【夫婦同姓の制度の合憲性(平成27年最高裁判例)】

1 夫婦同姓の合憲性(最高裁判例・総論)
2 夫婦同姓の規定と違憲の主張
3 憲法13条違反の主張(※1)
4 最高裁の合憲性判断(憲法13条)
5 憲法14条1項違反の主張
6 最高裁の合憲性判断(憲法14条1項)
7 憲法24条2項違反の主張
8 最高裁の憲法24条1項の解釈(前提)
9 最高裁の合憲性判断(憲法24条2項)
10 最高裁による社会の現状の認定
11 最高裁による合憲性判断(まとめ)
12 今後の法改正の必要性

1 夫婦同姓の合憲性(最高裁判例・総論)

民法では,夫婦は同じ苗字にすることが強制されます。夫婦同姓と呼ばれる制度です。
この制度は憲法に違反する,という主張があります。
平成27年の最高裁判例は,合憲であるという結論を示しています。
しかし,個々の裁判官の意見としては,半分が憲法違反であると判断しています。
要するに,あまり好ましいルールではないといえます。
本記事では,夫婦同姓のルールの合憲性について説明します。

2 夫婦同姓の規定と違憲の主張

まずは,夫婦同姓を規定する民法の条文と,これが違憲であるという主張の概要をまとめます。
違憲の主張の内容は主に3つの憲法の規定に反するというものです。

<夫婦同姓の規定と違憲の主張>

あ 夫婦同姓の規定(引用)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
※民法750条

い 夫婦同姓の問題点や回避策(概要)

夫婦同姓には現実的な問題点がある
問題を回避するための実際の工夫・方法がいくつかある
詳しくはこちら|夫婦同姓の制度の問題点(全体)と不都合を避ける方法

う 主な違憲の主張(概要)

ア 憲法13条違反 幸福追求権の侵害(後記※1
イ 憲法14条1項違反 平等原則への違反(後記※2
ウ 憲法24条2項違反 個人の尊厳・両性の平等を損ねている(後記※3

3 憲法13条違反の主張(※1)

夫婦同姓が違憲であるという主張の内容の1つ目は,幸福追求権の侵害というものです。

<憲法13条違反の主張(※1)

あ 憲法13条の条文(引用)

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

い 違憲主張の内容

婚姻の際に『氏の変更を強制されない自由』は人格権の1つである
民法750条はこの人格権を侵害している
※最高裁平成27年12月16日

4 最高裁の合憲性判断(憲法13条)

最高裁は,夫婦同姓は幸福追求権の侵害にならないと判断しました。

<最高裁の合憲性判断(憲法13条)>

婚姻の際の『氏の変更を強制されない自由』について
人格権の一内容を構成するものではない
→憲法13条に違反するものではない
※最高裁平成27年12月16日

5 憲法14条1項違反の主張

夫婦同姓が違憲であるという主張の内容の2つ目は,平等原則違反というものです。
現実に妻(女性)だけが姓の変更をさせられ,夫(男性)はそのような不都合が生じないで済むということの指摘です。

<憲法14条1項違反の主張(※2)

あ 憲法14条1項の規定(引用)

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

い 違憲主張の内容

民法750条は,事実上ほぼ女性のみに不利益を負わせている
→差別的な効果を有する規定である
※最高裁平成27年12月16日

6 最高裁の合憲性判断(憲法14条1項)

最高裁は,夫婦同姓は平等原則に反しないと判断しました。
あくまでも法律上は『妻だけが姓を変更する』と強制していないというものです。

<最高裁の合憲性判断(憲法14条1項)>

夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める事実がある
→これは民法750条の規定の在り方自体から生じた結果ではない
夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない
→憲法14条1項に違反するものではない
※最高裁平成27年12月16日

7 憲法24条2項違反の主張

憲法では,24条の1項と2項で,婚姻制度は両性の平等などに適していることが要求されています。
違憲の主張の3つ目は,夫婦同姓を含む婚姻制度は両性の平等を損ねているというものです。

<憲法24条2項違反の主張(※3)

あ 憲法24条の規定(引用)

ア 憲法24条1項 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
イ 憲法24条2項 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

い 違憲主張の内容

民法750条は,憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものである
民法750条は,憲法24条2項が定める立法上の要請,指針に照らして合理性を欠く
※最高裁平成27年12月16日

8 最高裁の憲法24条1項の解釈(前提)

憲法24条2項違反の主張について,最高裁はまず,その前提である24条1項の解釈を示します。
要するに,夫婦同姓が不都合であるために法律婚を行うことを断念する人が存在する問題に関する解釈論です。
このような人は結局,『両性の合意』があっても婚姻ができないということになります。
最高裁はこのような事態があっても憲法24条1項に反しないと判断しました。

<最高裁の憲法24条1項の解釈(前提)>

あ 婚姻自体への制約の有無

民法750条は,夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものである
婚姻の効力の1つである
『婚姻をすること』についての直接の制約ではない

い 婚姻をしない選択との関係性

婚姻及び家族に関する法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても
これをもって,その法律が,婚姻をすることについて憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものとはいえない

9 最高裁の合憲性判断(憲法24条2項)

直接的に,夫婦同姓が違反していると主張されているのは憲法24条2項の方です。
条文上,法律制定において24条1項に定める両性の平等を実現することが要求されているのです。
最高裁は,24条2項の理論的な法的性格について,国会の立法裁量の限界を定めたものであると示しました。
これを前提に,夫婦同姓は国会が立法裁量の限界を逸脱して制定したものかどうかを審査します。
結論としては合理的である,つまり,立法裁量の限界を逸脱していないと判断しました。

<最高裁の合憲性判断(憲法24条2項)>

あ 憲法24条2項の法的性質

具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねる
立法の裁量の限界を画したものである

い 立法の裁量の判断

社会的な現状を認定した(後記※4
→民法750条は合理性を欠く制度とはいえない
→憲法24条2項に違反するものではない
※最高裁平成27年12月16日

10 最高裁による社会の現状の認定

夫婦同姓が国会の立法裁量を逸脱したかどうかの判断において,最高裁は現在の社会の状況を認定しています。
社会としての価値観を文章化した,といえるものです。
この点裁判所には社会全体に対するアンケート・国勢調査などのような調査権限がありません。
社会としての価値観であると裁判官が思う内容,つまり裁判官が持つ価値観,ともいえるでしょう。
認定結果を項目ごとに整理します。

<最高裁による社会の現状の認定(※4)

あ 定着の程度

夫婦同姓の制度は我が国の社会に定着してきたものである

い 家族の集団単位という性格

家族は,社会の自然かつ基礎的な集団単位である
→家族の呼称を1つに定めることに合理性が認められる

う 家族の構成員の公示・識別機能

夫婦が同一の姓を称することについて
→家族を構成する一員であることを対外的に公示し,識別する機能がある
夫婦間の子が嫡出子であることを示す仕組みを確保している
→一定の意義がある

え 家族の構成員自身の実感醸成

家族を構成する個人が,夫婦同姓制によりその一員であることを実感できる
→このことに意義を見いだす考え方もある

お 子供と両親の姓の統一

夫婦同姓制により,子がいずれの親とも姓を同じくすることになる
→このことによる利益を享受しやすい

か 2者選択の自由

夫婦がいずれの姓を称するかについて
夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている

き 通称使用による戸籍名封印

夫婦同姓制においては姓を改める者に一定の不利益が生じ得る
しかし,婚姻前の姓の通称使用が広まることにより一定程度緩和され得る
※最高裁平成27年12月16日

11 最高裁による合憲性判断(まとめ)

以上の説明のように,最高裁は,違憲主張の3つの内容についてすべて違憲ではないと判断しました。
ただし,個々の裁判官レベルでの意見としては,半数の裁判官が違憲であると判断しています。
違憲といってもおかしくないが,かろうじて,合議体の判断としては,合憲という判断にとどまったといえます。

<最高裁による合憲性判断(まとめ)>

あ 最高裁としての判断結果

民法750条は憲法に違反しない
=合憲である
大法廷の裁判官10人の合意としての結論である

い 個別的な裁判官の見解

大法廷の裁判官個人としての反対意見などが出されている
合計5人の裁判官は違憲と判断している
ただし,国家賠償法上の違法性を否定する違憲も含む
※最高裁平成27年12月16日

う 最高裁判例としての意義

民法750条の合憲性について
最高裁大法廷として初めて判断を示した判例である

12 今後の法改正の必要性

今後も夫婦同姓が合憲であるとは限りません。
社会の価値観の多様化・変化によって,過去の合憲判断が違憲に変わる実例はいくつもあります。
詳しくはこちら|非嫡出子の相続分を半分とする規定→法律婚優遇・子供差別は不合理→違憲・無効
夫婦同姓の不合理を確実に解消し,かつ新たな不合理を生まない制度として,選択式別姓が提唱されています。
詳しくはこちら|夫婦同姓の制度の問題点(全体)と不都合を避ける方法
国会が法改正により夫婦同姓の制度を改良することが必要な時期であると思います。

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