1 遺留分に関する紛争解決の困難性
2 感情的対立の要因と対策
3 事実の把握の困難性の要因
4 事実の把握の困難性への対策
5 解釈論の選択の困難性の要因
6 解釈論の選択の困難性への対策

1 遺留分に関する紛争解決の困難性

遺留分に関する紛争の解決では特徴的な状況があります。そのため,解決の手続を進める上で特有のハードルがあると言えます。
このような構造的な特徴を把握することが,実務でベストの結果を得るために有用です。
まずは解決の困難性の全体の項目をまとめます。

<遺留分に関する紛争解決の困難性>

あ 感情的対立(後記※1)
い 事実の把握の困難性(後記※2)
う 解釈論の選択の困難性(後記※3)

※田村洋三ほか『実務相続関係訴訟』日本加除出版p297

2 感情的対立の要因と対策

遺留分の紛争における感情的対立という特徴についてまとめます。これは遺留分に限らず,相続に関する紛争全般に該当することです。

<感情的対立の要因と対策(※1)>

あ 要因

当事者は相続権のある者である
相続人=近い親族が当事者である
激しい感情的対立が背景にある
→和解交渉が難しい

い 対策

和解交渉のタイミングを最適化する
裁判所の和解勧告のタイミングについて
→当事者から要請を出す
例;人証調べの後は感情的対立がより激化する
→一般的に人証調べ前に和解勧告を行うことが望ましい

3 事実の把握の困難性の要因

事実の把握の困難性の具体的な内容をまとめます。

<事実の把握の困難性の要因(※2)>

あ 序盤段階

当事者は相手方に関する事情を正確に把握しにくい
相手方の手の内にある証拠が分からないことが多い
初期段階では結論に大きな影響を及ぼす事実が分からない
原告は訴状では暫定的な前提を元に主張を特定(記載)する

い 中盤以降

訴訟の審理の経過の中で次第に事実が明らかになってゆく
原告はその都度,請求内容を更新(変更)することになる
・計算をやり直す
・請求を組み直す
遺留分の計算自体が複雑なので,手間がかかる

4 事実の把握の困難性への対策

事実の把握は困難である一方,ベストの解決の実現に直接影響します。困難性への対策をまとめます。

<事実の把握の困難性への対策>

あ 基本的方針

計画的に,より早期に証拠収集を行う

い 提訴前

訴訟前に利用できる証拠収集手段を最大限活用する
ア 提訴前照会・提訴前証拠収集処分
詳しくはこちら|提訴前照会・証拠収集処分の制度の基本と提訴予告通知
イ 弁護士会照会
詳しくはこちら|弁護士会照会|基本|公的性格・調査対象・手続の流れ
ウ 証拠保全

い 提訴後

提訴後も極力初期段階で証拠の申出を行う

5 解釈論の選択の困難性の要因

遺留分に関する解釈論は統一的な判例がないことが多いです。このため,解釈論が不安定なものが多いのです。これについてまとめます。

<解釈論の選択の困難性の要因(※3)>

民法の文言自体からは明白な結論を導きにくい
判例によって形成された理論が多い
確立した判例のない解釈論も多い
=学説が分かれている論点
例;遺留分減殺請求権の法的性質論
→原告の計算方法・請求内容を裁判所が採用しないこともある

6 解釈論の選択の困難性への対策

遺留分に関しては,解釈論の不安定性があります(前記)。これは,実務においては有利な結果の実現のためにはチャンスと言えます。実務的な対策をまとめます。

<解釈論の選択の困難性への対策>

あ チャンスの所在

確立した判例がない理論について
→当事者の主張によって結論が変わりやすいものである

い 知的戦略の徹底

判例だけではなく細かい見解(学説)の把握を徹底する
具体的事案内容に沿った説得的な解釈論を書面にまとめる
→判決だけでなく,和解の方向性への影響も大きい
例;裁判所の和解勧告の内容