【遺言のメリットとウィークポイント(無効リスク・遺留分との関係)】

1 遺言は相続のトラブルを回避できるので非常に有用
2 遺言控除制度・新設予定|相続税減税のメリットも得られる
3 遺言は後から無効となることがある
4 無効な遺言が贈与として有効になる可能性(概要)
5 遺言よりも遺留分が優先される
6 遺言vs生前贈与|似ているが『撤回』について違いがある
7 贈与の撤回|特殊事情があれば例外的に撤回できる

本記事では遺言の基本的な特徴や効力について説明します。
『遺言』がない場合の相続における財産の承継については別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|共同相続による基本的財産の遺産共有or分割承継の区別

1 遺言は相続のトラブルを回避できるので非常に有用

遺言とは,簡単に言うと遺産の承継方法を指定するという機能があります。
遺言がないと法定相続となります。
通常は相続人で遺産分割協議をして,具体的な承継方法を決めます。
しかし,協議がまとまらず,調停や審判の手続を利用するケースも多いです。
詳しくはこちら|相続手続全体の流れ|遺言の有無・内容→遺産分割の要否・分割類型・遡及効

遺言があれば鶴の一声という状態です。
法的に,遺産承継方法の指定が認められているのです。

<遺言の根本的な機能・特徴>

『遺言者』が遺産の承継方法を指定できる
→相続人による遺産分割協議が不要になる

このように遺言作成はメリットが大きいです。
『決めておける事項』は法律上いくつか決まったものがあります。
別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|遺言の記載事項の種類・分類(基本)

2 遺言控除制度・新設予定|相続税減税のメリットも得られる

現在『遺言控除』という制度の導入の方向性があります。
これは遺言があれば相続税が軽減されるというものです。

<遺言控除制度|新設に向けた動き>

あ 自民党『家族の絆を守る特命委員会』の動き

平成27年7月8日
『遺言控除』の制度新設を要望する方針を固めた
→党税制調査会に提案する予定
→平成30年までの導入を目指す

い 遺言控除|制度内容

遺言に基づいて遺産を相続した場合
→基礎控除額を『上乗せ』する
→相続税の負担を減らせる

う 制度の目的・趣旨

遺言作成の普及促進
→遺産相続の紛争の抑制
※各社報道

現在はまだ制度の新設や施行はされていません。
この点,現時点での遺言作成が『無関係』というわけではありません。
『相続発生時にこの制度が施行済』であれば適用されます。
遺言作成については,相続トラブル回避だけではなく減税効果も意識しても良いでしょう。

3 遺言は後から無効となることがある

遺言の特徴は『内容が不明確な場合書いた人に聞くことができない』というところです。
そこで,一定の様式が定められていて,様式違反は無効とされるのです(後述)。
また,様式は適法でも『遺言者本人の意向ではない』という主張がされることも多いです。
要するに,『他の人が無断で書いた』,『偽造だ』という主張です。
実際には,相続の際には相続人間で大きな利害が絡みます。
遺言の無効が主張されることは多いです。
実際に無効と判断されることもよくあります。
詳しくはこちら|遺言の無効事由の種類(全体・無効主張の特徴・傾向)
遺言を作成する際は,できる限り,後から紛争になること防ぐ工夫をすることが望ましいです。

<遺言作成の際の配慮>

後から無効と主張されない,判断されないようにする
詳しくはこちら|遺言作成や書き換えの際の注意・将来の紛争予防の工夫
遺言を無効とするリスクを抑えるためには,公正証書遺言が優れています。
詳しくはこちら|公正証書遺言の無効リスク極小化と無効事由(全体・主張の傾向)

4 無効な遺言が贈与として有効になる可能性(概要)

自筆証書遺言は,気軽に1人で作成できる一方で,厳しい方式が決まっています。そこで,遺言者の死後に無効と判断されることもよくあります(前記)。
この場合でも,遺言の内容が完全に無駄になったとは限りません。『贈与』として有効と認められることもあるのです。これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|無効な遺言を死因贈与契約として認める・典型的種類

5 遺言よりも遺留分が優先される

遺言では財産の承継方法を指定できるところが根幹的な機能です。
しかし,大きな制限のルールがあります。
遺留分という制度です。
一定の範囲を超えると,『超えた部分』について,戻されることになります。
『遺留分減殺請求』と呼んでいます。
詳しくはこちら|遺留分の制度の趣旨や活用する典型的な具体例(改正前・後)
結果的に,遺言の内容どおりに財産が承継されなくなります。
逆に,遺留分減殺請求を受けないと,遺言内容のとおりの承継が実現します。

6 遺言vs生前贈与|似ているが『撤回』について違いがある

遺言でも贈与でも,おおまかに言うと次世代に財産を承継するという点では同じです。
税務上,相続税と贈与税が同じカテゴリーにされているは,まさにこの趣旨です。
別項目;相続税,贈与税;相続時精算課税制度

ところが,遺言と生前贈与では違いがいくつもあります。
主な違いは撤回の場面です。

<遺言・贈与×撤回|概要>

あ 遺言×撤回

遺言は自由に撤回できる
撤回の『期限』はない
→効力発生=お亡くなりになる時点まで可能
※民法1022条

い 贈与×撤回

生前贈与は『契約』である
→当事者双方を拘束する
→贈与者が無条件で撤回することはできない

贈与でも,特殊な事情があった場合は例外的に撤回できることもあります。

7 贈与の撤回|特殊事情があれば例外的に撤回できる

贈与は原則的に『一方的な意向』で撤回できません(前述)。
この点,特殊事情があれば例外的な扱いとなることもあります。

<贈与を『贈与者の意向』で撤回できる例>

あ 口頭の贈与の取消

※民法550条

い 忘恩行為

贈与契約後に,受贈者に非常識な行為があった場合です。

う 負担付遺言における負担の不履行

※民法1027条

なお,贈与の中でも『死因贈与』は扱いが違います。
詳しくはこちら|死因贈与|遺言との違い・仮登記できる・撤回も自由にできる

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【遺言の訂正(変更・撤回)の基本(全体・ニーズ)】

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