【労働審判による未払い残業代請求の実務ガイド(主張立証や実例)】
1 労働審判による未払い残業代請求の実務ガイド(主張立証や実例)
日本の労働環境において、未払い残業代は重要な問題です。労働基準法では、法定労働時間を超える労働や休日・深夜労働に対して割増賃金の支払いを義務付けています。未払い残業代の紛争解決手段として有用なものは労働審判制度です。
本記事では、労働審判で残業代を請求する際の、実務上の注意点や実例を説明します。
2 残業代計算方法
1時間当たりの基礎賃金 × 残業時間 × 割増率
残業代の計算式自体は単純ですが、元となる数値には注意が必要ですので、以下説明します。
(1)1時間当たりの基礎賃金
月給制の場合は「月給 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間」で算出します。基礎賃金には家族手当、通勤手当、住宅手当など特定の手当は含まれませんが、名目が同じでも一律支給の場合は基礎賃金に算入される可能性があります。
(2)残業時間
所定労働時間を超えて労働した時間を指します。労働基準法では法定労働時間を1日8時間、週40時間と定めています。残業代は原則1分単位で計算されますが、1ヶ月の合計について30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げも認められています。
(3)割増率
法定時間外労働(月60時間以下)は25%以上、法定時間外労働(月60時間超)は50%以上、法定休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上です。複数条件が重なる場合は割増率が加算されます。
3 労働審判における立証責任と証拠
(1)労働者の責任
労働審判では労働者側に残業した事実と未払い金額の立証責任があります。日ごとの労働時間を具体的に主張し、客観的証拠で裏付ける必要があります。
(2)有効な証拠
残業の証拠として有効なものには、タイムカード・勤怠記録が重要ですが、それ以外の資料も証拠になります。たとえば、業務メール・チャット記録、手帳・日記、同僚・取引先からの証言、業務報告書、入退室記録、PCログイン記録、タクシー領収書、交通系ICカード履歴”などがあります。
(3)証拠開示請求
十分な証拠がない場合でも、労働者は会社に証拠開示を求める権利があります。会社が応じない場合は、裁判所を通じた文書提出命令も可能です。
4 未払い残業代請求の時効
(1)時効期間
2020年4月1日の法改正により、現在の時効期間は3年です(それ以前の賃金は2年)。
時効は賃金支払日の翌日から進行します。
要するに、3年前までさかのぼって請求できる、ということになります。
(2)時効対策
内容証明郵便による催告(6か月間の猶予)、労働審判の申し立てや訴訟提起により時効を停止・更新できます。
(3)時効の例外
会社が時効を援用しない場合や、会社の時効援用が権利濫用にあたる場合(証拠隠蔽など)、不法行為に基づく損害賠償請求として捉えられる場合などは、時効期間経過後も請求できる(3年以上さかのぼって請求できる)可能性があります。
5 実例
実際のケースでは、証拠がしっかりしていれば、会社が請求額のとおり(に近い)金額を支払う和解となることが多いです。
一方、残業時間の証拠が不十分ではないため、請求額の一部だけを支払う和解となることもあります。
当然ですが、過去の未払の金額によって異なりますが、総額として約2000万円となった実例もあります。
また、和解にならず、裁判所の審判(決定)となった場合には、裁判所が使用者(会社側)の不払いを悪質と判断した場合は付加金(未払い残業代の同額以下)を加算することもあります。さらに、支払い遅延による遅延損害金(在職中は年3%、退職後は年14.6%)が発生することもあります。
6 結論
未払い残業代請求における労働審判では、正確な残業代計算、十分な証拠準備、時効への対応(例外が認められるかどうかの判断)が重要です。
本記事では、労働審判による未払い残業代請求について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に残業代の未払に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。