1 遺留分の対象となる生前贈与(概要)
2 遺留分の対象となる生前贈与(まとめの表)
3 持戻し免除による遺留分算入範囲(オリジナル)
4 持戻し免除による遺留分算入範囲(簡略版)
5 持戻し免除による遺留分算入範囲(限定付算入説)
6 持戻し免除による遺留分算入範囲(無限定算入説・裁判例)

1 遺留分の対象となる生前贈与(概要)

生前贈与のうち一定の範囲のものは遺留分の計算の対象となります。正確には遺留分算定基礎財産として加算されるということです。
持戻し免除がある場合の遺留分への影響について主に2つの見解があります。本記事ではこの解釈論について説明します。
まず,前提部分として,遺留分の対象となる生前贈与についてまとめておきます。

<遺留分の対象となる生前贈与(概要)>

あ 民法1030条に該当するもの(※1)

ア 相続開始前1年内
相続開始前1年内に行われた生前贈与
→無条件に遺留分の対象に含まれる
イ 遺留分権侵害について悪意
生前贈与の時期に関係なく
当事者の両方が遺留分権侵害をしっていた場合
→遺留分の対象に含まれる
※民法1030条

い 民法903条1項に該当するもの(※2)

生前贈与の期間に関係なく
生前贈与の内容が『特別受益』に該当する場合
→遺留分の対象に含まれる
※民法1044条,903条1項
※最高裁平成10年3月24日
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産|贈与した財産

2 遺留分の対象となる生前贈与(まとめの表)

前記の遺留分の対象となる生前贈与を表にまとめます。この後の,持戻しの解釈論は,この表を見ながら考えないと理解しにくいのです。ポイントは根拠となる条文です。これも併記しておきます。

<遺留分の対象となる生前贈与(まとめの表;※3)>

あ 遺留分の対象となる生前贈与
贈与の内容 死亡前1年以内 死亡前1年よりも過去
遺留分権侵害につき悪意 ◯(1030条) ◯(1030条)
特別受益に該当する ◯(1030条) ◯(903条)
その他 ◯(1030条)
い 補足説明(凡例)

『◯』=遺留分算定基礎財産に算入する(含まれる)
『☓』=遺留分算定基礎財産に算入しない(含まれない)

3 持戻し免除による遺留分算入範囲(オリジナル)

ここから,持戻し免除が遺留分の算定にどのように影響するのか,というメインテーマの説明に入ります。前記のとおり,2つの見解があります。まずはオリジナルの解釈の内容をまとめます。読んだだけでは理解できないはずです。

<持戻し免除による遺留分算入範囲(オリジナル)>

あ 限定付算入説

第三者に対する一般贈与と同様になる
相続開始前1年間に行われたとき及び当事者双方に遺留分侵害の意思があるときにのみ当該贈与を遺留分算定の基礎財産に算入する
※島津一郎/中川善之助『註釈相続法(下)』有斐閣p223,224
※高梨公之『遺留分の算定』/『法学セミナー48号』日本評論社p29
※岡垣学『いわゆる特別受益と遺留分との関係』/『家事事件の研究(1)』p394
※松原正明『判例先例相続法2』日本加除出版p607,608

い 無限定算入説

民法903条1項に従い,当該贈与は民法1030条の制限なしに当然遺留分算定の基礎財産に算入する
※柚木馨『判例相続法論』有斐閣p206
※我妻栄・唄孝一『判例コンメンタール相続法』コンメンタール刊行会p218
※中川善之助・泉久雄『相続法 第3版』有斐閣p611
※高木多喜男『遺留分』/『総合判例研究叢書民法(23)』有斐閣p80

4 持戻し免除による遺留分算入範囲(簡略版)

前記の非常に理解困難な解釈論の内容を簡略化します。

<持戻し免除による遺留分算入範囲(簡略版)>

あ 限定付算入説

持戻し免除の意思表示により
903条1項の対象(特別受益;前記※1)のみ免除される
他(前記※2)は免除されない

い 無限定算入説

持戻し免除の意思表示により
一切免除されない
(前記※1,※2のいずれも免除されない)

簡略化できましたが,免除される/されない,という具体的な結果が分かりにくいです。ここで,最初に示した遺留分の対象となる根拠条文が活躍します。
最初に示した表と前記の2つの見解を組み合わせて示します。

5 持戻し免除による遺留分算入範囲(限定付算入説)

前記※3の表と限定付算入説の内容を組み合わせた結果を掲載します。

<持戻し免除による遺留分算入範囲(限定付算入説)>

あ 持戻し免除の効果の範囲
贈与の内容 死亡前1年以内 死亡前1年よりも過去
遺留分権侵害につき悪意 免除しない(1030条) 免除しない(1030条)
特別受益に該当する 免除しない(1030条) 免除する(903条)
その他 免除しない(1030条) (元々算入しない)
い 補足説明

『免除しない』→遺留分算定基礎財産に算入する
『免除する』→遺留分算定基礎財産に算入しない

6 持戻し免除による遺留分算入範囲(無限定算入説・裁判例)

前記※3の表と無限定算入説の内容を組み合わせた結果を掲載します。こちらが裁判例であり,実務で採用される一般的な見解です。

<持戻し免除による遺留分算入範囲(無限定算入説・裁判例)>

あ 持戻し免除の効果の範囲
贈与の内容 死亡前1年以内 死亡前1年よりも過去
遺留分権侵害につき悪意 免除しない(1030条) 免除しない(1030条)
特別受益に該当する 免除しない(1030条) 免除しない(903条)
その他 免除しない(1030条) (元々算入しない)
い 補足説明

『免除しない』→遺留分算定基礎財産に算入する
『免除する』→遺留分算定基礎財産に算入しない

う 裁判例

高裁の裁判例にこの見解を採用したものがある
これ以前に明確に判断した最高裁判例・高裁判例はなかった
※大阪高裁平成11年6月8日
※『判例タイムズ1029号』p259