【債権の譲渡性(平成29年改正民法466条〜466条の5)(解釈整理ノート)】

1 債権の譲渡性(平成29年改正民法466条〜466条の5)(解釈整理ノート)

債権は譲渡可能が原則とされています。これに関して、平成29年の民法改正で、基礎理論(民法466条)が変わり、また、付随的な規定(民法466条の2〜6)が新設されました。本記事では、民法466条から466条の5の規定や解釈を整理しました。
なお、民法466条の6(将来債権の譲渡)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|将来債権譲渡(集合債権譲渡)の要件・活用の例

2 民法466条〜466条の5の条文

民法466条〜466条の5の条文

(債権の譲渡性)
第四百六十六条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。
(譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託)
第四百六十六条の二 債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。
2 前項の規定により供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。
3 第一項の規定により供託をした金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる。
第四百六十六条の三 前条第一項に規定する場合において、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人(同項の債権の全額を譲り受けた者であって、その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときであっても、債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。この場合においては、同条第二項及び第三項の規定を準用する。
(譲渡制限の意思表示がされた債権の差押え)
第四百六十六条の四 第四百六十六条第三項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。
2 前項の規定にかかわらず、譲受人その他の第三者が譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった場合において、その債権者が同項の債権に対する強制執行をしたときは、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。
(預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力)
第四百六十六条の五 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第四百六十六条第二項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
2 前項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。
※民法466条〜466条の5

3 債権譲渡自由の原則と例外(民法466条1項)

(1)債権譲渡の原則(民法466条1項本文)

債権譲渡の原則(民法466条1項本文)

債権は原則として譲渡することができる
これは債権の流動化や担保化を容易にする趣旨である

(2)債権の性質が譲渡を許さない(民法466条1項ただし書)

債権の性質が譲渡を許さない(民法466条1項ただし書)

あ 給付の性質

給付の性質上、原債権者だけに給付すべきもの
例=教授を受ける債権、肖像を描かせる債権、不作為債権など

い 給付の相手方に意義がある

特定の債権者に給付することに重要な意義がある債権
例=雇用契約における使用者の債権、賃借人の債権、委任者の債権など

う 両者の関係に意義がある

特定の債権者との間に決済させることを必要とする特別の事由がある債権
例=交互計算に組み入れられた債権など

4 譲渡制限特約(意思表示)の効力(民法466条2項~4項)

(1)民法466条2項~4項の規定内容

民法466条2項~4項の規定内容

あ 債権譲渡自体の効力→有効(2項)

平成29年改正により、譲渡制限特約に違反してなされた譲渡も有効とされた
(特約の効力は債権的効力にとどまる)

い 悪意・重過失の譲受人の適用除外(3項)

譲渡制限特約について悪意または重過失の譲受人に対しては、債務者は以下の対抗手段を有する
(ア)債務の履行を拒むことができる(イ)譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗できる

う 履行遅滞債務者の適用除外(デッドロック回避)(4項)

債務者が債務を履行せず、譲受人が相当の期間を定めて譲渡人への履行を催告し、その期間内に履行がないときは、債務者は3項の保護を受けられない

(2)譲渡制限特約違反の譲渡の効力→物権的(改正前)(参考)

譲渡制限特約違反の譲渡の効力→物権的(改正前)(参考)

譲渡制限特約に違反する債権譲渡は効力を生じないとされていた(物権的効力説)
※大判大正4年4月1日民録21輯422頁

(3)単独行為(一方的意思表示)による譲渡制限→遺贈など

単独行為(一方的意思表示)による譲渡制限→遺贈など

単独行為によって債権を成立させる場合には、その単独行為で債権の譲渡を許さないものにすることができる
例=遺贈

5 譲渡制限特約についての判例

(1)譲渡制限特約違反を主張できる者→譲渡人(債権者)は除外

譲渡制限特約違反を主張できる者→譲渡人(債権者)は除外

債権者自らが、自ら譲渡した債権について譲渡制限特約を理由に譲渡無効を主張することはできない
※最判平成21年3月27日民集63巻449頁

(2)承諾による譲渡制限解除

承諾による譲渡制限解除

あ 譲渡前の承諾→譲渡禁止なし扱い

譲渡制限特約をした債務者が債権譲渡に承諾を与えた場合、譲渡前の承諾であれば有効となる
※最判昭和28年5月29日民集7巻608頁

い 譲渡後の有効→譲渡禁止なし扱い

譲渡後の承諾であっても、債権譲渡は譲渡時に遡って有効となる
※最判昭和52年3月17日民集31巻308頁

う 承諾の遡及効→第三者を害さない

債権譲渡の承諾の遡及効は、それまでに生じた第三者を害しえない
※最判平成9年6月5日民集51巻2053頁

6 譲渡制限債権の譲渡における供託(民法466条の2)

(1)民法466条の2の規定内容

民法466条の2の規定内容

あ 供託の要件と効果

債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたとき、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる
債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合は、譲渡人の現在の住所を含む

い 債務者の通知義務

供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない

う 還付請求権

供託された金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる

(2)民法466条の2の趣旨

民法466条の2の趣旨

譲渡制限債権の譲渡がなされたケースにおいて
譲受人が譲渡制限の特約の存在を知っていたか否かが分からないため、債務者が抗弁に基づく履行拒絶に踏み切れない場合もありうるので、金銭債権の場合に限って、供託を認めた

(3)債権者不確知による供託→不可

債権者不確知による供託→不可

譲渡制限債権の譲渡がなされたケースにおいて
債権者は譲受人であることが確定しているから、「債権者不確知」を理由とする供託はできない

7 譲渡禁止特約付債権の譲渡人破産の場合の供託(民法466条の3)

(1)民法466条の3の規定内容

民法466条の3の規定内容

あ 譲受人の供託請求権

譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたケースにおいて
譲渡人について破産手続開始の決定があったとき、譲受人(債権の全額を譲り受けた者であって、その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る)は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときであっても、債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる

い 債務者の通知義務

供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない

う 還付請求権

供託された金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる

(2)民法466条の3の趣旨

民法466条の3の趣旨

譲渡制限債権の譲渡がなされ、譲渡人について破産手続開始決定がなされたケースにおいて
受領権限を承継した破産管財人への弁済により譲受人による債権回収が困難になることを回避する

8 譲渡禁止特約付債権の差押(民法466条の4)

(1)譲渡禁止特約付債権の差押の原則→有効

譲渡禁止特約付債権の差押の原則→有効

あ 規定内容

民法466条3項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない

い 趣旨

私人間の合意により差押え禁止債権を創造することを認めない趣旨である

う 判例(改正前)

譲渡禁止の特約がある債権も差押えることができる(特約は差押え可能性を奪わない)
※最判昭和45年4月10日民集24巻240頁

(2)譲渡禁止特約付債権の差押の例外→悪意の譲受人への差押

譲渡禁止特約付債権の差押の例外→悪意の譲受人への差押

あ 規定内容

譲受人その他の第三者が譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった場合において、その債権者が当該債権に対する強制執行をしたときは、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる

い 趣旨

債権の譲受人の差押債権者は、譲受人が有する地位を引き継ぐので、譲受人以上の権利が認められる必要はない

9 預貯金債権の譲渡制限特約の効力(民法466条の5)

預貯金債権の譲渡制限特約の効力(民法466条の5)

あ 規定内容

預貯金債権についての譲渡制限の意思表示は、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる
この規律は、強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない

い 趣旨→例外的に物権的効力

預貯金債権については、改正前の判例法理を維持し、悪意・重過失者への特約に反する譲渡は効力を有しないものとする趣旨である

10 関連テーマ

(1)譲渡禁止特約付債権・非公開・譲渡制限株式の差押

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11 参考情報

参考情報

我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p955〜962

本記事では、債権の譲渡性について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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