【大学の学費の負担(贈与)と特別受益(判断基準と実例)】

1 大学の学費の特別受益該当性(総論)
2 大学の学費の特別受益該当性の判断基準
3 大学の学費の特別受益該当性判断の具体例
4 孫への学費援助の特別受益該当性(概要)
5 学費の特別受益性の判断事例
6 学費の負担を特別受益と認めた裁判例
7 学費の負担を特別受益と認めなかった裁判例
8 大学の学費に関する特別受益の紛争予防策

1 大学の学費の特別受益該当性(総論)

大学の学費を親が支払うのは一般的によくみられることです。
この『払ってもらった学費』が特別受益になるかどうかは,多くの事例で判断が分かれています。類型的な傾向,ということは見出しにくいです。
本記事では,学費の負担についての特別受益該当性の判断を説明します。

2 大学の学費の特別受益該当性の判断基準

大学の学費が特別受益になるかどうかは,いくつもの裁判例が蓄積されています。過去の事例における判断する事情や要素をまとめます。

<大学の学費の特別受益該当性の判断基準>

あ 基本的な基準

相続人間(兄弟間)で『不均衡』がない→特別受益ではない
典型例;相続人全員が大学に進学している
※内田貴『民法4 親族・相続 補訂版』東京大学出版会

い 判断要素(事情)

ア 学費の金額イ 被相続人の経済状態ウ 学校に進学(選択)した事情 例;被相続人の希望である場合→否定方向
エ 進学したことの価値 例;医師等の資格取得
→収入につながる
→肯定される方向

3 大学の学費の特別受益該当性判断の具体例

具体的な事例・事情を前提にした判断の傾向を紹介します。

<大学の学費の特別受益該当性判断の具体例>

あ 事情

兄弟のうちAが医学部に進学した
他の兄弟は高い学費の学校に進学しなかった
負担してもらった学費について,兄弟間で不均衡が生じている
被相続人が医師であり,Aが長男として医院を継ぐために進学した
被相続人が医学部への進学を強く希望した

い 判断の傾向

特別受益には該当しないという判断の方が強い

4 孫への学費援助の特別受益該当性(概要)

『子』ではなく『孫』への遺贈・贈与,というケースもあります。
具体的には『学費の援助』が行われることが多いです。
この場合,特別受益の判断は事情によって異なります。

<孫への学費援助の特別受益該当性(概要)>

あ 典型的事例

被相続人が生前に『孫』の大学の学費を負担した

い 原則論

孫は『相続人』ではない
→特別受益に該当しない

う 例外的な解釈

実質的に『相続人への直接贈与』と変わらない場合
→特別受益に該当する

え 特別受益に該当する事情|例

ア 金額が大きいイ 他の相続人とのバランスが崩れている 詳しくはこちら|相続人以外への贈与や遺贈の特別受益該当性(判断基準と実例)

5 学費の特別受益性の判断事例

実際に学費の負担が特別受益に該当するかどうかを判断した裁判例を紹介します。判断に大きな影響を与える事情は被相続人の経済レベルといえます。

<学費の特別受益性の判断事例>

あ 事案

被相続人が生前,相続人に次の資金を贈与した
ア 高等教育の学費 医学部など
イ 結婚のために要した資金

い 裁判所の判断

被相続人(父)の当時の経済力に応じて
父親としての愛情に基づき負担した
→通常の扶養の延長とみられる
=扶養に準ずるものとする
→特別受益として認めない
※大阪家裁堺支部昭和35年8月31日
※福岡家裁小倉支部昭和56年6月18日

6 学費の負担を特別受益と認めた裁判例

前記の事例以外にも学費を特別受益として認めた事例はあります。

<学費の負担を特別受益と認めた裁判例>

高等教育費用について
→特別受益として認めた
※大阪家裁昭和40年3月23日
※新潟家裁昭和42年8月3日
※札幌高裁平成14年4月26日

7 学費の負担を特別受益と認めなかった裁判例

以上の裁判例の判断とは逆に,特別受益として認めなかった裁判例を紹介します。学費だけではなく婚姻の支度金も含めて特別受益として否定されています。
金額が不明であるという事情が否定する結果につながったといえます。

<学費の負担を特別受益と認めなかった裁判例>

あ 学費や婚姻の支度金

学資や婚姻の支度金について
価格が不明であった
→扶養義務を超えないと判断された
→特別受益として認めなかった
※福井家裁昭和40年8月17日

い 相続人が別の相続人のために支出した学費

※福岡高裁昭和40年11月8日

う 学費

『扶養に準じる』と判断された
※福岡家裁飯塚支部昭和55年10月9日

8 大学の学費に関する特別受益の紛争予防策

大学の学費の負担が特別受益に該当するかどうかという判断は,相続の際に見解の相違が生じる典型例です(前記)。生前の工夫で紛争が生じることを抑えることができます。

<大学の学費に関する特別受益の紛争予防策>

あ 記録化

進学の経緯・親の意向を記録しておく
例;遺言やその他の書面

い 具体例

『医院経営を継ぐために医学部に進学する』
『進学は親の希望・意向である』
<→★遺言作成時の注意

う 効果

特別受益に該当しないという判断につながる
あくまでも考慮される多くの事情の1つという位置付けである
確実に特別受益として否定されるというわけではない

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