売買の違約金が過大|過大なだけでは無効にならず、乖離の程度と約款の作り方で決まる

1 売買の違約金が過大|過大なだけでは無効にならず、乖離の程度と約款の作り方で決まる

売買の違約金や損害賠償額の予定が高すぎるとき、その定めは民法90条の公序良俗違反として無効になることがあります。

もっとも、裁判例を並べると、額が過大であることだけで無効になっているわけではありません。代金の約34%の違約金が有効とされた事案があり、同じ「代金と同額」の約款が有効と無効に分かれた事案の群もあります。

本記事では、売買の違約金が争われた裁判例を、売主の不履行に備える定めと、買主の不履行に備える定め(割賦販売)に分けて説明します。代金額そのものが不当な場合は別の記事で扱います。

2 過大なだけでは無効にならない=決め手は乖離の程度と約款の作り方(まとめ)

額の過大さは、それだけでは結論を決めていません。売主側では約定額と実損害との乖離の程度が、買主側(割賦販売)では約款の作り方と引揚車の評価の仕方が決め手になっています。

売買の違約金が争われた裁判例の並び

あ 売主の不履行に備える定め

(ア)代金の3割の違約罰→5分の範囲まで有効・超える部分は無効(大津地判昭和48年11月8日)(イ)代替土地を譲渡する特約→特約だけ無効・売買契約は有効(東京高判昭和44年12月17日)(ウ)解除しない場合の賠償請求→特約の適用自体を否定(東京高判昭和29年5月29日)

い 買主の不履行に備える定め(割賦販売)

(ア)代金と同額の違約金→無効(福島地判昭和34年11月18日)(イ)引揚車の時価を控除した請求→有効(福岡高判昭和35年10月31日)(ウ)月賦販売の危険を考慮→有効(東京高判昭和39年3月30日)

う 過大であることだけでは決まらない

(ア)代金の約34%の違約金→過大でも窮迫に乗じたとの認定がない(大判昭和14年1月31日)(イ)約8倍の代物弁済→調停による案件として特段の事情がない限り有効(東京高判・判例時報39号14頁)

3 売買代金に比べて不当に高額な違約金=民法90条が問題になる場面

売買代金に比べて不当に高額な違約金や賠償額の予定が定められることは往々にしてあり、民法90条違反が問題になります。

引用:文献・公開情報

売買代金に比べて不当に高額な違約金も民法90条違反が問題になる

売買代金額に比べて不当に高額の賠償額予定、違約金がとりきめられる
(たとえば、買主が代金債務を履行しないとき、または、買主の債務不履行によって契約が解除されたときには、違約金として金〇○○円を支払う旨とりきめる)
ことも往々見られるところであり、これについても第九〇条違反が問題になり、その種の判例も見出される

※米倉明稿『公序良俗違反の法律行為』/『法学教室68号』1986年5月p47

4 売主の不履行に備える定め|決め手は約定額と実損害との乖離の程度

売主が引渡しや登記手続を怠った場合に備える定めです。裁判例は、公序良俗による一部無効で減額する形と、特約の適用範囲の解釈で外す形に分かれています。

引用:文献・公開情報

判断の決め手は約定された違約金等の額と実損との乖離の程度

(a)売主の債務不履行について賠償額の予定がある場合
〔E1〕東京控判大正六年三月九日法律新聞一二五五号二三頁〔手附金返還違約金請求事件〕
X(原告は二名であるが、単にXと表示する)は、Yから材木を購入する契約を締結した。

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1258

(1)代金の3割の違約罰→5分の範囲まで有効・超える部分は無効

土地の売主が地積訂正と抵当権抹消の手続を期日に果たせず、買主が契約書の不動文字にあった代金の3割の損害金を主張した事案です。買主に実損害はほとんど生じていませんでした。

引用:文献・公開情報

違約罰が過度に重きに失するときは一部または全部が公序良俗に反し無効

しかし、いわゆる違約罰は一種の私的制裁にあたるものであるから、その適用上私的自治の原則が大巾に修正されることは免れないのであって、その義務の強制によって達せられる債権者の利益に比し、約定された罰が過度に重きに失するときは、その一部又は全部は公序良俗に反し無効となすべきである。
これを本件についてみると、本件義務違反(地積訂正の遅れ)に対し、売買代金の三割相当の違約罰は明らかにその点の権衡を失し、その全部を有効とすることはできない。
しかし、前記約定の事情等から、その全部を無効とすることも相当でないので、当裁判所は前認定の全事情を考慮し、売買代金の五分の範囲まで有効と認め、その余は無効とする。」

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1260〜1261

(2)代替土地を譲渡する特約→特約だけ無効・売買契約は有効

約58坪の土地を代金380万円で売る契約に、売主が違反したときは別の約43坪の土地を譲渡するという特約が付いていた事案です。その土地は売主が住む建物の敷地でした。

引用:文献・公開情報

無思慮に乗じた過怠約款として甚だしく苛酷=当該約款それ自体が無効

「甲乙の各土地の坪数、甲の土地の売買価格、乙の土地は被控訴人居住建物の敷地である等諸般の事情を考えあわせると、右特約は被控訴人無思慮に乗じてなされた一種の過怠約款として甚だしく苛酷に過ぎる点において公序良俗に反するものであっ本件土地売買契約全部を無効とするには足りないとはいえ、当該約款それ自体は無効といわざるを得ない。」

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1260

(3)解除しない場合の賠償請求→特約の適用自体を否定

銀座の土地建物を2250万円で買った買主が、解除せずに履行と損害賠償を求めた事案です。契約には手付の倍戻しの特約がありました。

引用:文献・公開情報

解除しない場合の損害賠償請求には当該特約の適用がない

「最後に損害賠償について判断する。……特段の反証のない本件においては、Yは右明渡義務の不履行により昭和二十六年十一月一日から右明渡ずみにいたるまで一ヵ月金三十万円の損害をXにこうむらせているものとしてXに対しこれが賠償の義務があり、この点に関するXの請求は原審認容の右限度において正当として認容すべきものである。
もっとも前記契約書第七項に定めた損害賠償額の予定は本件履行遅延による損害賠償についても適用があるのではないかとの疑問がないわけではないが、本件においては、右特約をもって債務不履行一般に原因する損害の賠償額予定をしたものと解すべき資料は現われないのみならず、本件弁論の全趣旨によれば、当事者双方とも右のような意味の主張をするものでないこと明かであるから、これは前にも説示したようにどこまでも、債務不履行を理由として契約が解除された場合についての損害賠償予定と解するのが相当であ

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1259

5 買主の不履行に備える定め(割賦販売)|同じ約款が有効と無効に分かれた

買主が割賦金を払わず契約が解除された場合に、自動車を返還したうえで代金相当額を違約金として支払う、という約款の群です。同じ形の約款で結論が分かれています。

引用:文献・公開情報

同じ約款で有効と無効に分かれた=特約の有効(○)・無効(×)の一覧

違約金・賠償額の予定の内容
特約の有効(○)・無効(x)
[E1]東京控判大六・三・九法律新聞二一五五一二三[手附金返還違約金請求事件]
材木売買。三〇〇円の手附交付。売主違約の場合は、手附返還のほか同額の違約金を支払う旨の特約。買主は解除せずして六〇の特約吹きずし六〇〇円請求。
違約金三〇〇円のみ認容。
[E2]東京高判昭二九・五・二九
建物売買、代金二二五〇万円。手附三〇〇万円交付。売主不履行の場合につき倍額償還の約定あり。買主は解除せずに履行及び損害賠償を請求。
契約を解除しない場合の損害賠償請求には、当該特約適用なし。月三〇万円の賃料相当額の賠償請求のみ認める。
下民五五七六二[不動産所有権移転本登記手続不動産明渡並に損害賠償請求事件〕[E3]福島地判昭三四二一
・トラックの割賦販売契約、買主の代金不払を理由とする解除があった場合には自動車返還のうえ、売買代金相当額を損害賠償として支払う旨の特約。
下民一〇一一-二四五〇[違約金請求事件〕
×売主は引揚自動車の時価を控除して約金を請求しているが、公序良俗に反するとする。

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1256〜1257

(1)代金と同額の違約金=1か月の使用でも全額→民法90条により無効

トラックの割賦販売で、代金103万2740円のうち23万4740円しか払われないまま解除された事案です。売主は引揚車の時価を控除した額を請求していました。

引用:文献・公開情報

使用期間の長短を問わず代金と同額の違約金=極端に苛酷で民法90条により無効

「本件違約金の特約によれば違約金の額は売買代金と同額であり、しかもそれは買主が自動車を使用した期間(売買契約の日から契約解除の日まで)の長短を問わないから、例えば買主が最初の割賦金の支払を怠ったため契約が解除された場合は買主において約一ヶ月自動車を使用しただけで売買代金と同額の違約金を支払わなければならないことになる。このように債務者(買主)にとって極端に苛酷な場合が生じ得る違約金の特約は公序良俗に反するから民法第九〇条により無効であるといわねばならない。」

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1261

(2)引揚車の時価を控除した請求→暴利行為ではない

中古自動車の割賦販売で、引揚車の時価を参酌することもあるという特約が付いていた事案です。

引用:文献・公開情報

引揚自動車の時価を控除した額の請求だから暴利行為ではない

[E4]福岡高判昭和三五年一〇月三一日下民一一巻一〇号二三四六頁[損害賠償請求事件〕
X会社は、中古トラックをYに売却し、代金は月賦利息を加えて四一万三三四〇円とすることのほか、所有権留保割賦代金不払時の無催告解除、自動車の引揚、違約金についての特約を締結した。
違約金特約の内容は、

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1262

(3)月賦販売の危険を考慮→賠償額の予定として公序良俗に反しない

自動車の割賦販売で、代金不払による解除があった場合に自動車の返還と代金相当額の違約金を定めていた事案です。

引用:文献・公開情報

月賦販売契約の危険を考慮すれば賠償額の予定として公序良俗に反しない

[E6]東京高判昭和三九年三月三〇日東高時報一五巻民六二頁〔車引渡・損害賠償金請求事件〕
Yは、X自動車販売会社から自動車を割賦払で購入した。
この売買契約には、買主の債務不履行を理由に契約が解除された場合には、買主は自動車を返還し、売買代金と同額の違約金を支払う旨の特約が付されている。

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1263〜1264

6 過大であることだけでは無効にならない=別に事情が要る

額の過大さを認めながら、それだけでは公序良俗違反としなかった事案があります。無効とするには、相手の状態に乗じたことなど別の事情が要るという形です。

(1)代金の約34%の違約金=過大でも窮迫に乗じたとの認定なし

売買代金2万500円に対し違約金7000円が定められ、これが内金として支払われた事案です。買主が残代金を払えず、売主がこの内金を没収しました。

引用:判例

過大であるという事実だけでは違約金の特約が公序良俗に反するとは断じ難い

尚本件賣買代金カ二萬五百圓ナルニ對シ其ノ違約金ヲ七千圓ト定ムルカ如キコトハ假令過大ナリトスルモ斯ル過大ナリトノ事實ノミニ依リテハ必スシモ違約金ノ特約カ公ノ秩序善良ノ風俗ニ反スルモノトハ断シ難シ而シテ右特約カ買主タル五月女松三郎ノ窮迫ヲ利用シタリトノコトハ原審ノ認定セサルトコロナレハ斯ル事實ヲ根據トスル所論ハ正當ナラス

※大審院 1939-01-31 新聞 4382号14頁/評論全集 28巻38頁(民法)

(2)約8倍の代物弁済=調停による案件として特段の事情がない限り有効

900万円の家屋を120万円の債務の代物弁済とする契約が、裁判所の調停条項として定められた事案です。

引用:文献・公開情報

厳重な過怠金が付せられるべき案件として特段の事情のない限り公序良俗に反しない

案件」であること(昭和二六年以来紛争が続き再調停となったものであるとされており、違約金条項もこの調停によるものであるようである)を考慮して、「特段の事情」のない限り公序良俗に反しないとしている。

※大村敦志著『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p284

7 酌量条項があるかどうかと結論は一致しない

割賦販売の群を並べると、引揚車の時価を参酌する条項があるかどうかと、有効・無効の結論が一致していません。

引用:文献・公開情報

酌量条項がある場合とない場合=結論は一致していない

(b)割賦販売に関する裁判例では、買主の代金不払を理由とする解除があった場合に、買主が自動車を返還するほか、売買代金相当額の違約金(賠償額の予定)を支払う旨の約款の効力が問題となっている。
この違約金条項には、引揚自動車の価格を酌して違約金を減ずることがある旨の条項(以下「料酌条項」(107)と呼ぶことにする)がある場合([E4][E5])とない場合([E3][E6])とがある。

※能見善久稿『違約金・損害賠償額の予定とその規制(3)』/『法学協会雑誌第102巻第7号』1985年p1267

8 契約類型ごとに規制の意味が違う=金銭消費貸借は利息制限法が引き取った

公序良俗による違約金の規制は、契約の類型ごとに意味の重さが違います。

引用:文献・公開情報

金銭消費貸借では公序良俗による規制の意味がきわめて小さくなっている

ア 金銭消費貸借契約
金銭消費貸借契約に付された損害賠償額の予定・違約金条項の規制に関しては、現行民法起草時から同420条の増減禁止と真っ向から対立する旧利息制限法5条が置かれており、また、同法の適用されない商事債権、とくに手形債権が公序良俗違反によるこれらの条項の規制に関する主要な領域を形成していた。
しかし、利息制限法の昭和29年改正以来、損害賠償額の予定・違約金条項についても直接的な規制が加えられるようになり、制限超過利息・損害金の履行請求に関しては公序良俗による規制の意味はなくなった。
また貸金業法43条は、任意に支払われた制限超過利息・損害金について、元本充当・返還請求を否定したため、もはや公序良俗を用いる余地はない。
かくして現在では金銭消費貸借については公序良俗による損害賠償額の予定・違約金条項規制の意味はきわめて小さくなっている。

※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(3)』有斐閣2010年 10月p148

9 要件と効果は類型を横断する=ここで扱うのは売買の事案だけ

暴利行為の要件と、無効の範囲をどう決めるかは、売買に限らず共通です。本記事で扱ったのは売買の違約金が争われた事案だけです。

(1)窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得→無効(概要)

要件と効果は、別の記事で説明しています。

暴利行為|窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得は民法90条で無効

(2)民法420条の増減禁止の下でも無効・一部無効による減額(概要)

民法420条が賠償額の予定の増減を禁じていた下でも公序良俗違反になる理由と、一部無効で減額する要件は、別の記事で説明しています。

損害賠償額の予定・違約金が著しく過当|民法420条の下でも公序良俗違反で無効

10 おわりに

本記事では、売買の違約金が争われた裁判例を見てきました。実際の判断は、額の過大さだけでなく、約款の作り方と、相手の状態に乗じたかどうかによって変わります。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。

共有不動産の紛争解決の実務第3版

使用方法・共有物分割・所在等不明対応から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第3版 弁護士・司法書士 三平聡史 使用方法・共有物分割・所在等不明対応から登記・税務まで 第3版では、共有規定の大改正に対応することはもちろん、その改正議論の中で展開され深化した解釈論により明らかになった実務への影響を余すところなく追録して大幅改訂増補!共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分ける指針を示した定番書!

共有不動産をめぐる法的紛争の解決に関する実務指針を
《事例》や《記載例》に即して解説する実践的手引書!

  • 第3版では、共有規定の大改正に対応することはもちろん、その改正議論の中で展開され深化した解釈論により明らかになった実務への影響を余すところなく追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分ける指針を示した定番書!
  • 相続や離婚の際にあわせて問題となりうる「共有者の1人による居住」「収益物件の経費・賃料収入」「使っていない共有不動産の管理」の相談対応や、「空き家」「所有者不明土地」「相続未登記」問題の解決のヒントに!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
売買代金が時価と大きく離れる|無効となるのは比率ではなく相手の状態に乗じたとき
【パブリシティ権侵害の損害賠償額の算定(3つの算定基準と慰謝料の判断)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00