1 職業系|『肴屋』が本当に鮮魚販売→許可された
2 職業系|『大工』→許可された
3 職業系|『佃屋』→許可されなかった
4 恥ずかしい系|『大楢』→『オナラ』を連想させる→許可された
5 恥ずかしい系|『穴倉』→女性器を連想させる→許可された
6 恥ずかしい系|『仁後』→『にごう=二号』を連想させる→許可された
7 珍奇系|『石田黒』→氏/名の切れ目が分かりにくい→許可された
8 珍奇系|『袈裟丸』→許可されなかった
9 珍奇系|『立仙』→外国人風ではあるが→許可されなかった
10 特殊背景|虚偽だけど使い慣れた苗字への変更 →許可された

本記事では,苗字の変更許可についての判例をまとめます。
なお,苗字の変更に関する許可基準については別記事で説明しています(リンクは末尾に表示)。

1 職業系|『肴屋』が本当に鮮魚販売→許可された

『さかなや』さん,という苗字の方が本当にさかなを販売する仕事をしていた,というケースです。

<『肴屋』が本当に鮮魚販売>

あ 変わった苗字

『肴屋』の苗字であった
申立人は当時,魚類を扱う『市場』に勤めていた
『肴屋』と名乗っても大抵の人は信用してくれないで困っていた

い 子供の困惑

子供(長男)が学校や塾で友達からからかわれ,泣いて帰ってくることもある
長男(小学生)が,スイミングクラブや塾でマイクなどで名前を呼ばれる機会がある
そうすると,笑いの対象になる
苦痛を感じて毎日を送っている

う 家族の切望

妻の旧姓『飯田』への変更を一家が希望している

え 裁判所の判断

苗字の変更を許可した
※長崎家裁昭和61年7月17日

2 職業系|『大工』→許可された

苗字が『大工』というケースです。

<『大工』の変更→OK>

『大工』の苗字
→苗字の変更を許可した
※那覇家裁昭和50年9月13日

3 職業系|『佃屋』→許可されなかった

<『佃屋』>

あ 事案

『佃屋』(つくや)の苗字であった
『田代』への変更が申し立てられた

い 裁判所の判断

苗字の変更を許可しなかった
※東京家裁昭和43年10月3日

『肴屋』『大工』と違い『佃屋』は『何かの販売業』というイメージがあまりありません。
そこが結論の違いの理由と言えましょう。

4 恥ずかしい系|『大楢』→『オナラ』を連想させる→許可された

苗字変更の理由として『恥ずかしい思いをする』というのは典型の1つです。

<発音が滑稽珍奇→氏変更OK>

あ 元の苗字

『大楢』の苗字であった

い 裁判所の評価

口に出して発音すると放屁の俗語である『オナラ』に通じる
『オナラ』と混同され易い
滑稽かつ珍奇である

う 裁判所の評価(結論)

苗字の変更を許可した
※岐阜家裁高山支部昭和42年8月7日

5 恥ずかしい系|『穴倉』→女性器を連想させる→許可された

将棋の戦法『穴熊』のようですがちょっと違う苗字です。
北海道ローカルの事情が背景になっています。

<『穴倉』の苗字>

あ 事案

『穴倉』(あなぐら)という苗字であった

い 裁判所の評価

北海道においては,女性の性器を『アナグラ』又は『マタグラ』と呼称する
申立人は,自己紹介のため『穴倉』と呼称するのに甚だしく羞恥心と慊悪の念を抱いた
長年月間にわたり社会生活上少なからぬ支障を来していた

う 裁判所の判断(結論)

苗字の変更を許可した
※札幌高裁昭和36年6月12日

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6 恥ずかしい系|『仁後』→『にごう=二号』を連想させる→許可された

<にご→『二号』の連想>

あ 事案

『仁後』という苗字であった

い 裁判所の評価

『仁後』は『ニゴ』と読む
『二号』すなわち妾を連想させる
家族は,他人から『にごーさん』と呼ばれるごとに,好奇の目で見られた
家族は小学校時代友達から『にごのじゅう』とからかわれた(掛け算九九)
恥ずかしい思いを経験してきている
日常生活において不便であり支障を生じている

う 裁判所の判断(結論)

苗字の変更を許可した
※福岡高裁昭和34年7月4日

一夫多妻制と関係するテーマ,というわけではありません。
詳しくはこちら|結婚+相続のビジネス化事件|恋愛マーケットメカニズムと法制度から考察

7 珍奇系|『石田黒』→氏/名の切れ目が分かりにくい→許可された

苗字と名前をどこで区切ればよいか分からない,というレアなケースです。

<『石田黒』→『石田』>

あ 事案

『星野黒』の苗字であった
初対面の者は『星野』が苗字で『黒◯◯』が名前だと誤解することが多い
逐一説明を要するのが実情であった

い 裁判所の判断

『星野』に変更すれば誤解が生じなくなる
→『星野』への変更を許可した
※旭川家裁昭和48年12月12日

8 珍奇系|『袈裟丸』→許可されなかった

珍しい苗字のケースです。

<『袈裟丸』>

『袈裟丸』の苗字であった
→苗字の変更を許可しなかった
※名古屋高裁昭和44年10月8日

9 珍奇系|『立仙』→外国人風ではあるが→許可されなかった

あまり困る苗字ではない,と判断されたケースです。

<外国人風苗字『立仙』>

あ 事案

申立人は『立仙』という苗字であった
苗字の読み方を間違えられる・外国人と思われることが生じていた

い 裁判所の評価

間違や誤解を解くためには些細の労をもって足りる
社会生活に困難を生じさせるものではない

う 裁判所の判断(結論)

変更を許可しない
※東京高裁昭和37年12月7日

10 特殊背景|虚偽だけど使い慣れた苗字への変更 →許可された

特殊事情が背景にあるケースです。
『虚偽の苗字』でも長年馴染んでいる,ということが重視されました。
『産みの親より育ての親』という諺の『苗字版』と言えましょう。

<虚偽の出生届が解消→『育ての苗字』続用したい>

 

あ 事案

他人の子として出生届・認知がなされた
長期間が経過した
裁判で認知無効が認められた
戸籍訂正がなされた
本来の氏(苗字)に戻った
長年使っていた氏(苗字)でないと不便である

い 裁判所の判断

苗字の変更を許可した
※東京高裁昭和57年8月24日

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