1 児童ポルノ該当性が不明確なコンテンツ
2 アニメにおける非実在人物の具体例
3 非実在人物に関する政府見解=国会質問・答弁書
4 児童ポルノ法の拡大解釈のリスク(まとめ)
5 児童ポルノの実在/空想の認定リスク
6 『実在しない人物』も規制するという議論
7 児童ポルノ法によるアート・クリエイター妨害
8 児童ポルノ法の『適用上の注意』の規定
9 アンドロイドと児童ポルノ問題
10 実際のロボット(アンドロイド)開発への萎縮効果

1 児童ポルノ該当性が不明確なコンテンツ

平成26年の児童ポルノ法改正により,『児童ポルノ単純所持罪』が新設されました。
詳しくはこちら|児童ポルノ単純所持罪・公然陳列罪(基本・サーバー運営者の責任)
これが,社会的に多くの問題を孕んでいます。本記事では,児童ポルノ法の問題点を説明します。
まず,児童ポルノに該当するかどうかが曖昧なコンテンツを指摘します。

<児童ポルノ該当性が不明確なコンテンツ>

あ 基本

『い・う』が『児童ポルノ』に該当するか否かについて
→条文からは判断できない

い 非実在人物

『人間』ではあるが『実在』しない
例;マンガ・アニメなどの創作した人物イラスト(後記※1)

う 人間以外

『人間』ではないが『人間』ぽい物体・コンテンツ
ア 人形ロボット(アンドロイド)そのもの
イ 人型ロボット(アンドロイド)が登場するアニメ

2 アニメにおける非実在人物の具体例

児童ポルノに該当するかどうかが不明確な例の1つはマンガ・アニメの中のキャラクターです。例えば子供の入浴シーンなど『半裸』の姿態の人物が登場します。分かりやすい具体例を挙げます。

<アニメにおける非実在人物の具体例(※1)>

行き先を入力する音声認識装置が『『ニューヨーク→入浴』と誤認識
→小学生キャラが友達の女の子の浴室に闖入する
微笑ましいシーンとして描写される
※藤子不二雄さん『ドラえもん』

3 非実在人物に関する政府見解=国会質問・答弁書

非実在人物の児童ポルノ該当性については,法律を制定した国会でも議論になりました。そして,非実在人物は児童ポルノではないという解釈論が示されました。

<非実在人物に関する政府見解=国会質問・答弁書(※2)>

あ 解釈の結論

『児童ポルノ』には実在しない創作物は含まれない

い 政府の見解

ア 186回国会質問;法務委員会でのコメント
児童ポルノ法は『児童の権利の擁護』が目的である;児童ポルノ法1条(※1)
イ 閣議決定を経た『答弁書』;平成27年2月13日
外部サイト|山田太郎議員|『アマゾンジャパンに対する家宅捜索に関する質問主意書』に対する答弁書
※1 現在は,法改正により『法律の目的・濫用』に関する別の条文がある(後記※3)
政府の見解により拡大解釈のリスクは小さいと言えます。しかし,このリスクはまだ少し残っています。これについては次に説明します。

4 児童ポルノ法の拡大解釈のリスク(まとめ)

児童ポルノ法の解釈が拡大するリスクは完全に回避されていません。小さいリスクであっても,萎縮的効果としては大きい結果を産んでいると言えます。

<児童ポルノ法の拡大解釈のリスク(まとめ)>

あ 条文解釈

児童ポルノは『実在』する『人物』に限定されることについて
→条文上に明確な規定がない

い 国会の見解

国会としては『実在する人物』に限定される見解を出している(前記※2)

う リスク

国会の見解は裁判所を拘束しない
※憲法81条,前文
→捜査機関の恣意的に運用するリスクがある
→このリスクが拡大してクリエイターの萎縮効果となっている

5 児童ポルノの実在/空想の認定リスク

児童ポルノの解釈を『実在の人物に限る』という前提にしても,まだ問題があります。『実在』かどうかの判断が不確実であるということです。これについてまとめます。

<児童ポルノの実在/空想の認定リスク>

あ 問題点の根幹

コンテンツの元となったモデルについて
例;イラスト・フィギュア・ロボット
→『実在/空想』の識別が困難なことがある
具体的には次の『い・う』のような状況である

い モデルが誰か

人間のイラストのモデルが次のどちらかを判別しにくい
ア 実在する『山田花子ちゃん(仮称)』
イ 完全な空想による創作

う 人間or他の生物の区別

設定としては『人間以外=現実の世界に存在しないキャラクター』である
しかし見た目は人間そっくりという場合
→扱いが不明確となる
例;天使・悪魔・妖精・宇宙人・架空・空想上の動物

なお,児童ポルノ法の改正とは関係なく,『実在しない人物のイラスト』でも,刑法の『わいせつ物公然陳列罪』が成立することはあります。
これは『性器が明確に確認できる』ようなイラストが対象です。
詳しくはこちら|わいせつ物陳列罪の基本と『わいせつ』の定義・判断基準

6 『実在しない人物』も規制するという議論

諸外国では『実在しないイラスト』でも法規制の対象としているケースがあります。
日本でも,法規制に関する議論の中には,『実在しないイラスト』も規制すべき,という見解もあります。
『汚らわしい』とか『性犯罪に結びつく』という理由が挙げられています。
しかし,合理的な理由ではないと思われます。
『性犯罪に結びつく』というものについては,科学的根拠の欠如が指摘されています。
つまり,『小さい子供のセクシャルな画像・動画の閲覧』と『性犯罪の誘発』の因果関係が明確ではないというものです。

7 児童ポルノ法によるアート・クリエイター妨害

アニメのクリエーターのスキル習得手法の1つに『好きな子を想像しながらイラストを描く』というものがあります。
そもそも,描いたイラストの人物が『実在する/しない』というのは判断する人のさじ加減1つで決まることになります。
単純所持罪の『規制対象』は極めて曖昧となってきます。
逆に,クリエーターの創作活動には『過剰にリスクを避ける傾向』(萎縮効果)が生じます。
マンガ・アニメ・ゲームソフトは日本が得意とするコンテンツ・産業です。
クリエーターや産業全体の発展への強烈なブレーキとなると心配されます。
この『心配』について立法過程では既に意識しています。
条文に『悪用のリスク』は登場しましたが『リスク=萎縮効果』が排除されないままであると思えます。

8 児童ポルノ法の『適用上の注意』の規定

児童ポルノ法には以上のような拡大解釈などの大きな問題があります。この点,条文として注意を促す内容が追加されています。
しかし,直接的に適用範囲を限定・明確化するというものではありません。

<児童ポルノ法の『適用上の注意』の規定(※3)>

あ 児童ポルノ法|『適用上の注意』

法の適用においては,国民の権利・自由を不当に侵害しないように留意する
例;学術研究・文化芸術活動・報道

い 児童ポルノ法|目的逸脱・濫用への配慮

ア 本来の目的
児童に対する性的搾取・性的虐待から児童を保護しその権利を擁護すること
イ 目的逸脱への配慮
本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用してはならない
※児童ポルノ法3条

9 アンドロイドと児童ポルノ問題

ロボットの進化が極まった時に,『人間扱いするのか』というSF的テーマがあります。
『将来来るはずの問題』が,児童ポルノ法改正で現在,生じています。

<アンドロイドと児童ポルノ問題>

研究者が性的好奇心から,成人女性のアンドロイドを開発したと思ったら
設計上のミスにより,小学生(程度)の製品が完成した
→精巧なアンドロイドの女の子
※鳥山明さん『アラレちゃん』

この主人公の入浴シーンは,『ロボットの裸』は『児童の裸』ではない,という解釈論も成り立ちます。
ただ,アニメという特質上,『ロボット』と『リアル児童』では差異がありません。
イラストとしては同じ,という意味です。
ストーリー設定に関わらず『女児の姿態』という意味ではイコールと言えます。
『ロボット』を『人間扱い』するべきかどうか。これは未解明の法解釈論です。

10 実際のロボット(アンドロイド)開発への萎縮効果

さらに,『児童ポルノ』の定義では写真・データ(画像・動画)だけではなく『その他の物』も含まれています。
リアルなアンドロイドが『人間年齢18歳未満』であった場合に,状況次第で『児童ポルノ単純所持罪』に該当します。
仮に製造からの時間経過を年齢とする,ということであれば製品化されるロボットはみんな0歳でしょう。
ロボット開発・ロボット産業への萎縮効果が生じることも心配になります。