴した、という事案です。
争われたのは3つです。合意退職があったか、使用者の主張する解雇が有効か、そして就労できなかったことが使用者の責めに帰すべき事由によるかと、認められる賃金はいくらかです。
本記事では、この判決が何を判断したかを順に説明します。シフト制の賃金請求の法律論そのものは、別の記事で説明しています。
シフトが指定されない期間も、最低労働日数の黙示の合意があれば賃金は失われない
2 結論——合意退職は否認、賃金は令和2年3月以降の分(まとめ)
この判決が示した判断は次のとおりです。
この判決から取り出せる規範と、明示されなかったこと
あ 判決が明示した規範
(ア)退職の意思表示について書面がなく、使用者による意思の確認も明確でなく、退職時期も判然としない→確定的な退職の意思表示とは認め難い(鍵の所持・私物の放置・復職の意思の表明が反対方向に働く)(イ)使用者が人員補充のため新たに雇い入れている間は、復職の要求を受けた後に直ちに復職させなくても帰責事由があるとまでは認められない(ウ)復職の意思を明確に認識しながら新たに人を雇用した時点以降は、就労させることが可能であったとして帰責事由が認められる(エ)使用者が一貫して合意退職を主張して雇用契約上の地位を争っているときは、労働者がシフトを提出していなくても帰責事由の判断を左右しない(オ)時給制で労働時間がシフト表により定まる契約では、直前4か月の1か月平均労働時間(本件は95時間)に時給を乗じた額が相当とされた(自ら日数を減らした経過と感染症による休業・時短を考慮)(カ)解雇事由を認めるに足りる客観的証拠がなく、その後も新規採用と新店舗の開店をしている→人員削減の必要性も認められず解雇権の濫用
い 判決に明示なし
(ア)最低労働日数・最低労働時間数の合意があったかは認定していない(賃金額は合意ではなく直前の実績の平均から出した)(イ)シフトを指定しなかったことをシフト決定権限の濫用として扱う構成には触れていない
3 事案——週6日の勤務が平成31年1月から激減し、3月13日以降シフト未提出
労働者は平成20年8月頃から時給制のアルバイトとして寿司店で働き、平成30年12月頃までは遅番を中心に週6日程度勤務していました。店ではシフト表を作るにあたり、アルバイト従業員の週の勤務日数が明確に決められておらず、各自がシフトを提出する際の希望によって勤務日が定まる運用でした。
平成31年1月以降、勤務希望日が激減し、同年3月13日以降はシフトを提出せず、出勤もしなくなります。使用者は同月14日の店長会議で新規採用を決め、同月末頃に社会保険と雇用保険の資格喪失手続をとりました。労働者は同年8月9日頃に労働組合を通じて復職を求め、同年10月から5回にわたる団体交渉でも復職を求めています。
週の勤務日数は明確に決められず希望で定まる運用→従前は遅番中心に週6日程度
ア 本件寿司店では、シフト表を作成するに当たってアルバイト従業員の週の勤務日数等は明確に決められておらず、各アルバイト従業員がシフトを提出する際の希望によって勤務日が定められるという運用がされており、例えば、アルバイト従業員が希望すれば特定の期間については週1日のみの勤務とするということもあった。
原告は、平成30年12月までは、遅番を中心に週6日程度勤務しており、早番の時間帯から遅番の時間帯にかけて勤務することもあった。
※東京地方裁判所 2021-03-30 労判 1276号32頁<参考収録・原審>/ウエストロー・ジャパン
4 第一審は帰責事由を否定——退職の予告と連絡の断絶を労働者側の事情と見た
第一審は、地位の確認は認めたものの、賃金請求を全部棄却しました。合意退職は成立していないとしながら、就労しなかったことを労働者側の事情と見たからです。
退職する旨の予告をして出勤せず、1か月近く連絡をせず、連絡がついた日にも復帰時期を明らかにしなかったという経過を重く見て、その後に組合を通じて復職を求め提訴したことをもって当然に就労の意思があったとは認められない、としています。
復職を求めて提訴したことをもって当然に就労の意思があったとは認められない
このことに照らすと、その後に原告が本件労働組合を通じて復職を求め、本件訴訟を提起して地位確認と賃金の支払を求めるなどしたこと(前提事実(5)イ、認定事実(2)エ)をもって、当然に原告に就労の意思があったと認めることはできない。そのほか、原告に就労の意思があったと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、原告が同月1日以降就労しなかったのは、被告が原告による労務の受領拒絶をしたことによるものとは認められない。
※東京地方裁判所 2021-03-30 労判 1276号32頁<参考収録・原審>/ウエストロー・ジャパン
第一審の結論=被告の責めに帰すべき事由によるものと認めることはできない
(4) 以上に述べたところによれば、原告が平成31年4月1日以降に就労しなかったのは、被告の責めに帰すべき事由によるものと認めることはできず、原告の同日以降の賃金請求は理由がない。
※東京地方裁判所 2021-03-30 労判 1276号32頁<参考収録・原審>/ウエストロー・ジャパン
5 判示1——書面がなく退職時期も判然としない→確定的な退職の意思表示でない
控訴審は、まず合意退職を否認しました。使用者は、最終出勤日に労働者が「もう来ない。保険等いろいろあるので、4月半ばぐらいになると思います。」と述べたことをもって退職の意思表示があり、これを承諾したと主張していました。
判決は、使用者が従業員の新規採用や資格喪失手続に着手したことから、使用者が任意の退職と考えたこと自体は推認できるとしたうえで、退職の意思表示について書面がなく、使用者による意思の確認も明確に行われておらず、退職時期も判然としないことを指摘します。そのうえで、労働者が最終出勤日以降も店舗の鍵を所持し私物を置いたままにしていたこと、電話とメッセージで退職を強く否定し一時休職するが復職の意思がある旨を述べていたことから、確定的な退職の意思表示があったと認めることは困難であり、黙示の退職の意思表示も認められないとしました。
書面なし・退職時期が判然としない・鍵と私物・復職の意思の表明→確定的な退職の意思表示とは認め難い
しかしながら、控訴人による退職の意思表示については何ら書面が作成されていないところ、被控訴人による控訴人の退職の意思の確認も明確には行われておらず、被控訴人の上記主張によっても、控訴人の退職時期が判然としない上、控訴人は最終出勤日の勤務以降も本件寿司店の店舗の鍵を所持し、同店舗に私物を置いたままにしていたこと(前記認定事実(1)エ)、同年4月10日にH店長と電話をした際や令和元年5月7日にH店長に送信したLINEのメッセージにおいて、退職の意思表示をしたことを強く否定し、一時休職するものの復職の意思がある旨述べていたこと(同(2)イ(ア))からすれば、控訴人の最終出勤日の勤務前後の言動から、控訴人が被控訴人に対して確定的な退職の意思表示をしたと認めることは困難である。また、上記事情に照らすと、控訴人から被控訴人に対して黙示の退職の意思表示があったと認めることもできない。
※東京高等裁判所 2022-07-07 労判 1276号21頁/Westlaw Japan
6 判示2——就業規則の解雇事由に当たらず、解雇の主張はいずれも理由がない
使用者は控訴審で、通知書面・メッセージ・第1回団体交渉・附帯控訴状の4つをもって解雇したとも主張しました。判決は、前の3つについて解雇したとの記載がなく、使用者自身が原審の口頭弁論終結まで合意退職であると主張していたことから、解雇の意思表示があったとは認められないとします。
附帯控訴状による解雇については、無断欠勤・業務命令違反・協調性欠如などの事由を認めるに足りる客観的な証拠がなく、労働者は10年以上にわたりアルバイトでありながら正社員並みに勤務していて、その間に使用者が問題としたり注意処分をしたこともうかがえないとして、解雇事由を否定しました。感染症の影響による事業縮小という理由も、その後も新規採用を行い新店舗を開店していることから人員削減の必要性が認められないとしています。
解雇事由を認めるに足りる客観的証拠なし・人員削減の必要性もなし
しかしながら、控訴人に、無断欠勤、手続・届出義務違反、業務命令違反、職場秩序妨害、退職要求、就業状況不良、協調性欠如等の事由があったことを認めるに足りる客観的な証拠は存在しない(なお、乙44、49から控訴人が無断欠勤を繰り返していたとまでは認め難い。)。むしろ、控訴人は、平成20年8月頃から平成30年12月頃まで、本件寿司店において、アルバイト従業員でありながら、遅番を中心に週6日程度、正社員並みに勤務していたのであって(前記前提事実(2)ア、前記認定事実(1)ア)、その間、被控訴人が上記事由を問題としたり、控訴人に注意処分等をしたともうかがえず、控訴人に上記解雇事由は認めるに足りない。
また、被控訴人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、本件寿司店の営業を縮小し、アルバイト従業員のシフトを減らしているとして、事業の縮小を理由に控訴人を解雇した旨主張する。
しかしながら、被控訴人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大後も、本件寿司店や、その系列店においてアルバイト従業員の新規採用を行っていること(甲18、乙55)、令和3年8月6日に○○に新店舗を開店していること(甲17)などからして、人員削減の必要性が認められない。
※東京高等裁判所 2022-07-07 労判 1276号21頁/Westlaw Japan
解雇①ないし④の主張はいずれも理由がない→雇用契約上の権利を有する地位にある
(3) 以上によれば、被控訴人の控訴人に対する本件解雇①ないし④の主張にも理由はなく、控訴人は、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にある。
※東京高等裁判所 2022-07-07 労判 1276号21頁/Westlaw Japan
7 判示3——復職要求より前は帰責事由なし、以後は就労させることが可能だった
帰責事由については、期間を2つに分けました。労働組合を通じて要求書を送付した時点までは、労働者が復職時期を明確にしておらず、その間に使用者が人員を補充するため新たにアルバイトを雇い入れていたのであるから、要求書を受け取った後に直ちに復職させなかったとしても帰責事由があるとまでは認められないとします。
もっとも、要求書の送付と5回の団体交渉で復職を求めており、使用者も復職の意思を明確に認識しながら、翌年3月に新たにアルバイト2名を雇用したことから、同月以降は就労させることが可能であったとして、以後の期間について帰責事由を認めました。
分かれ目は、労働者が復職の意思を明確にしたかどうかと、それを認識した使用者が現に人を雇い入れたかどうかです。
要求書の送付までは帰責事由なし→団体交渉で復職を求めた以後は就労させることが可能だった
上記によれば、控訴人は、被控訴人に対し、本件要求書を送付した同年8月9日頃まで、本件寿司店への復職時期を明確にしていなかったことが認められるところ、この間、被控訴人においては、本件寿司店の人員を補充するため、新たにアルバイト従業員を雇い入れるなどしていたのであるから、被控訴人が本件要求書の送付を受けた後、直ちに控訴人を復職させなかったのだとしても、被控訴人の責めに帰すべき事由により控訴人が就労することができなかったとまでは認められない。
もっとも、控訴人は、同年8月9日頃、本件労働組合を通じて、被控訴人に対し、本件要求書を送付し、本件寿司店への復職を求めた上、同年10月1日から令和2年1月17日まで5回にわたる団体交渉においても本件寿司店への復職を求めていたことが認められ(前記認定事実(2)エ)、被控訴人においても、控訴人に本件寿司店への復職の意思があることを明確に認識しながら、同年3月、本件寿司店において、新たにアルバイト従業員2名を雇用したことからすれば(乙55)、同月以降については、控訴人を本件寿司店で就労させることは可能であったと認められるから、控訴人は被控訴人の責めに帰すべき事由により就労することができなかったと認めることができる。
※東京高等裁判所 2022-07-07 労判 1276号21頁/Westlaw Japan
8 判示4——合意退職を争う使用者の下では、シフト未提出は判断を左右しない
使用者は、労働者が復職を求める際にもシフトを提出していないと主張していました。判決はこれを退けています。
使用者が団体交渉以降、一貫して合意退職を主張して雇用契約上の地位を争っていたのであるから、シフトを提出していなかったとしても帰責事由の判断を左右しない、という理由です。シフト制で労務提供の申出がシフトの提出という形をとる場合に、使用者の側が契約の存在そのものを争っているときは、提出を欠いたことを労働者の不利益に数えない、ということになります。
合意退職を主張して地位を争っていた→シフト未提出は帰責事由の判断を左右しない
なお、被控訴人は、上記団体交渉以降、一貫して控訴人の合意退職を主張して、控訴人が雇用契約上の権利を有する地位にあることを争っていたのであるから、控訴人が復職を求める際にシフトを提出していなかったとしても、同月以降、控訴人は被控訴人の責めに帰すべき事由により就労することができなかったとの判断を左右することはない。
※東京高等裁判所 2022-07-07 労判 1276号21頁/Westlaw Japan
9 額の算定——直前4か月の1か月平均労働時間(約95時間)に時間給を乗じた額
認められる賃金額について、労働者は時間外と深夜の割増賃金も含めた平均賃金月額29万3220円を主張しました。判決はこれを採らず、算定の基礎を組み替えています。
契約が時給制で労働時間はシフト表により定まること、各自が希望のシフトを提出し店長が調整して具体的勤務日を決めること、労働者が平成30年12月以降は自ら勤務日数を減らしていたこと、そして店舗が感染症の影響で休業と営業時間の短縮を余儀なくされ深夜営業ができない期間が長期に及んだことを挙げ、直前4か月の平均労働時間である1か月95時間に時給1300円を乗じた12万3500円が相当であるとしました。
月30万円程度の収入が得られるよう勤務日や勤務時間を決める合意があったという主張も、使用者が収入を確約していたと認めるに足りる証拠はないとして退けられています。
自ら日数を減らした経過と感染症の影響→平均労働時間1か月95時間×時給1300円=12万3500円
上記によれば、控訴人は、平成30年12月以降、自ら勤務日数を減少させていた上、本件寿司店は、令和2年4月以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、休業や営業時間短縮を余儀なくされ、深夜営業ができない期間が長期に及んでいるのであって、かかる事情の下においては、控訴人が被控訴人の責めに帰すべき事由により就労することができなかった令和2年3月以降に支給を受けられたとする賃金については、控訴人の平成30年3月から平成31年2月までの間の時間外、深夜の割増賃金も含めた平均賃金月額29万3220円とするのは相当でなく、控訴人の平成30年12月から平成31年3月までの平均労働時間である1か月95時間(本件店舗の令和2年3月以降の営業の実情等にかんがみれば、休業等の期間があったことや深夜の営業がほとんどなくなったことを考慮しても、上記平均労働時間程度の労働は可能であったと考えられる。)に時給1300円を乗じた12万3500円と認めるのが相当である。
※東京高等裁判所 2022-07-07 労判 1276号21頁/Westlaw Japan
10 判決が決めていないこと——下限の合意の認定とシフト決定権限の濫用
この判決は、シフト制について最低労働日数や最低労働時間数の合意があったかを認定していません。賃金額は合意からではなく、直前の実績の平均から出されています。
また、使用者がシフトを指定しなかったことをシフト決定権限の濫用として扱う構成にも触れていません。本件で争われたのは合意退職と解雇であって、シフトの削減そのものの違法性ではないからです。
11 おわりに——シフト制の賃金請求は3つの構成に分かれる(概要)
シフトが指定されない期間の賃金請求には3つの構成があり、それぞれ別の記事で説明しています。
シフトが指定されない期間も、最低労働日数の黙示の合意があれば賃金は失われない
下限の合意がなくても、合理的理由のない大幅なシフト削減はシフト決定権限の濫用
労基法26条は民法536条2項より広い=賃金が立たなくても平均賃金6割の床
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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