【遺言の撤回の種類(基本的解釈・具体例)】

1 遺言の撤回の種類(全体)
2 遺言の書き換え(抵触遺言)の具体例
3 抵触生前処分の意味・解釈
4 趣旨としての抵触生前行為の具体例

1 遺言の撤回の種類(全体)

遺言者は,作成した遺言を後から撤回することができます。
詳しくはこちら|遺言の訂正(変更・撤回)の基本(全体・ニーズ)
遺言を撤回する方法は,いくつかの種類があります。本記事では遺言を撤回する方法の種類について説明します。

<遺言を撤回する方法の種類>

あ 撤回遺言

新しい遺言に『撤回する』内容を記載する
→このとおりに前の遺言が撤回される
※民法1022条

い 抵触遺言(後記※1

新しい遺言の内容が,前の遺言と抵触する
→矛盾(抵触)する部分について
前の遺言を撤回したとみなす
『遺言の書き換え』と呼ばれる
※民法1023条1項

う 抵触生前処分(後記※2

遺言者が生前に財産を処分した
例;贈与・売却
処分の内容が遺言の内容と矛盾(抵触)する
→抵触部分を撤回したとみなす
※民法1023条2項
詳しくはこちら|生前処分と遺言が抵触するケースの権利の帰属の判断(対抗要件or遺言の撤回)

え 遺言破棄

遺言者が故意に『遺言そのもの』を破棄した
→破棄した部分を撤回したとみなす
※民法1024条前段

お 目的物破棄

遺言者が故意に『遺贈の目的物』を破棄した
遺言のうち該当する部分を撤回したとみなす
※民法1024条後段

2 遺言の書き換え(抵触遺言)の具体例

抵触遺言,つまり遺言の書き換えの具体例と結果的な効力をまとめます。

<遺言の書き換え(抵触遺言)の具体例(※1)

あ 前の遺言

不動産Aを長男に相続する
(他の条項は省略)

い 後の遺言

不動産Aを次男に相続する

う 遺言の効力

『不動産Aを次男に相続する』→有効である
『不動産Aを長男に相続する』→撤回された=無効
他の内容→抵触しない→有効なまま

3 抵触生前処分の意味・解釈

遺言者の『矛盾する行動』から遺言が撤回されるものがあります。『抵触生前処分』によるみなし撤回という規定です。この規定の解釈についてまとめます。

<抵触生前処分の意味・解釈(※2)

あ 基本的事項

『い・う』のいずれについても
遺言と抵触する『遺言後の生前処分その他の法律行為』に該当する
→遺言は撤回されたものとみなす
※民法1023条2項

い 客観的に両立しない関係

遺言作成後の生前処分を実現しようとする際に
遺言の執行が客観的に不能となる状態

う 趣旨として両立しない関係(※3)

遺言作成後の生前処分について
遺言内容と両立させない趣旨であることが明らかである
※最高裁昭和56年11月13日

4 趣旨としての抵触生前行為の具体例

『趣旨として両立しない』遺言者の行為により,遺言が撤回される具体例を紹介します。前記の判例における事案です。

<趣旨としての抵触生前行為の具体例>

あ 事案

DとEが養子縁組をした
Dが遺言を作成した
遺言内容=所有する不動産の大部分をEに遺贈する
その後DとEは不仲となり協議離縁をした

い 裁判所の判断|評価

遺贈の意図は終生Eから扶養を受けることにあった
その後,DはEに対する不信の念を深くした
法律上・事実上ともにDはEからの扶養を受けないことにした

う 裁判所の判断|結論

遺言と上記行為は両立しない趣旨(前記※3)である
→遺言は撤回されたものとする
※民法1023条2項
※最高裁昭和56年11月13日

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

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