1 崖地の建築制限と仲介の説明義務(総論)
2 崖地の建築制限のある土地の売買契約
3 売買に際して行われた説明内容
4 仲介業者の説明義務違反(肯定判断)
5 損害額算定と過失相殺

1 崖地の建築制限と仲介の説明義務(総論)

崖地に建物の建築すると崩落・倒壊のおそれがあります。
そこで,建築基準法で大きな制限を受けます。
土地の売買の後に,崖地としての法的な制限が発覚すると,買主は想定外の損失を受けます。
そこで,瑕疵担保責任や説明義務違反などの法的責任が生じることになります。
本記事では,このような実例についての裁判例を紹介します。

2 崖地の建築制限のある土地の売買契約

このケースにおける売買契約締結と問題発覚の経緯をまとめます。

<崖地の建築制限のある土地の売買契約>

あ 売買に至る経緯

Xは建物建築用地としての土地をさがしていた
土地甲にはがけ地が含まれていた
仲介業者Yは,土地甲に関する規制について告知しなかった
がけ地部分の擁壁設計案を示した

い 売買契約締結

Xは土地に希望する建物が建築できるものと信じていた
Xは土地を購入した

う 購入後の問題発覚

土地甲に適用される規制があった
擁壁設計案は,宅地造成に関する各種基準に適合しなかった
当初の目的どおりの建物を土地上に建築できなかった

え 訴訟提起

Xは Yに対し損害賠償を請求した
※東京高裁平成12年10月26日

3 売買に際して行われた説明内容

この売買契約の際,仲介業者は,法規制のごく一部については説明しました。
しかし,具体的に大きな建物建築の制限を受けるということは説明していませんでした。

<売買に際して行われた説明内容>

あ 重要事項説明(基本)

売買の際の重要事項説明について
YはXに対し『い』の説明をした
『う』の説明をしなかった

い 説明した内容

盛り土をする場合に適用される法令のうち一部
内容=宅地造成等規制法,同法施行令,指導方針による規制がある旨

う 説明しなかった内容

ア 法令
建築基準法,県条例,指導方針に基づく規制がある旨
イ 具体的内容
土地にがけ部分があることによって
土地の東側部分の利用が大幅に制限される
盛土をする場合は擁壁築造工事を施工する必要がある
擁壁築造工事は大規模で多額の費用を要する
※東京高裁平成12年10月26日

4 仲介業者の説明義務違反(肯定判断)

裁判所は,仲介業者の説明義務違反を認めました。
誤解を生じるような説明しかしていなかったという判断です。

<仲介業者の説明義務違反(肯定判断)>

あ 誤解発生の原因

Yは,擁壁設計案としては不完全で,かつ,誤解を与えるような概算見積書を格別の説明を加えることもなく交付した
→ Xに『い』の誤解を生じさせた

い 誤解の内容

土地東側の境界近くに擁壁を築造することができる
これによって本件土地の全体的な利用が可能である

う 債務不履行

Yには,仲介契約に基づく善管注意義務に違反する行為がある
債務不履行による損害賠償義務がある
※東京高裁平成12年10月26日

5 損害額算定と過失相殺

裁判所は,瑕疵担保責任として,損害賠償責任を認めました。
一方で,買主の過失が6割あると判断しました。
賠償額は損害全体から過失相殺の6割を減額したものとなりました。

<損害額算定と過失相殺>

あ 損害の内容
項目 金額
仲介手数料 370万8000円
土地の適正価格と売買価格の差額 2300万円
合計 2670万8000円
い 過失相殺の要因

Xには,盛り土が必要であることや擁壁が必要であることについて相当な知識があった
概算見積書は内容も簡略で一見して正式の見積書とはいえないものであった
売主に対する交渉をせず,長年にわたって仲介業者の責任の追及に終始した
→このことが損害の回復を困難にした

う 過失相殺の割合

過失相殺は6割とする

え 賠償額

Yに対し,1174万3200円の賠償金支払義務がある
※東京高裁平成12年10月26日