【遺言無効確認訴訟の訴訟法上の理論の全体像】
1 遺言無効確認訴訟の訴訟法上の理論の全体像
実際の相続、遺産分割では、遺言があっても、その有効性が問題となることが多いです。つまり、結果的に遺言が無効となるケースもよくあるのです。相続人の間で有効、無効の見解が熾烈に対立するケースでは最終的に遺産分割訴訟で裁判所が有効か無効かを判断します。
遺言無効確認訴訟は訴訟法上の扱いについて、いろいろな議論(理論)があります。本記事ではそのような理論について全体的に説明します。
2 遺言無効確認の訴訟と調停手続(調停前置・管轄)
実際に『遺言を無効』と主張する場合の手続について説明します。
遺言無効確認訴訟や調停です。
これらの手続を利用する場合の基本的事項をまとめます。
遺言無効確認の訴訟と調停手続(調停前置・管轄)
あ 遺言無効×訴訟/調停|事物管轄
手続 裁判所・管轄 調停 家庭裁判所 訴訟 地方裁判所(原則)
い 遺言無効×訴訟/調停|場所管轄
被告or相手方住所地
う 調停前置|原則
先に『調停』を申し立てるべきである
※家事事件手続法257条1項
詳しくはこちら|調停前置|基本|趣旨・不服申立
え 調停前置|例外
例外的事情がある場合
→『最初から訴訟』も認められる
例;話し合いができないことが明確である
詳しくはこちら|調停前置=必要的付調停|例外=合意成立の余地/見込みなし|調停取下
3 遺言無効確認訴訟の訴訟法上の基本理論(概要)
(1)当事者→相続人全員必須ではない
遺言無効確認訴訟は、固有必要的共同訴訟という分類ではありません。つまり、相続人全員が当事者になることが必須ではありません。対立していない人は原告や被告に入れなくてもよいのです。
ただし、遺産確認訴訟や相続人の地位がないことの確認の訴えは、固有必要的共同訴訟です。つまり相続人全員が原告か当事者に含まれていなくてはなりません。
詳しくはこちら|遺産分割の前提問題(遺産の範囲・相続人の確定・遺言の有効性・所有権確認)
(2)遺言執行者→被告になることがある
遺言執行者が選任されている場合、遺言執行者は被告になります。ただし、(遺言無効確認ではなく)遺言が無効であることを前提とした抹消登記請求訴訟の場合は、通常どおりに、抹消すべき登記の名義人が被告となります。
詳しくはこちら|遺言執行者の権限|預金払戻・遺言無効確認訴訟・登記抹消請求訴訟
(3)遺言無効確認訴訟の訴えの利益→あり(適法)
「確認訴訟」の基本ルールとして、現在の権利関係を確認するものだけが認められます。遺言無効確認訴訟は遺言の有効性を確認するものなので、形式的にはこれにあたりません。しかし、現在の法律関係の判断と直結するので訴えの利益が認められています。つまり訴訟として適法なのです。
(4)遺言無効確認訴訟の主張・立証責任(要件事実)(概要)
遺言無効確認訴訟では、理論上は、原告は訴状があり、被告が無効であると主張していることだけを主張、立証すれば足ります。「有効である」ことは被告が主張、立証しなくてはならないのです。
以上で説明した、訴訟法上の理論の基本部分については、別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|遺言無効確認訴訟の訴訟法上の基本理論(解釈整理ノート)
4 遺言無効確認訴訟の既判力→その後の遺産分割に活きる
遺言無効確認訴訟は、和解が成立して終了することがあります。
和解が成立しない場合、通常判決言渡で終わります。
判決が確定した時点で『既判力』が生じます。
遺言無効確認訴訟の『既判力』について説明します。
遺言無効確認訴訟の既判力→その後の遺産分割に活きる
あ 判決の既判力
遺言無効確認訴訟の判決が確定した場合
→『既判力』が生じる
※民事訴訟法114条
い 現実的効果
その後の別の手続が行われる
例;遺産分割の調停・審判、その他の訴訟
→遺言無効確認訴訟の判決内容が前提とされる
5 遺言無効確認訴訟における和解→遺産分割・遺留分も含める
遺言無効確認訴訟の中で和解が成立することもあります。
この場合、他の『メインの紛争』も含めた全体的解決にするのが一般です。
遺言無効確認訴訟における和解→遺産分割・遺留分も含める
あ 基本的事項
遺言の有効/無効はメインの紛争の『前提』に過ぎない
→メイン紛争の内容も協議することが多い
→メイン紛争の内容も合意・和解に至ることもある
い 遺言『無効』×和解
その後『遺産分割』がメインの財産承継となる
『地裁』なので『遺産分割』は本来的管轄ではない
→和解が成立してもストレートな和解条項にできない
→『遺産を分割することに合意する』という条項にする
う 遺言『有効』×和解
その後『遺留分減殺請求』がなされることが多い
実務的には『予備的請求』として最初から主張されるのが一般である
→遺言無効確認訴訟の中で『遺留分』に関しても和解するケースもある
本記事では、遺言無効確認訴訟の訴訟法上の理論の全体像について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言の有効性など、相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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