【弁護士・司法書士の秘密保持義務(秘密の範囲と例外)】

1 弁護士・司法書士の秘密保持義務(秘密の範囲と例外)
2 弁護士法と司法書士法の秘密保持義務(権利)の規定
3 『職務上知り得た』の意味
4 『秘密』の意味
5 正当な事由による適用除外
6 正当な事由の内容(弁護士・司法書士共通)
7 正当な事由の内容(司法書士のみ)
8 法律上の別段の定めの内容(弁護士法)
9 秘密保持義務と証言拒絶権の関係
10 司法書士の秘密保持義務違反の判断の具体例(参考)

1 弁護士・司法書士の秘密保持義務(秘密の範囲と例外)

弁護士や司法書士は業務の中で依頼者その他の関係者の秘匿性が高い情報を得ます。そこで,法律上,秘密保持義務(守秘義務)を課せられています。
本記事では,秘密保持義務の対象となる情報(秘密)の範囲や,例外的に開示が許される状況について説明します。

2 弁護士法と司法書士法の秘密保持義務(権利)の規定

まず最初に,秘密保持にを規定する弁護士法と司法書士法の条文の規定を押さえておきます。似ていますが,『正当な事由』や『法律に別段の定め』などの用語の有無に違いがあります。また,弁護士法の方だけは義務に加えて権利としても規定されています。歴史的な制定経緯が反映されていますが,ここでは触れません。

<弁護士法と司法書士法の秘密保持義務(権利)の規定>

あ 弁護士法の秘密保持の権利と義務の条文

(秘密保持の権利及び義務)
第二十三条 弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
※弁護士法23条

い 司法書士法の秘密保持義務の条文

(秘密保持の義務)
第二十四条 司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。
※司法書士法24条

う 秘密保持義務違反の罰則
主体 法定刑 根拠
弁護士 懲役6か月以下or罰金10万円以下 刑法134条1項(秘密漏示罪)
司法書士 懲役6か月以下or罰金50万円以下 司法書士法76条1項

3 『職務上知り得た』の意味

秘密保持義務が課せられる情報(秘密)は,職務上知り得たものであると規定されています。
文字どおり,情報の入手経路を職務を行う過程に限定するものであると考えられています。

<『職務上知り得た』の意味>

あ 現在の一般的見解

『職務上知り得た』とは
弁護士(司法書士)が職務を行う過程で知り得たということである
職務行為を離れて知り得た秘密に関しては,秘密保持の権利・義務はない
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p157

い 広く捉える見解(旧弁護士倫理)

旧弁護理倫理20条の解釈として
受任していない事件にかかる秘密,紛争問題と無関係の秘密についても
信頼関係があればこそ開示が行われる
→『職務上』知り得た秘密として広く考えるべきである
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣1996年p87,88

う 証言拒絶権との比較(参考)

一般的見解(あ)は
弁護士(司法書士)の証言拒絶権の対象としての『職務上知り得た』の解釈と同様である
詳しくはこちら|民事訴訟・刑事訴訟における弁護士・司法書士の証言拒絶権

4 『秘密』の意味

秘密保持義務が課せられる情報は,条文上『秘密』とだけ規定されています。『秘密』の用語は,特定の個人(本人)が知られたくないと考える情報だけではなく,一般的に知られたくないと考えるような情報の両方を含むと解釈されます。

<『秘密』の意味>

あ 折衷的意味の秘密

『秘密』とは,『い・う』の両方を指す

い 主観的意味の秘密

一般に知られていない事実であって,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質をもつ事項

う 客観的意味の秘密

一般人の立場からみて秘匿しておきたいと考える性質をもつ事項
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p157
※小林昭彦ほか著『注釈 司法書士法 第3版』テイハン2007年p260(客観的意味を指摘)
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣1996年p87(旧弁護士倫理20条)

え 証言拒絶権との比較(参考)

弁護士(司法書士)の証言拒絶権の対象としての『黙秘すべきもの』の解釈と同様である
詳しくはこちら|民事訴訟・刑事訴訟における弁護士・司法書士の証言拒絶権

5 正当な事由による適用除外

司法書士法では,秘密保持義務が適用されない場合として,条文に正当な事由が規定されています。
一方,弁護士法の秘密保持義務の規定には正当な事由という言葉はありません。しかし,解釈として,正当な事由による適用除外はあるとされています。

<正当な事由による適用除外>

あ 弁護士の秘密保持義務

秘密の開示について正当な事由がある場合は,弁護士法23条違反にあたらない
※仙台高裁昭和46年2月4日
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p157,158

い 司法書士の秘密保持義務

正当な事由がある場合は司法書士法24条違反にはならない
※司法書士法23条(条文の規定)

6 正当な事由の内容(弁護士・司法書士共通)

正当な事由の内容,つまり,秘密保持義務が例外的に適用されない状況にはいろいろなものがあります。
本人の承諾や重大な犯行計画や弁護士(司法書士)自身の責任が追及される状況が,秘密保持義務が適用されない例外的状況の典型例です。なお,弁護士の場合,本人の承諾がある場合は,正当な事由というよりも法律に別段の定めがある場合に該当するという理由で秘密保持義務が適用されないといえます。ただ,開示が許されるという結論は同じなので実質的な違いはありません。

<正当な事由の内容(弁護士・司法書士共通)>

あ 本人の承諾

本人(秘密を保持する利益のある者)が開示を承諾した
正当な事由に該当する
(または弁護士法23条の『法律に別段の定めがある場合』に該当する(後記※1))

い 重大な犯行計画

依頼者の犯罪行為の計画が明確で,その実行行為が差し迫っており,犯行の結果が極めて重大な場合
例=殺人や重大な傷害を犯そうとするなど
正当な事由に該当する

う 弁護士が紛争の当事者となったケース

依頼事件に関連し,弁護士自身が民事・刑事などの係争の当事者となり,あるいは懲戒の請求や紛議調停の場合において
主張・立証のために必要な場合
正当な事由に該当する
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣1996年p90

7 正当な事由の内容(司法書士のみ)

以上の説明までは,弁護士と司法書士で,実質的に秘密保持義務の範囲に違いは出ていませんでした。
しかし,1つだけ明確な違いがあります。それは刑事訴訟における証言(証人となった場合)です。証言拒絶権の有無が違うのです。その結果,司法書士が刑事訴訟で証言することについては,全面的に秘密保持義務が適用されないことになるのです。

<正当な事由の内容(司法書士のみ)>

あ 刑事訴訟における証言(司法書士のみ)

司法書士が刑事訴訟における証人として証言する場合
正当な事由に該当する
※旧司法代書人法10条
※最高裁昭和27年8月6日
※佐藤均著『詳解 司法書士法』日本加除出版2004年p176
※小林昭彦ほか著『注釈 司法書士法 第3版』テイハン2007年p260

い 弁護士との比較

刑事訴訟において弁護士は証言拒絶権を持つ
一方,司法書士は証言拒絶権を持たない
(民事訴訟では弁護士・司法書士の両方が証言拒絶権を持つ)
詳しくはこちら|民事訴訟・刑事訴訟における弁護士・司法書士の証言拒絶権
司法書士だけ証言をすることが許容される
→秘密の開示の正当の事由となる

8 法律上の別段の定めの内容(弁護士法)

弁護士法の秘密保持義務の規定には,法律上の別段の定めがある場合は適用が除外されるという記述があります。
その内容は,証言拒絶権が例外的に適用されないという規定です。
主に本人が開示を承諾した場合ということです。本人の承諾がある場合は,前記のように正当な事由として秘密保持義務が適用除外になる,と考えても結果的には同じことです。

<法律上の別段の定めの内容(弁護士法)(※1)

あ 法律上の別段の定めの内容

弁護士法23条の『法律に別段の定めがある場合』とは
(証言に関して)『い・う』が該当する

い 民事訴訟法の証言拒絶権の例外

証人が黙秘の義務を免除された場合
※民事訴訟法197条2項

う 刑事訴訟法の証言拒絶権の例外

(秘密の)本人が承諾した場合,権利の濫用と認められる場合など
※刑事訴訟法149条但書
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p157

9 秘密保持義務と証言拒絶権の関係

以上の説明は,民事訴訟と刑事訴訟での証言拒絶権についてのものでした。権利なので,証言を拒絶することができるという意味です。
ということは,この権利を行使しない,つまり,証言を拒絶しないという自由もあるのです。
では,証言拒絶権を行使しないで秘密を開示(証言)した場合にはどうなるでしょう。一般的には秘密保持義務違反と判断されます。
しかし,この秘密保持義務違反がストレートに刑事責任(秘密漏示罪)につながるとは限りません。刑事責任はハードルが(秘密保持義務違反よりも)高いと考えられているのです。

<秘密保持義務と証言拒絶権の関係>

あ 証言拒絶権の不行使(前提)

民事訴訟法や刑事訴訟法によって証言を拒絶することが可能である
それにも関わらず,弁護士は証言拒絶権を行使しなかった
=弁護士が秘密を開示した

い 証言拒絶権の不行使と秘密保持義務違反の関係

弁護士法23条の秘密保持義務違反にあたると解すべきである
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p158

う 証言拒絶権の不行使と秘密漏示罪の関係

証言拒絶の権利を行使しなかった場合でも
刑法上の秘密漏示罪が成立するとは限らない
本人の利益と司法上の利益の比較衡量により違法性の判断がなされるなどの見解がある
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p158

10 司法書士の秘密保持義務違反の判断の具体例(参考)

最後に,司法書士の秘密保持義務違反に関する判断の具体例を紹介します。やや古いものですが参考になります。
前記のように,刑事訴訟では司法書士には証言拒絶権がないために秘密開示が許されるという弁護士との違いが反映されていることも読み取れます。
逆に,これらの中で適法と判断されているものも,弁護士の場合は違法となる可能性があるといえるのです。

<司法書士の秘密保持義務違反の判断の具体例(参考)>

あ 警察に対する事件内容の開示(違法)

司法書士が取り扱った事件について証人として警察官の尋問に答え,または始末書などを提出すること
→旧司法書士法11条に抵触する
※昭和13・7法曹会決議

い 事件簿の開示(適法)

犯罪捜査の必要により司法警察職員が司法書士事件簿の閲覧を求めること
→旧司法書士法11条の『正当な事由』に該当する
→閲覧に応じるべきである
※昭和31年10月18日民事甲第2419号回答

う 地方自治法による証言(適法)

司法書士が取り扱った地積更正登記手続(土地家屋調査士が作成した申請書の提出代行)に関連して
隣地である地方自治体(町)の所有地をとり込み詐欺を行ったとの容疑で刑事事件が発生していた
司法書士が町議会から地方自治法100条1項により登記手続の事情について証言を求められた
これに応じて証言しても旧司法書士法11条に違反しない
※昭和42年度法務局・地方法務局庶務課長・総務課長会同協議問題67問

本記事では,弁護士と司法書士の秘密保持義務の対象となる秘密の範囲や例外について説明しました。
実際には個別的事情によって判断は違ってきます。
弁護士や司法書士の秘密保持義務に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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