【信託の終了ができずデッド・ロックに陥るリスクとその回避策】

1 信託は特に設定がないと『委託者と受益者の合意』で終了する
2 委託者と受益者の対立→信託が終了されない,というデッド・ロックに注意
3 デッド・ロックの救済措置として裁判所の『信託終了命令』がある
4 『信託の終了』を決定できる者を設定しておくことができる

1 信託は特に設定がないと『委託者と受益者の合意』で終了する

信託の終了は,信託契約(信託行為)時に設定(規定)することができます(信託法164条3号)。
特に規定がない場合は,委託者と受益者の合意で終了させることができます(信託法164条1号)。
受託者は含まれていません。
受託者の立場・性格としては,預かっている人ということになります。
終了という本質的なアクションについては関与しないとされているのです。
なお,これ以外に,法定の終了事由もあります(信託法163条)。

2 委託者と受益者の対立→信託が終了されない,というデッド・ロックに注意

信託において,終了について規定していない場合,次のようにデッドロック状態に陥るケースがたまにあります。

<信託終了ができない典型的場面>

ア 親族間で対立が生じた場合イ 単に連絡が取れない状態が続いている場合ウ 委託者の相続により委託者が多人数に増えている場合エ 『遺言信託』のため「委託者」が存在しないという場合(信託法147条)

当初より,敢えて意図的に『デッド・ロック状態を作る』という場合もあります。
しかし,『想定外のデッド・ロック』は不合理です。
最初から避けるように設計すべきだったと言えます。

3 デッド・ロックの救済措置として裁判所の『信託終了命令』がある

例えば,受託者の行方が分からないという場合を考えます。
この場合,信託財産管理が実際にされていないと言えましょう。
そうすると,信託の目的を達することができないとして信託は終了すると考えられます(信託法163条1項)。

しかし,事後的に,この処置について納得しない者が出るリスクも考えるべきです。
受託者と対立しているような場合です。

その場合,裁判所の判断で終了させるという救済措置に頼るしかないでしょう(信託法165条)。
裁判所の判断を得れば,その後の不用意な紛争を防ぐ意味では有意義です。
しかし,一定程度の時間・費用のコストは避けられません。
とは言いましても,明確な受託者の行方不明,というような場合は大したコストにはならないでしょう。

4 『信託の終了』を決定できる者を設定しておくことができる

信託契約(信託行為)の中で,終了権限を持つ者を自由に設定できます(信託法164条3号)。
特定の1名(受託者だけ)ということもできます。
また,敢えて,1名の気持ちだけで終了できることを避けるために敢えて3者全員(委託者,受託者,受益者)と設定するケースもあります。

一般論として委託者・受託者・受益者について,承継先を出来る限り明確に決めておくと良いです。
その結果,無暗に分散(多人数化)するということを回避できます。

特に,遺言信託の場合は注意が必要です。
遺言信託については,委託者の地位は相続されません(信託法147条)。
委託者死亡時の次の委託者,を指定することもできます。
これを指定しない限りは委託者不在が避けられません。
この場合は,特に終了権限者を,委託者を除外する形で設定しておくと良いでしょう。

条文

[信託法]
(遺言信託における委託者の相続人)
第百四十七条  第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合には、委託者の相続人は、委託者の地位を相続により承継しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

(信託の終了事由)
第百六十三条  信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
一  信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
二  受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。
三  受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。
四  受託者が第五十二条(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。
五  信託の併合がされたとき。
六  第百六十五条又は第百六十六条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。
七  信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。
八  委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第五十三条第一項 、民事再生法第四十九条第一項 又は会社更生法第六十一条第一項 (金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第四十一条第一項 及び第二百六条第一項 において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。
九  信託行為において定めた事由が生じたとき。
(委託者及び受益者の合意等による信託の終了)
第百六十四条  委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。
2  委託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
3  前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
4  委託者が現に存しない場合には、第一項及び第二項の規定は、適用しない。
(特別の事情による信託の終了を命ずる裁判)
第百六十五条  信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるときは、裁判所は、委託者、受託者又は受益者の申立てにより、信託の終了を命ずることができる。
2  裁判所は、前項の申立てについての裁判をする場合には、受託者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして申立てを却下する裁判をするときは、この限りでない。
3  第一項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。
4  第一項の申立てについての裁判に対しては、委託者、受託者又は受益者に限り、即時抗告をすることができる。
5  前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

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【信託受益権は遡って放棄できるが課税上の扱いに注意が必要】
【信託終了時に残余財産が帰属する者(残余財産受益者・帰属権利者など)】

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