【投資用不動産の不正セールス|収入・コスト・利回り・事業用ローン・売却見込】

1 空室リスクを『小さめ』に説明する→誤解発生
2 サブリースによる『収入確実』を強調する→誤解発生
3 サブリースの保証賃料は『変更』されることがある|サブリース契約の条項例
4 『表面利回り』のみを強調する→誤解発生|『利回り』は『表面/実質』の2種類ある
5 事業用ローンの『不利な内容』を説明しない→誤解発生
6 空部屋マッチング利用による収益|リスク説明不足
7 将来の売却見込みを強調する→誤解発生
8 投資用不動産の『将来の売却見込み』→告知義務あり|判例
9 その他の誤解|社会経済の変動予測・特別な関係で『安く押さえた』・急かす
10 投資用不動産|投資家獲得セールストークスクリプト集

本記事では『投資用不動産』についての『不正なセールス』について説明します。
このような事情をしっかり把握・主張・立証することで有利な解決につながります。
なお,売買契約の解消・損害賠償の基本的事項は別記事で説明しています。
詳しくはこちら|売買契約の説明不備・誤解→解消|詐欺・錯誤・消費者契約法|宅建業者の責任

1 空室リスクを『小さめ』に説明する→誤解発生

投資用不動産の購入者の最大の関心・目的は『収益(性)』です。
マイナス要素である『空室リスク』の説明不足は頻発しています。

(1)空室リスクの説明不足

<ありがちな誤解|空室リスク>

あ セールス内容

収支シミュレーション上,良好な収益が見込まれる

い 後から判明した事実

シミュレーションの設定としての入居率が異様に高めになっていた
=実際にはこの『入居率』に達することはなかった

(2)避けられない空室期間

実際には,一般の方は,次のような『空室期間』の意識が欠けることが多いのです。

<避けられない空室期間>

あ 退去→次の賃借人入居

募集期間・清掃期間

い 一定規模の修繕

修繕期間

2 サブリースによる『収入確実』を強調する→誤解発生

投資用不動産の『収益』の心配を解消する手法として『賃料保証・サブリース』があります。
これもセールスの中での誤解多発地点です。

<ありがちな誤解|サブリース>

あ セールス内容

『一括借上・サブリース・賃料保証』→収入が確保されている
借り上げている会社が倒産しても他の会社が承継するから問題ない

い 後から判明した事実

『保証賃料の変更・契約解消』が可能となっていた
サブリース会社の倒産で『賃料受領』が途絶えた

実務上よくみられる『後から分かって驚く』というサブリース契約については次に説明します。

3 サブリースの保証賃料は『変更』されることがある|サブリース契約の条項例

サブリース契約がなされている投資用不動産の購入時は『サブリース契約書』をしっかり確認すべきです。
見落としがちな条項の具体例をまとめます。

<サブリース契約の要注意条項例>

あ 契約の中途解除自由タイプ

第n条(契約の解除)
甲又は乙はnか月の予告期間をもって本契約の解約を相手方へ通知できるものとし,この場合は予告期間の満了と同時に本契約は終了する。

い 保証賃料に承諾しないと契約終了タイプ

第n条(契約の解除)
乙は,第n条第m項の規定に従って,経済状況の変化,近隣における賃料相場の変動等を考慮して保証賃料額の改定を行ったにも関わらず,甲が保証賃料額の改定を承諾しない場合,乙は直ちに本契約を解除することができる。

う ステルス解除機能タイプ

第n条(契約の解除)
甲が本契約に違反し乙が催告したにも関わらず甲が是正しない時,又は本契約に定められた甲と乙との協議が成立しないことにより,本契約を継続することが著しく困難な状態になった時は,乙は催告の上,本契約を解除することができるものとする。

このような条項が後から発覚した場合,事情により契約解除・取消の原因となります。
契約解消などの事後的な解決方法は別記事で説明しています(リンクは冒頭記載)。

<参考情報>

『エコノミスト』2015年4月14日p31

4 『表面利回り』のみを強調する→誤解発生|『利回り』は『表面/実質』の2種類ある

(1)『コスト』の説明不足

投資用不動産のセールスでは『コストの説明漏れ』も頻発しています。

<ありがちな誤解|『コスト』の除外>

あ セールス内容

表面利回りとして高い率が説明された

い 後から判明した事実

コストを控除した『実質利回り』は小さいorマイナス

(2)2種類の『利回り』|表面/実質

『コストの誤解』には『用語』にも原因があります。
セールスで非常によく登場する『利回り』に2種類があるのです。

<『利回り』の種類|『表面/実質』>

あ 表面利回り

表面利回り
=年間収入÷物件価格×100(%)

い 実質利回り

実質利回り=
(年間収入-ランニングコスト)÷(物件価格+初期(購入時)コスト)×100(%)

う 大きな違い

『表面利回り』には『コスト』が含まれていない
=『コストゼロ』という前提での計算

(3)ランニングコストの内容

投資用不動産の購入の検討では『ランニングコスト』を計算にしっかり含めるべきです。
ランニングコストの主要なものをまとめます。

<ランニングコストのうち大きなもの>

あ 各種税金
い 修繕積立金(マンションの場合)・修繕費
う 金利

5 事業用ローンの『不利な内容』を説明しない→誤解発生

投資用不動産を購入する場合は『ローンを利用する』ことが通常です。
『ローン』についてのセールスでも誤解がよく生じます。

<ありがちな誤解|事業用ローン>

あ セールス内容

事業用ローンの金利・信用情報への影響を説明しない

い 後から判明した事実

ア 事業用ローンは住宅ローンよりも金利が高いイ 事業用ローンの返済中は住宅ローンの審査が通りにくくなる

一般的な個人向けの『住宅ローン』がよく知られているので『混同してしまう』ケースが多いです。

6 空部屋マッチング利用による収益|リスク説明不足

投資用不動産のセールスでは『空部屋マッチング』が登場することもあります。
従来の一般的な『賃貸』による収益よりは大幅に収益がアップします。
利益とともに負担する『リスク』の説明が不足するケースもあります。

<空部屋マッチングによる収益|リスク説明不足>

あ セールストーク×空部屋シェアリング

『空部屋シェアリング』での収益プランを説明する
適法性・リスクの説明が不足しているケースがある

い トラブル典型例

物件を購入した者が部屋の提供サービスを遂行した
保健所の調査を受けた
宿泊者への部屋の提供をやめることとなった
ローン返済が困難となった
→『最初から知っていれば購入しなかった』

詳しい内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|空部屋マッチング|法的問題|全体|ホストの適法性確保・リスク説明

7 将来の売却見込みを強調する→誤解発生

投資用不動産での関心は『賃料収入』だけではありません。
『将来の売却(イグジット)』も重要です。
これも不正なセールスの被害が多いです。

<ありがちな誤解|転売の見込み>

あ セールス内容

立地が良いので,将来高く売却できる

い 後から判明した事実

ア マーケットの状況で大きく値下がりしたイ 『購入価格が高かった』→『下落幅』が大きくなった

8 投資用不動産の『将来の売却見込み』→告知義務あり|判例

投資用不動産の売却見込みの説明不備により契約取消を認めた判例を紹介します。

<投資用物件における『売却見込み』の告知義務|判例>

あ 結論

物件の市場性について仲介業者・売主が購入希望者に対し何ら説明しなかった場合
→契約の重要事項について消費者に不利益となる事実を故意に告げなかったものと認める
→取消を認める

い 理由

投資目的の購入でも『将来の売却』は『投資の回収』の一環である
購入者は将来の市場価格に重大な関心を持っていることは当然である
※東京地裁平成24年3月27日

9 その他の誤解|社会経済の変動予測・特別な関係で『安く押さえた』・急かす

不動産取引は『規模が大きい』のでセールスも過熱する傾向が強いです。
不正で巧みなセールス手法も編み出されています。

<不正なセールス|その他>

あ 『お得感』

当事者との特別な関係で『安い価格』を獲得した

い 社会的経済状況

他の投資・金融商品・預貯金の将来の不安を強調
例;経済雑誌・経済アナリスト・エコノミストのコメントの指摘

う 急かす

例;『無理に物件を押さえている。今日中の返事が必要』

え 『仮契約』を軽いものとしてサインを迫る

契約としての拘束力が生じる
『印鑑なし』『仮』でも変わりはない

古典的なのですが,被害はあとを絶ちません。

10 投資用不動産|投資家獲得セールストークスクリプト集

投資用不動産のセールスにおける『誤解を招く』可能性のあるセールストークの例をまとめます。
実際にトラブルになった事例から集約したものです。
これらの再現ができた程度により,契約の解除や取消などが認められることにつながります。

<投資家獲得トークスクリプト集>

『通常5000万円であるところ,先方に無理を言って4000万円で押さえている』
『先方は私の個人的な知り合いor知り合いの紹介』
『借上げ物件なので部屋が空室になる心配はない』
『家賃収入は30年以上にわたり一定である』
『サブリース会社が倒産しても管理組合があるので別の会社に移管されるから大丈夫』
『損をすることはない』
『月々の返済は小遣い程度で賄える』
年金や生命保険の将来の不安などの説明・雑誌の提示
→『経済アナリストが不動産投資を推奨している』
『ローン会社を紹介するから心配ない』
『仮に将来不動産を売却する場合でも,ローン残債を返して利益が出る』
『将来確実に資産になる』
『無理を言って物件を押さえているので,今日か明日中に返事が必要だ』
『別の購入希望者を止めて,待たせている』
『スグに売れてしまう』

実際の解決事例の一部を別記事にまとめてあります。
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