【破産申立における債権者一覧表への記載漏れ(免責の効力と解決策)】
1 破産申立における債権者一覧表への記載漏れ(免責の効力と解決策)
破産の手続では、通常、免責許可が出て、その結果、債務を支払わなくてよい状態になります。というより、経済的にリセット(リスタート)するために破産申立をするのです。
ところで、破産申立の際に裁判所に提出する債権者一覧表に債権者のうち1社を記載し忘れるというケースがまれに生じます。
この場合には、どのようなことになるのか、また、この問題を解決する方法について、本記事で説明します。
2 破産法253条1項6号の条文規定
前述のとおり、破産手続を利用する主要な目的は免責許可を得ることです。この点、裁判所が免責を許可しても、債権者名簿(債権者一覧表)に記載していなかった債権者については、原則として免責とはならない、と規定されています。免責されないということは、支払わなくてはならない状態が維持されるということです。
破産法253条1項6号の条文規定
・・・
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
※破産法253条1項(6号)
3 債権者名簿への記載漏れと免責の有無
前述のように、債権者名簿(債権者一覧表)への記載漏れがあると、原則として免責とはならないのですが、状況によっては例外的に免責されることもあります。
まず、記載漏れではあったけれど、債務者(破産者)自身に過失があったとはいえない場合には、例外的に免責されることになります。
次に、(債務者がどのような認識であったとしても)記載されなかった債権者が、破産手続がなされていることを知っていた場合にも、例外的に免責されることになります。
債権者名簿への記載漏れと免責の有無
あ 債権者名簿記載漏れを知っていた
免責されない
い 債権者名簿記載漏れに過失がある
免責されない
※東京地判平成11年8月25日
※東京地判平成14年2月27日
う 債権者名簿記載漏れに過失がない
記載漏れに免責を認めないほどの過失がない
→免責される
※神戸地判平成元年9月7日
※東京地判平成15年6月24日
え 債権者が破産について知っていた
破産債権者が破産手続開始決定を知っていた場合
→免責される
※破産法253条1項6号
4 記載漏れの金融機関の対応の実情
実際に金融機関を債権者名簿に記載しなかった、というケースのほとんどは、金融機関は免責されたことを前提として、税務上の欠損処理をします。つまり、債権の請求をするようなことはなく終わる、ということが多いです。
記載漏れの金融機関の対応の実情
金融機関が破産手続がなされていることを知っていた(免責される)可能性もある
仮に債務者が再度破産申立をすれば免責される可能性が高い
→一般的な金融機関は免責された前提で、欠損処理をする、ということが多い
5 2度目の破産申立による免責
前述のように記載漏れとなった債権者が実際に請求してこない(免責された扱いとする)場合はそれ以上の問題は生じません。
では、請求を断念しない(免責された扱いにしない)場合はどうしたらよいでしょうか。
結論としては、改めて、2度目の破産申立をする、という方法が有用です。
破産法の規定で、免責許可を得た直後(7年以内)には、原則として免責を許可しないこととなっていますが、例外的に、許可をする(裁量免責)ことは実際には多いです。むしろ、免責の許可をしない方が債権者の不平等を認めることになるので不合理であるという考えもあるくらいです。
いずれにしても、2度目の破産申立で、2度目の免責許可を得たという実例が報告されています。
2度目の破産申立による免責
あ 解釈
①(当サイト注・改めて破産・免責許可申立てを行う方法)は、免責許可決定の確定から7年以内の免責許可申立ては免責不許可事由に該当するものの(破産法252条1項10号)、裁量免責が認められて然るべきとの考えによるものである。
本来免責されるべき債権であるから、改めて手続を行って免責を許可することに支障はないはずである。
むしろ、これを認めないとすれば、偶然に記載漏れの対象となった債権者が他の債権者よりも多くの回収をなし得ることにもなり、債権者間の平等を害する結果になるといえよう。
・・・
い 実例
本件事例において、Yは改めて破産・免責許可の申立てを行い(上記①)、免責許可決定を得た。
これによりA及びBに対する債務は免責されXの不利益は解消された。
ただし、本来不要であったはずの2回目の破産手続を行うことになったものであり、同手続に要した費用(約1万5000円)が損害と認定され、本保険から支払われたものである。
※『弁護士賠償責任保険の解説と事例 第6集』全国弁護士協同組合連合会2020年p65
6 2度目の破産申立に関する理論的問題
以上のように、2度目の破産申立をして、2度目の免責許可を受ける、という方法は有用ですが、背景にある理論に、少し注意する必要があります。
1度目の免責許可で、記載漏れの債権者1社以外について(たとえば1000万円)は免責となっています。記載漏れの債権の金額が少ない場合(たとえば50万円)、2度目の破産が認められるかという問題です。
というのは、破産が認められるためには、支払不能であることが必要なのです。50万円だけだったら支払不能とはいえないことが多いでしょう。ここで、1度目の破産手続で免責となった債務に着目すると、その債務は消滅したわけではなく、存在しているが請求できない状態になったにすぎない、という解釈が優勢です。そうすると存在している債務は全体で1050万円ということになり、支払不能が認められやすくなります。
ただ、理論を組み合わせるとそうかもしれないけど、常識的に、支払わなくてもよい1000万円をカウントして支払不能の判定をする、ということは不合理だ、という考えもあるかもしれません。
2度目の破産申立に関する理論的問題
あ 免責の法的性質→2つの説あり
免責の法的性質については、旧法以来、
責任が消滅するのであって債務は消滅せず、自然債務として残存するとする説(自然債務説)と、
債務そのものが消滅するとする説1)
(債務消滅説(兼子267頁、伊藤・研究21頁、伊藤・破産再生787頁、破産等実務と理論360頁〔堤龍弥〕概説559頁〔山本和彦]))との対立があり、
前者が通説であり、判例(最判平成9年2月25日・最判平成11年11月9日・最判平成30年2月23日)も自然債務説を前提としていると解されているが、債務消滅説も有力である。
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第3版』弘文堂2020年p1738
い 破産手続開始原因(条文規定)
債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
※破産法15条1項
う 支払不能の定義
ア 条文規定
この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態
(信託財産の破産にあっては、受託者が、信託財産による支払能力を欠くために、信託財産責任負担債務(信託法(平成十八年法律第百八号)第二条第九項に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)
をいう。
※破産法2条11項
イ 解釈
支払不能とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第3版』弘文堂2020年p41
7 2度目の破産申立における破産財団の範囲の問題
なお、2度目の免責は認められたとしても、別の問題もあります。
1度目の破産手続(開始決定)後に債務者が得た財産(金銭)は、新得財産として、1度目の破産手続では、債権者への配当に回りません。しかし、2度目の破産手続(開始決定)の時点で債務者のもとにあれば、破産財団として、2度目の破産手続では債権者への配当に回ってしまうことがあります。
本記事では、破産申立における債権者一覧表への記載漏れがあった場合の免責の効力と解決策について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に破産手続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。