【遺言の証人・立会人の欠格事由(民法974条)(解釈整理ノート)】
1 遺言の証人・立会人の欠格事由(民法974条)(解釈整理ノート)
一定の遺言の作成では、証人の立会いが必要です。たとえば公正証書遺言の作成の際には、証人2人が立ち会う必要があります。ここで、証人となることができない者が決められています(欠格)。本記事では、遺言の証人、立会人の欠格事由について、ルールといろいろな解釈を整理しました。
2 民法974条の条文
民法974条の条文
第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
※民法974条
3 「証人」と「立会人」の区別
(1)証人と立会人の法的位置づけ→不明確
証人と立会人の法的位置づけ→不明確
あ まとめ
民法において、証人と立会人は語句の使用上は区別されているが、実際の規定では両者の区別が明確ではない
974条では「証人又は立会人」と表現されているが、他の条文では両者の区別が曖昧である
い 民法における用語法
ア 「立会人」の語
「立会人」の語が使用されるのは、974条と特別方式遺言の署名・押印に関する980条・981条のみである
イ 「立会」の語(ア)成年被後見人の遺言(973条)では「医師2人以上の立会」(イ)伝染病隔離者遺言(977条)では「警察官1人及び証人1人以上の立会」(ウ)在船者遺言(978条)では「船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会」ウ 「立会い」の語
公正証書遺言(969条1項)、死亡危急者遺言(976条1項)、船舶遭難者遺言(979条1項)においては、証人のみの場合でも「立会い」という語が用いられている
(2)証人と立会人の区別に関する学説
証人と立会人の区別に関する学説
あ 通説
ア 証人
証人とは「作られた遺言が真実に成立したこと、即ち遺言者の真意に出たものであることを証明する人であり、遺言の内容を関知している者」である
イ 立会人
立会人とは「遺言作成の場に居合わす者というだけの意味で、遺言の内容には関係をもたず、ただ遺言の作成を目撃したというだけの者」である
い 用語法からの解釈
民法の用語法からみれば、医師・警察官・船長・事務員等は単なる立会人であり、証人は証人たる立会人であると解される
974条にいう立会人とは、医師その他の証人ではない単なる立会人を指す
う 別の見解
証人も立会人も「遺言者が何者の不当な干渉・介入もなしに自由な意思にもとづいて遺言をする状況を確保すべき任務を負って立会う者」である
証人とは「遺言者からの要請にもとづいて立会う者」であり、立会人とは「自らの職務(警察官、船長、事務員、医師)にもとづいて立会う者」である
4 証人・立会人が必要とされる遺言の種類
証人・立会人が必要とされる遺言の種類
あ 証人が必要な遺言
以下の遺言において、民法上証人が必要とされる
(ア)公正証書遺言(民法969条1項)― 2人以上(イ)秘密証書遺言(民法970条1項3号・972条1項)― 2人以上(ウ)死亡危急者遺言(民法976条1項)― 3人以上(エ)伝染病隔離者遺言(民法977条)― 1人以上(オ)在船者遺言(民法978条)― 2人以上(カ)船舶遭難者遺言(民法979条1項)― 2人以上
い 立会人が必要な遺言
以下の遺言において、民法上立会人が必要とされる
(ア)成年被後見人の遺言における医師(民法973条1項)― 2人以上(イ)伝染病隔離者遺言における警察官(民法977条)― 1人(ウ)在船者遺言における船長または事務員(民法978条)― 1人
5 証人・立会人の絶対的欠格者
(1)証人・立会人の絶対的欠格者の意味
証人・立会人の絶対的欠格者の意味
(2)証人・立会人の絶対的欠格者の内容
証人・立会人の絶対的欠格者の内容
あ 未成年者(1号)
未成年者は、法定代理人の同意があっても証人・立会人となれない
ただし、婚姻によって成年擬制された者(民法753条)は欠格者とならない
成年到達前に離婚した後も同様である
い 成年被後見人・被保佐人(改正前・参考)
平成11年改正により削除され、成年被後見人と被保佐人も証人・立会人になる可能性が残された
ただし、成年被後見人については判断能力を回復していることが必要であり、被保佐人については保佐人の同意を必要とする
6 証人・立会人の相対的欠格者
(1)証人・立会人の相対的欠格者の意味
証人・立会人の相対的欠格者の意味
(2)証人・立会人の相対的欠格者の内容
証人・立会人の相対的欠格者の内容
あ 推定相続人・受遺者・その配偶者・直系血族(2号)
これらの者は、当該遺言に関して強い利害関係をもつため欠格者とされる
推定相続人とは最優先順位の相続人をいい、遺言作成時におけるその者が欠格となる
受遺者が証人・立会人欠格となるのは、その者が証人・立会人となって作成された遺言によって遺贈を受ける場合に限られる
※大判昭和6年6月10日民集10巻409頁
※最判昭和47年5月25日民集26巻4号747頁(「配偶者」には推定相続人の配偶者も含まれる)
い 公証人の配偶者・四親等内の親族、公証人の書記・雇人(3号)
ここでいう公証人とは、当該遺言作成に関与する公証人を指す
したがって、公正証書遺言および秘密証書遺言についてのみ適用される
7 欠格者が証人・立会人となった場合の効果→遺言全部が無効
欠格者が証人・立会人となった場合の効果→遺言全部が無効
あ 基本→全部無効
欠格者が証人・立会人となった場合、遺言全部が無効となる
推定相続人や受遺者の配偶者や直系血族が証人となった場合でも、遺言中の当該欠格者に関する部分だけが無効となるのではない
い 欠格者の同席→影響なし
ただし、公正証書遺言において、証人・立会人としての欠格者が事実上の立会人として遺言作成の場に同席していても、特段の事情のない限り、遺言は無効とならない
※最判平成13年3月27日判タ1058号105頁
8 事実上の欠格者
(1)事実上の欠格者の意味
事実上の欠格者の意味
(2)事実上の欠格者の内容
事実上の欠格者の内容
あ 署名することのできない者
公正証書遺言(民法969条1項4号)、秘密証書遺言(民法970条1項4号)、死亡危急者遺言(民法976条1項)、船舶遭難者遺言(民法979条2項)では、証人の署名が必要である
い 遺言者の口授を理解しえない者
死亡危急者遺言(民法976条1項)や船舶遭難者遺言(民法979条2項)では、証人は遺言者の口授や遺言の趣旨を理解する必要がある
う 筆記の正確なことを承認する能力のない者
ア 承認能力なし→証人不可イ 視覚障害者→証人不可ではない
盲人は事実上の欠格者ではない
※最判昭和55年12月4日民集34巻7号835頁
え 口のきけない者→死亡危急者遺言のみ欠格
死亡危急者遺言(民法976条)以外では証人適格を有する
死亡危急者遺言においても、証人のうち1人が口をきくことができれば、他の証人は口がきけなくとも証人としての役割を果たしうる
(3)事実上の立会人と法定の証人・立会人の区別
事実上の立会人と法定の証人・立会人の区別
※高知地判平成7年8月21日判時1589号120頁
9 参考情報
参考情報
泉久雄稿/中川善之助ほか編『新版 注釈民法(28)補訂版』有斐閣2004年p139、140
本記事では、遺言の証人・立会人の欠格事由について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言書の作成や、相続後の遺言の有効性に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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