1 昔なつかしの『もらい子』|『藁の上からの養子』
2 藁の上からの養子→戸籍の訂正|権利濫用で訂正できないこともある
3 藁の上からの養子|親子関係不存在確認→権利濫用|親子の絆判決の理由
4 藁の上からの養子|親子の絆判決への批判

1 昔なつかしの『もらい子』|『藁の上からの養子』

『別の人が産んだ子供を引き取って育てる』ということは昔からあります。
『養子縁組』により『養親・養子』となる,という方法を取るのが普通です。
この点,昔は『手続なしでダイレクトに出生届を出す』というダイナミックなケースもありました。

<『藁の上からの養子』>

あ 内容

真実の実親子関係がないのに戸籍上『実子』とされている子供

い ネーミングの妙

昔,出産する時に藁を敷いていた(産褥;さんじょく)
出生後すぐに『もらい子』として別の『仮想の親』が引き取って育てた

『藁の上から即パスした』という意味合い
『(法律上の)養子』に近い状態である

う 以下の凡例
『甲』 戸籍上の『父』
『乙』 戸籍上の『実子』

2 藁の上からの養子→戸籍の訂正|権利濫用で訂正できないこともある

『藁の上からの養子』は,法的には『不正な戸籍』としか言いようがありません。
一般論として,不正な戸籍の記録は家裁の審判で認められてから戸籍の訂正をします。
『出生届』の『父・母』が虚偽であった場合,家裁で『親子関係不存在確認』の調停・審判を行います。
この原則論からは『藁の上からの養子』について,家裁で『親子関係不存在』が認められるはずです。
しかし,現実的な事情に配慮し,最高裁では『一定の制限』を加えました。

<藁の上からの養子→戸籍の誤りを修正|判例の概要>

あ 原則

真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合
→実親子関係が存在しないことの確認を求めることができる

い 例外|権利濫用

『不存在確認』により著しく不当な結果を生じる場合
→『権利の濫用』として『不存在確認』の手続ができないこともある

う 権利濫用の判断要素|例

ア 当事者間に『実の親子と同様の生活実体』があった期間の長さ
イ 実親子関係の不存在を確定することによる影響
・乙・関係者の受ける精神的苦痛・経済的不利益
・甲が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯・請求する動機・目的
・他に著しい不利益を受ける者の有無
※最高裁平成18年7月7日

大雑把に言うと『子供に不当な不利益が生じる』場合は戸籍の訂正を認めない,ということです。

3 藁の上からの養子|親子関係不存在確認→権利濫用|親子の絆判決の理由

『藁の上からの養子』について『親子関係不存在確認』を認めなかった判例(前述)の理由を説明します。
現実的な『子供への不利益』,特に『親子の関係・絆』を重視しているのです。

<親子関係不存在確認の権利濫用|判例の理由>

あ 前提事情

乙が,戸籍上親の嫡出子として記載されている
甲・乙は,長期間にわたり実の親子と同様に生活していた
関係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきた

い 例外とする理由|弊害

実親子関係が存在しないことを確定すると次のような弊害がある
ア 乙に軽視し得ない精神的苦痛・経済的不利益を強いる
イ 関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊される

う 帰責事由・不当性

虚偽の出生の届出がされることについて乙には何ら帰責事由がない
甲は,虚偽の届出を自ら行ったorこれを容認した

え 総合評価

甲が『戸籍の記載が真実と異なる』旨主張すること
→当事者間の公平に著しく反する
※最高裁平成18年7月7日

4 藁の上からの養子|親子の絆判決への批判

前述の『親子の絆を重視→戸籍の訂正を認めない』という判例の考え方には批判もあります。

<親子の絆判決への批判>

あ 子が『親を知る権利』の侵害

結果的に戸籍訂正を認めない=不正な記載内容を維持・温存
→子が今後『真実の親を探す』きっかけを奪う
→『裁判所が子を騙す』状態に
『育ての親vs産みの親』どちらを尊重するか=価値観の対立

い 不正な戸籍を追認する結果

不正な届出により不正な戸籍が作られることは重罪である
罪名 公正証書原本不実記載等罪
法定刑 懲役5年以下or罰金50万円以下
※刑法157条1項

要するに虚偽の戸籍の記載を温存・追認することには弊害もあるのです。
ポイントは,結果的に『真実を隠す』状況が生じるということです。
『子が親を知る権利』というのは関係する条約でも規定されている重要な権利です。
『子に真の親を隠すことにならないか』も含めて『権利濫用』の判断をすると良いと思われます。