1 遺言による財産行為に適用される規定
2 遺言による財産行為に適用されない規定
3 遺言の形式的な年齢要件(概要)
4 遺言による身分行為への民法総則適用
5 遺言者の生前の無効主張・取消権行使の実益
6 遺言者の死後の取消権・追認権の行使

1 遺言による財産行為に適用される規定

民法の総則には一般的な意思表示などに関する規定があります。民法総則の規定には遺言に適用されるものとされないものがあります。
まずは,遺言の内容のうち財産の承継に関するものについての適用の有無を説明します。
最初に,適用される規定をまとめます。

<遺言による財産行為に適用される規定>

あ 意思表示に関係する規定

要素の錯誤・詐欺・強迫
※民法95条,96条

い 公序良俗違反

公序良俗に反する合意は無効となる
※民法90条
※我妻栄ほか『我妻・有泉コンメンタール民法−総則・物権・債権 第2版追補版』日本評論社p44参照
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p48
遺言の公序良俗違反の具体例について
→婚外の関係者への財産の承継が多い
詳しくはこちら|遺言の実質的内容×有効性|公序良俗違反・判断要素・判例|正妻vs婚外交際

2 遺言による財産行為に適用されない規定

遺言による財産行為に適用されない民法総則の規定をまとめます。

<遺言による財産行為に適用されない規定>

あ 制限行為能力者保護制度

次の者の保護制度について
→適用されない
ア 未成年者(後記※1)
イ 成年被後見人
ウ 被保佐人
エ 被補助人
※民法962条,5条,9条,13条,17条

い 意思表示に関係する規定

虚偽表示
→性質上,遺言には適用されない
※民法94条

う 代理に関係する規定

遺言作成は『代理』方式自体が認められていない
※民法99条
※我妻栄ほか『我妻・有泉コンメンタール民法−総則・物権・債権 第2版追補版』日本評論社p44参照
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p48

3 遺言の形式的な年齢要件(概要)

遺言が有効となる要件の1つに『遺言者の年齢』があります。理論的な分類が多少複雑です。概要をまとめます。

<遺言の形式的な年齢要件(概要;※1)>

形式的な『年齢』については別に規定がある
※民法961条
法律上の分類では『制限行為能力者の保護』ではない
『遺言能力』の1つである
詳しくはこちら|遺言能力|基本・全体|年齢・実質的判断|精神状態・遺言の複雑性・背景

4 遺言による身分行為への民法総則適用

以上の説明は財産行為への適用の有無でした。遺言の記載事項には『身分行為』に関するものもあります。遺言のうち身分行為への民法総則の適用は一般的に否定されています。

<遺言による身分行為への民法総則適用>

あ 一般的見解

遺言による身分行為について
→民法総則の適用はない
※加藤永一『遺言の効力』/『家族法大系7相続(2)』有斐閣p195
※阿部浩二『新版注釈民法(28)相続(3)補訂版』有斐閣p198
※山本正憲『新版注釈民法(28)相続(3)補訂版』有斐閣p387
※中川善之助ほか『法律学全集(24)相続法(第4版)』有斐閣p560
※蕪山嚴『遺言無効確認訴訟』/『遺言法体系』西神田編集室p34

い 判例

『あ』の見解に関して明確に判断した判例について
→みあたらない
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p48

5 遺言者の生前の無効主張・取消権行使の実益

遺言の財産行為には民法総則の錯誤・詐欺・強迫の規定が適用されます(前記)。結論として,状況によって,無効主張や取消権の行使ができることになります。この点,これらを遺言者の生前に活用する実益はあまりありません。しかし,特殊な状況にあるケースでは活用できます。これについてまとめます。

<遺言者の生前の無効主張・取消権行使の実益>

あ 原則

遺言者はいつでも遺言を自由に撤回することができる
※民法1022条
詳しくはこちら|遺言の訂正(変更・撤回)の基本(全体・ニーズ)
→遺言者の生存中について
遺言の無効・取消は通常問題となることはない

い 例外

遺言者が遺言作成後,意思表示ができない場合
例;意識不明になった
→遺言者に取消権を認める実益はある
例;法定代理人による取消権の行使
※内田貴『民法4親族・相続 補訂版』東京大学出版会p477

6 遺言者の死後の取消権・追認権の行使

遺言の内容について,詐欺・強迫を理由とする取消が認められることもあります(前記)。この場合は同時に『追認』をすることもできます。遺言者の生前では実際に活用するケースは限られています(前記)。しかし,遺言者の死後には相続人が取消や追認をする実益があります。相続人が複数存在する場合,取消・追認の権利は『準共有』という状態になります。実際に利用する際には大きなハードルになります。

<遺言者の死後の取消権・追認権の行使>

あ 取消・追認の権利の帰属

意思表示の瑕疵による取消・追認の権利行使について
→地位は相続人に準共有という形で帰属する
取消・追認権は相続人全員で共同して行使する
※内田貴『民法4親族・相続 補訂版』東京大学出版会p405

い 実務におけるハードル

取消・追認の権利行使をする場合
→共同相続人全員が一致することが必要となる
→実現する上で,高いハードルとなる