【労働審判への対応マニュアル(企業のための防衛戦略と実践ガイド)】

1 労働審判への対応マニュアル(企業のための防衛戦略と実践ガイド)

2006年に創設された労働審判制度は、個別労働紛争の迅速な解決を目指す制度です。この制度は、一般の訴訟と違って、スピーディーに進められるという特徴があります。そこで、労働審判の申立をされた企業としては、準備を含めてしっかりと対応しないと不利な結果になりかねません。本記事では、労働審判に対する対応の要点を説明します。

2 申立書受領後の初動対応

(1)申立書と添付書類の確認

労働審判の申立書(申立書)が裁判所から届いたら、まずは慌てずに、どのような書類が入っているのかを確認することが重要です。申立書だけでなく、同封されている期日呼出状(呼出状)や答弁書催告状の内容も必ず確認してください。
申立書には、申立人の要求(申立ての趣旨)とその理由(申立ての理由)が記載されています。未払い賃金、不当解雇、ハラスメントなど、請求の具体的な法的根拠を把握することが、効果的な防御を準備するための大前提です。

(2)重要な期限と第1回期日の確認

同封されている期日呼出状には、通常、申立から40日以内を目安として、第1回期日の日時が指定されています。また、答弁書(答弁書)の提出期限も記載されており、通常は第1回期日の7~10日前です。
第1回期日の変更は、原則として認められにくい傾向にあるため、指定された期日に対応できるよう、迅速に準備を進める必要があります。

(3)弁護士への速やかな相談

労働審判の申立書を受け取ったら、直ちに労働問題に詳しい弁護士に相談することが最も重要です。弁護士は、手続きの流れ、必要な準備、答弁書の作成、期日での対応など、専門的なアドバイスとサポートを提供してくれます。初動が遅れると、準備不足のまま期日を迎えることになり、不利な結果につながる可能性があります。

3 社内調査の進め方

(1)調査の範囲と目的の明確化

社内調査を行うにあたっては、まず、申立書に記載された従業員の主張に基づいて、調査すべき範囲と目的を明確に定義する必要があります。
従業員の請求内容、関連する期間、具体的な出来事や問題点を特定し、事実関係の検証、証拠の収集、潜在的な法的責任の評価といった調査の目標を設定します。焦点を絞った調査は、リソースの効率的な活用を可能にし、従業員の訴えに効果的に対処するのに役立ちます。

(2)関係者へのヒアリング

事案に関与した可能性のある従業員(上司、同僚、人事担当者、会社代表者など)を特定し、ヒアリングを実施します。
申立人だけでなく、申立書に名前が挙がっている人物や、関連する出来事を目撃した可能性のある人物にも話を聞くことを検討してください。
労働審判期日に誰が出席すべきかを決定することも重要です。事実関係を説明できる担当者や、和解に関する決定権限を持つ人物を含めるべきです。

(3)証拠の収集と保全(電子データを含む)

雇用契約書、就業規則、賃金規定、出勤記録(タイムカード、出勤簿)、給与明細、人事評価、懲戒処分記録、電子メール、その他関連するコミュニケーションなど、あらゆる関連文書を収集します。
ハラスメントの主張がある場合は、内部報告書、目撃者の証言、関連するコミュニケーションも収集します。
電子メール、チャットログ、サーバーデータなどの電子証拠は安全に保全してください。
会社の主張を裏付ける証言を得るために、目撃者からの陳述書取得も検討してください。

(4)調査プロセスにおける重要な考慮事項と潜在的な落とし穴

調査は公平かつ偏りのない方法で実施することが重要です。調査プロセス全体を通して機密性を維持し、申立人または証人に対する報復と取られる可能性のある行動は避けてください。従業員情報を扱う際には、データプライバシー規制に留意してください。不備のある調査は、会社の防御を弱体化させ、さらなる法的問題につながる可能性があります。

4 答弁書作成の重要ポイント

(1)答弁書の法的意義の理解

答弁書(答弁書)は、会社がその主張を提示し、従業員の請求に対抗するための主要な機会です。労働審判委員会の第一印象と審理の方向性に大きな影響を与えます。適切に作成された答弁書は、和解または会社に有利な判決の可能性を大幅に高めることができます。

(2)答弁書に含めるべき不可欠な情報

答弁書には、通常、以下の情報が含まれます。
申立人の請求に対する答弁(通常は請求の棄却を求める)、申立書に記載された事実に対する認否(認めるか否か、否認する場合はその理由を明記)、会社の反論を支持する具体的な事実(明確かつ時系列に記述)が主な記載事項です。
さらに、予想される争点(法的な争点)と関連する重要な事実、各争点を裏付ける証拠(証拠書類には明確な参照番号を付記)、申立に至るまでの交渉や経緯の概要も必要に応じて記載します。

(3)最大限の効果を発揮するための答弁書の構成

平易かつ簡潔な言葉を使用し、専門用語、会社内だけで使われる言葉は可能な限り避けることが重要です。
情報を論理的に構成し、裁判所が理解しやすい構造(例えば、申立人の主張に対する反論をポイントごとに記述)を採用します。見出しや小見出しを使用して読みやすさを向上させ、関連する出来事の時系列表を付録として添付することも検討してください。

(4)正確性と証拠による裏付けの重要性

答弁書に記載するすべての記述は事実に基づいて正確であり、社内調査で収集した証拠によって裏付けられている必要があります。
すべての関連する証拠書類のコピーを答弁書に添付し、どの証拠が答弁書のどの特定の主張または否認を裏付けるかを明確に示してください。

(5)提出期限の厳守

答弁書の提出期限は厳守する必要があります。
通常、第1回期日の約1~2週間前です。期限までに答弁書を提出しないと、会社の主張が十分に考慮されない可能性があり、不利な結果につながる可能性があります。やむを得ない理由で期限に間に合わない場合は、直ちに裁判所に連絡し、状況を説明してください。

5 リスク評価と和解判断の基準

(1)会社のリスクエクスポージャーを評価するための基準

従業員の請求の強さと提示された証拠を評価します。会社の防御の強さと利用可能な裏付けとなる証拠を評価します。
未払い賃金、解雇予告手当、損害賠償金(ハラスメント訴訟における精神的苦痛など)、および法的違反に対する潜在的な罰則を含む、潜在的な法的責任を検討します。
不利な決定(や判決)の潜在的な経済的影響(弁護士費用を含むや、レピュテーションリスク(評判の低下)を分析します。

(2)和解を選択する際の判断に影響を与える要因

証拠と法的議論に基づく労働審判での結果(裁判所の判断)の可能性を検討することは大前提です。
さらに、訴訟に移行する可能性を含む労働審判プロセスの潜在的なコストと期間、迅速かつ秘密裏の解決を求める会社の意向、公開労働紛争が会社の評判と従業員の士気に与える潜在的な影響、従業員の交渉意欲と相互に受け入れられる和解の可能性など、将来の影響を多面的に検討します。

(3)訴訟と和解の潜在的な結果の理解

和解に至らない場合、労働審判委員会は審判を下し、異議申し立てが2週間以内に行われなければ法的拘束力を持ちます。いずれかの当事者による異議申し立てがあれば、事件が地方裁判所の通常訴訟に移行します。訴訟は、より正式で時間のかかるプロセスであり、潜在的にコストが高く、公開で行われます。
和解は、厳格な法的判決と比較して、より柔軟で調整された解決策を可能にします。要するに時間を(お金で)買うという側面が(両方の当事者にとって)あるのです。

(4)有利な和解条件の交渉

公正であり、かつ、関連するリスクを反映した和解金額を提示する準備をします。
秘密保持契約(口外禁止条項)など、金銭以外の条件も和解の一部として検討します。和解条項が明確に文案化され、法的に有効であることを確認します。
機会があれば、期日中に和解を承認できるよう、主要な意思決定者が対応できるよう準備しておくことが有用です。たとえば、期日が開催される時間帯に、決裁権限者と電話がつながるようにしておく、などの対応です。

6 適切な参加者と秘密保持の重要性

労働審判では非公開が原則ですが、参加者や裁判所が認めた傍聴者には情報が伝わります。
会社側の秘密を守るためには、参加者や傍聴者を適切に選定し、会社の不利益となる傍聴者を排除するよう努めるべきです。
和解が成立する際には、口外禁止条項(秘密保持条項)を盛り込むことが一般的です。これにより、労働者側からの無用な情報拡散を防ぎ、会社の評判や他の従業員への影響を最小限に抑えることができます。

7 まとめ

労働審判は、企業にとって迅速な紛争解決の機会を提供する一方で、迅速な対応と適切な準備が不可欠です。申立書を受け取った直後の迅速な対応、戦略的な社内調査の実施、正確かつ説得力のある答弁書の作成、リスク評価に基づいた賢明な和解判断が、労働審判を有利に進めるための鍵となります。
また、労働紛争を未然に防ぐための日常的な対策を講じることで、将来的なリスクを最小限に抑える機会であると捉えることもできます。

本記事では、労働審判への対応について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に企業と従業員(労使)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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