【共同抵当×代価の配当|物上保証人と後順位抵当権者の優劣】

1 物上保証人vs債務者所有物件の後順位抵当権者|基本
2 物上保証人vs債務者所有物件の後順位抵当権者|反転
3 重複代位|物上保証人×後順位抵当権者|基本
4 重複代位|物上保証人×後順位抵当権者|権利不行使特約
5 同一物上保証人の代位→否定
6 別の物上保証人相互の代位→肯定

1 物上保証人vs債務者所有物件の後順位抵当権者|基本

共同抵当では代価の配当というルールがあります。
詳しくはこちら|共同抵当×代価の配当|基本
この中で,物上保証人と後順位抵当権者の優劣関係は複雑です。
本記事では,これについての解釈論を説明します。
まずは基本的な類型についての判例の理論を整理します。

<物上保証人vs債務者所有物件の後順位抵当権者|基本>

あ 当事者・担保状況(※1)

ア 債権者A 共同抵当権を有している
イ 債務者C 甲不動産を所有している
抵当権を設定している
1番=A
2番=B
ウ 物上保証人D 乙不動産を所有している
抵当権を設定している
1番=A

い 担保権実行

乙不動産の担保権が実行された
→Dは求償権を持つ

う 代位

甲不動産の担保権実行において
→DはBよりも優先される
=『Aの債権全額』について代位する
『物上保証人優先説』と呼ばれる
※最高裁昭和44年7月3日(※2)

2 物上保証人vs債務者所有物件の後順位抵当権者|反転

前記の判例とは担保権実行の順序が逆のケースを説明します。
直接的な判例はありません。
ただ,前記の判例理論を前提として結論をまとめます。
要するに『物上保証人優先説』による結論ということです。

<物上保証人vs債務者所有物件の後順位抵当権者|反転>

あ 当事者・担保状況

前記※1の事情を前提とする

い 担保権実行

甲不動産の担保権が実行された

う 代位

乙不動産の担保権実行において
→DはBよりも優先される
→BはAに代位しない

え 解釈・根拠

前記判例を前提にするとこの解釈になるはずである
※最高裁昭和44年7月3日参照(前記※2

3 重複代位|物上保証人×後順位抵当権者|基本

『代位』が重複するような状態も生じます。
代位が重複するケースのうち基本的な形態の解釈をまとめます。

<重複代位|物上保証人×後順位抵当権者|基本>

あ 当事者・担保状況(※3)

ア 債権者A 共同抵当権を有している
イ 債務者C 甲不動産を所有している
抵当権を設定している
1番=A
(2番=E)
ウ 物上保証人D 乙不動産を所有している
抵当権を設定している
1番=A
2番=B

い 担保権実行

乙不動産の担保権が実行された
Dは求償権を持つ

う 代位|ノーマル(※4)

甲不動産の担保権実行において
DはAに代位する
Bは『Dの代位』に代位する
※最高裁昭和53年7月4日

え 代位|後順位抵当権者との競合

甲に第2抵当権者Eが存在している場合でも
→『う』と同様である
Dによる付記登記・差押は不要である
※最高裁昭和60年5月23日

4 重複代位|物上保証人×後順位抵当権者|権利不行使特約

重複する代位と『権利不行為特約』の関係が問題となります。
この特約は部分的に有効,という結論になっています。

<重複代位|物上保証人×後順位抵当権者|権利不行使特約>

あ 当事者・担保状況

前記※3の事情を前提とする
AとDとの間で『権利不行使特約』が合意されていた
内容=代位して行使することをしない

い 担保権実行

乙不動産の担保権が実行された
Dは求償権を持つ

う 代位

甲不動産の担保権実行において
DはAに代位する
Bは『Dの代位』に代位する
つまり,前記※4と変わりはない
=Bが優先される

え 特約の解釈

特約は次の範囲で有効である
有効な範囲=代位権者が独自に競売申立を行うことを制限する
※最高裁昭和60年5月23日

5 同一物上保証人の代位→否定

物上保証である担保物件が複数存在するケースがあります。
ここで,物上保証人は同一,というケースの判例があります。
結果的に物上保証人の代位は否定されています。

<同一物上保証人の代位→否定>

あ 当事者・担保状況

ア 債権者A 共同抵当権を有している
イ 債務者C 不動産への抵当権設定はない
ウ 物上保証人D 甲・乙不動産を所有している
それぞれに抵当権を設定している
・甲不動産
1番=A
・乙不動産
1番=A
2番=B

い 担保権実行

乙不動産の担保権が実行された

う 代位

甲不動産の担保権実行において
BはAに代位する
DがAに代位することはない
※最高裁平成4年11月6日

6 別の物上保証人相互の代位→肯定

前記同様に,物上保証である担保物件が複数存在するケースです。
ただし,別々の物上保証人,つまり所有者でした。
この場合は代位が認めらています。

<別の物上保証人相互の代位→肯定>

あ 当事者・担保状況

ア 債権者A 共同抵当権を有している
イ 債務者C 不動産への抵当権設定はない
ウ 物上保証人D 甲不動産を所有している
抵当権を設定している
1番=A
エ 物上保証人E 乙不動産を所有している
1番=A
2番=B

い 担保権実行

乙不動産の担保権が実行された
Eは求償権を持つ

う 代位|基本

甲不動産の担保権実行において
EはAに代位する
代位する範囲=甲・乙の価格に応じた割合
※民法501条5号

え 代位の代位

Bは『Eの代位(『う』)』にさらに代位する
※大判昭和11年12月9日

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