日数に応じない遅延損害金は賠償額の予定になり、率の高さだけでは無効にならない

1 日数に応じない遅延損害金は賠償額の予定になり、率の高さだけでは無効にならない

賃料や売買代金の支払が遅れたときに備えて、契約書に遅延損害金の定めを置くことがあります。年率で書くのが通常ですが、1回いくら、賃料の何パーセント、という日数に連動しない形で定めることもあります。

このような定めについては、民法が金銭債務の損害賠償について置いた算定方式との関係と、額が高いときにどこまで有効なのかが問題になります。

本記事では、日数に応じない遅延損害金の定めがどのような性質のものとして扱われるのか、額の過大性をどのように測るのかを説明します。

無効になるための要件と、無効になったときの効果は、別の記事で説明しています。

暴利行為|窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得は民法90条で無効

2 民法419条1項の外→420条1項の賠償額の予定・無効は90条(まとめ)

日数に応じない定めは、金銭債務の特則の枠から外れて賠償額の予定として扱われ、額が過大なときは公序良俗違反の問題になります。

日数に応じない遅延損害金の扱い

(ア)日数に応じて計算しない定めは、民法419条1項の算定方式の外にある(イ)違約金は賠償額の予定と推定されるので、日数に応じない定めも賠償額の予定として扱われる(ウ)過大性は実効年利へ換算して測る=上限を定めた規定は、日数に応じた定めと金銭消費貸借にしか直接は届かない(エ)率が高いだけでは無効にならない=無効は公序良俗違反の判断で、契約類型によって出番の大きさが違う

3 民法419条1項|損害賠償の額は利率による算定→日数に応じない定めは枠外

金銭債務の不履行による損害賠償の額は、民法419条1項が決めています。遅滞に陥った最初の時点の法定利率によるのが原則で、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によります。

この算定方式は利率によるものなので、遅れた日数に比例して額が増えます。1回いくら、元本の何パーセント、という定め方は、この算定には乗りません。

条文

民法419条1項=金銭債務の損害賠償の額は法定利率・約定利率による

金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。

※民法419条1項

4 日数に応じない定め=民法420条1項の賠償額の予定

419条1項の算定に乗らない定めは、民法が別に置いた賠償額の予定の規定で受けることになります。推定の働き方と、学説が立てている区別の視点を順に見ていきます。

(1)民法420条3項|違約金は賠償額の予定と推定→疑わしいときも予定の側

民法420条1項は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することを認めています。同条3項は、違約金を賠償額の予定と推定するという形で、当事者が違約金と名づけた定めを予定の側へ寄せています。

条文

民法420条1項・3項=賠償額の予定はできる・違約金は予定と推定

当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。

※民法420条1項

違約金は、賠償額の予定と推定する。

※民法420条3項

この推定の趣旨は、ほかの場面にも及んでいます。注釈民法は、売買の違約手付について、債務不履行があっても別に損害賠償を請求できる形と、手付の額で賠償額を予定した形の2つがあるとしたうえで、次のように述べています。

書籍

違約罰と賠償額の予定のいずれか疑わしいとき→賠償額の予定(民法420条3項の趣旨)

上の両者のうち、いずれが存するかについて疑いあるときは、後者が存するものと解すべきである(同説:我妻・中I261、広中53、相原・前掲論文59)。
けだし、その方が当事者の一般的な意思に近いと思われるのみならず、
民法(420III)が違約金をもって賠償額の予定と推定している趣旨から考えても、違約手付についても同様の推定を許すものと考えられるからである。

※柚木 馨・高木 多喜男編『新版 注釈民法(14)』有斐閣2010年 10月p173

(2)填補目的と抑止目的を区別する視点→現行法になし・区別は学説の提言

もっとも、予定された額が実際の損害を埋めるためのものか、不履行を抑えるためのものかは、定め方によって重さが違います。日数に応じない定めは、遅れた分を埋めるという説明が付きにくい分だけ、不履行を抑える側の性格が強く出ます。

現行法はこの2つを分けていません。改正後の文献は、競業避止義務の約定について論じるなかで、次のように述べています。

書籍

民法420条には填補目的と抑止目的を区別する視点がない→区別して扱うのが望ましい

そうであるとしても、そこで用いられている約定を民法420条の違約金または損害賠償額の予定から区別する視点が存在しない以上、民法一般の議論と矛盾しない形で、競業避止義務に特有の取扱いを正当化する必要がある。
以上によると、内容規制および権利行使規制の次元で、債務不履行の抑止という目的を含む合意をどのように取り扱うか、という問題については、ドイツと同様に、損害の塡補を主要な目的とする合意からこのような合意を区別して、債務不履行の抑止という目的175)を考慮した規律に服させることが望ましいと考えられる。

※河野航平著『損害賠償法と損害賠償額の予定』慶應義塾大学出版会2026年 4月p135

5 過大性は実効年利への換算で測る=上限の規定は日数連動型と消費貸借だけ

賠償額の予定として扱われるとしても、額に上限が無いわけではありません。上限を定めた規定は2つありますが、どちらも文言で射程が区切られています。順に見たうえで、日数に応じない定めをどう測るのかを整理します。

(1)消費者契約法9条1項2号|日数に応じた年14.6%が合算額の上限

1つめは消費者契約法です。同法9条1項2号は、支払期日までに支払わない場合の損害賠償の額の予定と違約金について、これらを合算した額の上限を定めています。上限は支払をする日までの日数に応じた計算の形で書かれているので、日数に応じない定めをこの式に当てはめることはできません。

条文

消費者契約法9条1項2号=日数に応じた年14.6%を超える部分は無効

次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

※消費者契約法9条1項

当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの
当該超える部分

※消費者契約法9条1項二号

(2)消費者契約法2条1項|事業のための賃貸借は消費者契約の外

この上限が働くのは消費者契約に限られます。同法2条1項の消費者は、個人のうち事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除いたものなので、事務所や店舗として借りる場合は、借主が個人事業主であっても消費者から外れます。

条文

消費者契約法2条1項=事業のために契約の当事者となる個人は消費者から除く

この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。

※消費者契約法2条1項

(3)利息制限法4条1項|元本に対する割合の上限は1条の率の1.46倍・消費貸借だけ

2つめは利息制限法です。同法4条1項は、賠償額の予定について、その額の元本に対する割合が1条に規定する率の1.46倍を超えるときに、その超過部分を無効としています。分母が元本なので、1回いくらという定めでも割合を出すことができます。

ただし対象は金銭を目的とする消費貸借上の債務に限られるので、賃料や売買代金の支払遅滞には直接は働きません。

条文

利息制限法4条1項=消費貸借の賠償額の予定は元本に対する割合で制限

金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

※利息制限法4条1項

(4)換算の分母=定期の債務は支払期日ごとの額・1回払いは元本

2つの規定は日数に応じない定めへ直接には届きませんが、額が過大かどうかを測るときの目安になります。測り方は、定めた額を実効年利へ換算して、これらの率と並べることです。

換算の分母は債務の形で変わります。賃料のように支払期日が繰り返し来る債務では、1回の支払期日に支払うべき額を分母にして、遅れた日数で割り戻します。1回払いの債務では元本を分母にします。

換算した率を他の場面の数値と並べるときの目安は、別の記事で説明しています。

暴利行為の客観的要素(売買の代金額や違約金)の判断基準

6 無効は民法90条の判断=率の高さだけでは足りない

上限の規定が直接に届かない場面では、額が過大な定めを無効とする根拠は公序良俗違反になります。この判断は率の高さだけで決まるものではありません。要件と効果、合意をした日、契約類型のそれぞれが効いてきます。

(1)窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得→無効(概要)

公序良俗違反として無効になるのは、相手方の窮迫・軽率・無経験に乗じて著しく過当な利益を得る内容になっている場合です。2つの要素は別々の法律要件ではなく、相関的に判断されます。

要件と効果は、別の記事で説明しています。

暴利行為|窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得は民法90条で無効

(2)令和2年4月1日より前の合意→裁判所は額を増減できない(概要)

かつて民法420条1項には、裁判所は賠償額の予定の額を増減することができないという後段がありました。この後段は削除されましたが、附則の経過措置により、令和2年4月1日より前にされた予定の合意にはなお旧法が当たります。したがって、いつ合意したかで、減額の筋が条文の上で変わります。

削除の前後での扱いは、別の記事で説明しています。

暴利行為|窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得は民法90条で無効

(3)金銭消費貸借|利息制限法が上限を法定→90条の役割は小さい(概要)

公序良俗違反の出番の大きさは、契約類型によって違います。金銭を目的とする消費貸借では、賠償額の予定の上限が法律で定められているので、公序良俗を持ち出す場面はほとんど残っていません。

この領域の移り変わりは、別の記事で説明しています。

暴利行為|窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得は民法90条で無効

(4)賃貸借|履行確保が重視される場面→実損との乖離を容認・填補が前面→厳格

これに対して、賃貸借では公序良俗違反の判断が残ります。注釈民法は、賃貸借に置かれる賠償額の予定・違約金条項を、予定している債務不履行のタイプで3つの類型に分けています。

賃料の支払遅滞についての遅延損害金は、遅れた分の埋め合わせという性格が前に出る場面です。目的物の返還が遅れた場合について実際の損害を超える額が容認されてきた理由と、目的物が滅失して返還できなくなった場合の扱いを並べると、次のようになります。

書籍

実損との乖離の容認→明渡債務の履行の確保/填補が前面→実損との均衡を厳格に

実損とのこのような乖離が容認されるのは、この場面での損害賠償額の予定・違約金条項がもつ家屋明渡債務の履行の確保という機能が重視されているからであるとみるべきである。
第2は、賃貸目的物が滅失して返還不能となる場合に備えて賠償額の予定がなされるケースである。
この場合には履行確保の機能は後景に退き、損害の填補という機能が前面に出てくるために、実損との均衡がいっそう厳格に問題にされるべきである。

※川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・平井 宜雄 (専修大学教授)編『新版 注釈民法(3)』有斐閣p148〜149

7 賃料の遅滞に高率の予定は多くない・明渡しの予定との併用→厳しい判断

もっとも、賃料の支払遅滞について高い率の遅延損害金を定めている契約は、実際には多くありません。文献は、その理由を賃貸人の関心の置き場から説明しています。

書籍

賃料支払義務の遅滞に高率の遅延損害金を予定することは多くない=関心は解除と返還

賃料支払義務の遅滞について高率の遅延損害金を予定することは多くないようである。
おそらくその場合の賃貸人の関心事は契約を解除できるか否かであり、更には目的物が解除後速やかに返還されるか否かであり、その点について違約金・賠償額の予定をしておけば十分と考えるからであろう。

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1245

同じ文献は、明渡しが遅れた場合についての予定と賃料の支払遅滞についての予定を併用することもできるとしたうえで、その場合について次のように述べています。

書籍

明渡しの予定と賃料遅滞の予定の併用→予定賠償額の過大性について厳しい判断

ただ、その場合には、予定賠償額の過大性について厳しい判断がなされる可能性がある。

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1245

8 明渡しの遅滞の損害金・中途解約の違約金=支払遅滞の予定とは別の場面(参考)

本記事が扱ったのは、支払期日までに払わなかったことに対する定めです。賃貸借では、これと別に、契約が終わったあとの明渡しの遅れに対する損害金と、期間の途中での解約に対する違約金が問題になります。いずれも額の測り方が違います。

明渡しが遅れた場合の損害金の算定は、別の記事で説明しています。

不動産の不法占有(賃貸借契約終了後)の損害金算定(賃料相当額・固定資産税倍率など)

期間の途中で解約した場合の違約金の有効性は、別の記事で説明しています。

建物賃貸借の中途解約の可否・中途解約違約金の有効性(賃料1年分基準)

9 おわりに

本記事では、日数に応じない遅延損害金の定めが賠償額の予定として扱われること、額の過大性を実効年利への換算で測ること、無効の判断が公序良俗違反の問題になることを説明しました。

率が高いことだけを理由に無効になるわけではないので、合意に至った経緯と契約類型の側の事情が材料になります。

無効になるための要件と効果は、別の記事で説明しています。

暴利行為|窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得は民法90条で無効

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。

共有不動産の紛争解決の実務第3版

使用方法・共有物分割・所在等不明対応から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第3版 弁護士・司法書士 三平聡史 使用方法・共有物分割・所在等不明対応から登記・税務まで 第3版では、共有規定の大改正に対応することはもちろん、その改正議論の中で展開され深化した解釈論により明らかになった実務への影響を余すところなく追録して大幅改訂増補!共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分ける指針を示した定番書!

共有不動産をめぐる法的紛争の解決に関する実務指針を
《事例》や《記載例》に即して解説する実践的手引書!

  • 第3版では、共有規定の大改正に対応することはもちろん、その改正議論の中で展開され深化した解釈論により明らかになった実務への影響を余すところなく追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分ける指針を示した定番書!
  • 相続や離婚の際にあわせて問題となりうる「共有者の1人による居住」「収益物件の経費・賃料収入」「使っていない共有不動産の管理」の相談対応や、「空き家」「所有者不明土地」「相続未登記」問題の解決のヒントに!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
市街化調整区域の家は売れるのか|特定承継人の建替えが原則認められない理由
日数に応じない遅延損害金は賠償額の予定になり、率の高さだけでは無効にならない

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00