1次相続でそのうち1人Bに財産を集めました。
2次相続の時は,遺言で『すでにたくさんもらっている』Bはほとんど財産を渡されませんでした。
Bは『少なすぎるから遺留分を請求する』と言っています。
このような主張は認められるのですか。

1 1次相続の遺産分割の不均衡は2次相続では原則的に反映されない
2 1次相続の遺産分割の不均衡が2次相続で遺留分として反映されることもある
3 持戻し免除の意思表示で1次相続の遺産分割の不均衡を反映させる方法はリスキー

1 1次相続の遺産分割の不均衡は2次相続では原則的に反映されない

<事例設定>

数年前に父が亡くなった(1次相続)
相続人は配偶者Aと子供B,Cだった
この時,Aは,いずれ2次相続になるので,敢えてあまり承継しない方針にした
他の事情もあり,Bが遺産全体の8割を承継し,A,Cはそれぞれ1割程度を承継する内容で遺産分割を行った
ところでAは承継した財産はすべてCに承継させる気持ちだった
そこで,全財産をCに相続させる遺言を作成した
先日Aが亡くなった(2次相続)
Bは遺留分を請求できるのか
1次相続での『もらい過ぎ』が不公平と思える

1次相続の遺産分割で多めに承継した者が,2次相続で遺留分減殺請求を行う,という事例です。
1次,2次相続をまとめて考えると,むしろBはCよりも多く承継している状態です。
一方,2次相続だけを単独で考えると,BはCに対して遺留分減殺請求を行えます。

この点,遺留分算定において特別受益の規定が適用されます。
別項目;遺贈,死因贈与がなされる前の状態を遺留分算定の前提とする;遺留分算定基礎財産
『1次相続の遺産分割で優遇されたこと』について特別受益を適用することも考えられます。
解釈上,遺言による遺産分割方法の指定も含まれるとされています。
別項目;『不足額』が遺留分侵害額となり遺留分の侵害行為を否定できる
ただ,いずれにしても『1次相続の遺産分割』が含まれるという明確な根拠はありません。

この論点について,裁判例の傾向としては特別受益は認めない方向性です。
つまり,遺留分減殺請求を認めるという方向性です(後掲裁判例1,2)。
理由は単純で,1次相続と2次相続は別というものです。

2 1次相続の遺産分割の不均衡が2次相続で遺留分として反映されることもある

事情によっては『1次相続の遺産分割』が『(AからBへの)贈与』と類似します。
類似の程度によっては,『2次相続の遺留分算定上,贈与として扱う』という解釈がなされる可能性はあります。
このような考え方を傍論的に示した裁判例もあります(後掲裁判例1;カッコ書き部分)。
本案件では,1次相続を法定相続で考えるとAは5割が相続分でした。
遺産分割によってそのうち4割をBに贈与した,ということになります。
『4割の生前贈与』があったとすると,2次相続におけるBの遺留分侵害額=請求額はゼロとなります。

遺産分割を贈与に準じて扱う要件を示します。

<1次相続の遺産分割を生前贈与の趣旨であると解釈する要件>

2次相続として予定される財産の承継内容について当事者間で特定し,納得していた

実際には,1次相続の時の遺産分割協議書にそのような内容が記載されていれば確実に認められるでしょう。
遺産分割協議書に明記されていない場合でも,2次相続に関する遺言書に記載してあると,認定の有力な資料になります。

3 持戻し免除の意思表示で1次相続の遺産分割の不均衡を反映させる方法はリスキー

次に遺言に,『特別受益の主張を封じる』,という内容を遺言に記載しておいた場合について説明します。
持ち戻し免除の意思表示,というものです(民法903条3項)。
遺言でも手紙などの方式でも有効です。
詳しくはこちら|持戻し免除の意思表示の基本(趣旨と方式や黙示の認定基準)

ここで持ち戻し免除の意思表示を遺留分算定でも準用することが考えられます。
しかし,判例上,この解釈は否定されています。
詳しくはこちら|持戻し免除の意思表示と遺留分との関係(基本)

以上より,遺言の記載によってBからの遺留分減殺請求を止められない可能性が高いです。

条文

[民法]
(特別受益者の相続分)
第九百三条  共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2  遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3  被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

(代襲相続及び相続分の規定の準用)
第千四十四条  第八百八十七条第二項及び第三項、第九百条、第九百一条、第九百三条並びに第九百四条の規定は、遺留分について準用する。

判例・参考情報

[平成22年 9月30日 東京地裁 平21(ワ)1325号 遺留分減殺請求事件]
(裁判例1)
被告らは,亡Fの遺産である本件隣接地,本件建物の持分(2分の1)及び訴外会社の株式を本件遺産分割に基づいて亡Bが相続したことは,被相続人が亡Fの死亡によって取得できた相続分に応じた財産を亡Bに贈与したものと解されるから,民法903条の特別受益に該当すると主張する。
 この点,前記(1)イのとおり,亡Bは,本件遺産分割によって,本件隣接地,本件建物の2分の1の共有持分及び訴外会社の株式4万株を取得したことが認められるが,このような亡Bの財産の取得は,亡Fの遺産について,同人の相続人全員による本件遺産分割に基づいて相続により取得したものであるから,民法903条1項が規定する「被相続人から」贈与を受けたものであるとは認められない(なお,被告らは,本件遺産分割は,被相続人が実際に相続した亡Fの遺産の一部を亡Bに贈与するというものであったと主張するのかもしれない。しかし,本件遺産分割においては,被相続人も亡Fの遺産の一部を取得するものとされており,亡Bが取得することになった本件隣接地,本件建物の持分2分の1及び訴外会社の株式4万株が,もともとは被相続人が相続するものであることが相続人間で合意されていたところ,この合意を前提に被相続人が亡Bにこれらの財産を贈与することにし,その内容を本件遺産分割として合意したものであるといった事実関係を認め得る証拠はない。)。

[平成19年 6月29日 東京地裁 平16(ワ)8043号 遺留分減殺等請求事件]
(裁判例2)
被告らは,Bの夫(当事者らの父)Dの遺産についてされた遺産分割協議によって原告が東京都目黒区○○a丁目939番1所在の宅地,248.06坪(820.03m2)を取得しているが,その実質は,Bからの贈与であり,特別受益に該当する旨主張する。
 Dが「小生死亡の際は全財産を妻Bに贈与する。」との自筆証書遺言をして,昭和46年1月16日死亡したことは当事者間に争いがないところ,Bは,上記遺言どおりの相続を受けていない以上,その利益を放棄したと認めるのが相当であり,証拠(乙3)によれば,B,原告及び被告らは,Dの遺産についての遺産分割協議を行い,遺産分割協議書(乙3)を作成したこと,その遺産分割協議書第4項にもとづいて,原告が上記土地を取得したことなどが認められるところ,それがBの原告に対する贈与であるとか,Bから原告に対する特別受益であると認めることはできない。