【相続に関する登記申請|非協力者の存在×証書真否確認訴訟・給付訴訟】

1 法定相続登記|相続人1名による単独申請
2 遺言による単独承継×登記申請
3 特定遺贈×登記申請
4 遺産分割による単独承継|登記申請
5 印鑑証明書×代用|証書真否確認訴訟
6 印鑑証明書×代用|移転登記請求訴訟
7 遺産分割による単独承継|登記申請|2段階方式
8 2段階方式×給付訴訟

1 法定相続登記|相続人1名による単独申請

法定相続の登記申請は,相続人のうち1名だけでも申請できます。
申請手続に関する解釈をまとめます。

<法定相続登記|相続人1名による単独申請(※1)

あ 相続人全員の登記

相続人全員分の法定相続登記
→共同相続人の1人で申請できる
※明治33年12月18日民刑第1611号民刑局長回答

い 一部の相続人だけの登記

申請人1人の持分だけを移転させる法定相続登記
→共同相続人の1人で申請することはできない
※昭和30年10月15日民事甲第2216号民事局長回答

法定相続の登記は,相続人全員が法定相続割合に応じた不動産の共有持分を得ることになります。
つまり失う人はいません。
全員がプラスになる,という意味で共有物の保存行為に分類されます。
詳しくはこちら|共有物の『保存』行為
一方,複数の相続人のうち1人が『自分の共有持分のみ』の移転登記をすることはできません。

なお,実際には,法定相続の登記をした後,遺産分割協議や審判が行なわれます。
登記した不動産について,最終的に法定相続割合とは違う承継がなされることもあります。
この段階で,現実の権利の状態と登記の状態が一致しないという問題が生じることもあります。
詳しくはこちら|相続に関する権利変動(承継)における登記の要否(対抗関係該当性)の全体像

2 遺言による単独承継×登記申請

遺言によって財産の承継内容が決まることも多いです。
特定の不動産を相続人の1人が承継するのが一般的です。
この場合の登記申請についてまとめます。

<遺言による単独承継×登記申請>

あ 前提事情

『相続させる』遺言が存在した
相続人Aが不動産甲を単独で承継した

い 登記申請|基本

Aによる単独申請が可能である
※最高裁平成7年1月24日

う 登記申請|他の相続人の関与

登記手続において
→他の相続人の次のような関与は不要である
ア 申請人となるイ 印鑑証明書を提出(添付)する

え 登記申請|必要書類

遺言の『検認調書』は必要である
『公正証書遺言』の場合は不要である
※平成7年12月4日民三第4344号第三課長通達

3 特定遺贈×登記申請

遺言の内容の1つに『特定遺贈』があります。
相続人以外に特定の不動産を遺贈するというものです。
この場合の登記申請についてまとめます。

<特定遺贈×登記申請>

あ 前提事情

遺言により特定の不動産について『遺贈』された

い 共同申請

『相続』の扱いにならない
→登記の方式は原則どおりとなる
=共同申請

う 登記申請人
登記申請の立場 該当する者
登記義務者 法定相続人
登記権利者 受遺者
え 検認調書→不要

『相続』の扱いではない
→仮に遺言書を添付する時でも
検認調書の添付は不要である
※昭和33年1月10日民事甲第4号民事局長通達

登記手続では『相続』という扱いではないのです。

4 遺産分割による単独承継|登記申請

遺産分割によって最終的な承継内容が決まることも多いです。
通常,不動産ごとに承継する相続人が1人に決められます。
この場合の登記申請について,基本的事項をまとめます。

<遺産分割による単独承継|登記申請(※3)

あ 前提事情

遺産分割により不動産甲を相続人Aが単独で承継した

い 登記申請|申請者

Aは単独で不動産甲の相続登記を申請できる
※不動産登記法63条2項

う 登記申請|添付書類

ア 一般的添付書類 ・戸籍事項証明書
・遺産分割協議書・審判書など
イ 印鑑証明書 他の相続人全員の『印鑑証明書』が必要である(※2)
※昭和30年4月23日民事甲第742号民事局長通達

法定相続や一定の遺言による承継では『単独申請』でした(前記)。
一方,遺産分割の場合は『共同申請』です。
その影響で,他の相続人の印鑑証明書まで必要となります。
これが登記申請のハードルとなる実例もあります。

5 印鑑証明書×代用|証書真否確認訴訟

遺産分割後に,相続人の一部が協力を拒絶するケースもあります。
具体的には,印鑑証明書の提供をしないということです。
特に遺産分割が家裁の審判で決まった場合に生じがちです。
このような場合の法的な解決方法は当然あります。

<印鑑証明書×代用|証書真否確認訴訟>

遺産分割による登記における印鑑証明書(上記※2)について
→次の資料で代用できる
代替物=遺産分割協議書の『証書真否確認の訴え』の判決
※昭和55年11月20日民三6726号民事局第三課長回答

この訴訟は『書面が正しいものである』ことを確認するものです。
一般的な訴訟とは違ってかなり小規模なものと言えます。

6 印鑑証明書×代用|移転登記請求訴訟

印鑑証明書がもらえない場合の訴訟では注意が必要です。
ストレートに『移転登記を請求する』方式ではいけないのです。

<印鑑証明書×代用|移転登記請求訴訟>

あ 移転登記請求|判決の性格

相続人同士の移転登記請求訴訟の判決について
→『給付判決』に分類される
→『被告=他の相続人』の『登記申請意思の擬制』となる
※民事執行法174条

い 印鑑証明書の代用→否定

相続登記において『他の相続人』は『登記申請者』ではない
→『登記申請意思の擬制』で代用される関係にはない
※昭和53年3月15日民三1524号法務省民事局第三課長依命回答

7 遺産分割による単独承継|登記申請|2段階方式

遺産分割で遺産を単独承継した人の登記申請方式はもう1つあります。
『2段階』の登記を行うというものです。
基本的なプロセスをまとめます。

<遺産分割による単独承継|登記申請|2段階方式>

あ 1段階目|法定相続登記

法定相続登記は相続人のうち1名が単独で申請できる(上記※1)

い 2段階目|遺産分割・移転登記

遺産分割による移転登記を行う
→法定相続人と受遺者の共同申請となる(上記※3)
他の相続人の印鑑証明書が必要となる

8 2段階方式×給付訴訟

2段階方式でも結局他の相続人の協力が必要です。
登記申請人となりますし,印鑑証明書も必要です(前記)。
他の相続人が協力してくれない場合の解決方法をまとめます。
1段階の方式における証書真否確認訴訟とは違います。

<2段階方式×給付訴訟>

あ 前提事情

2段階目の移転登記について
法定相続人の協力(前記※2)が得られない

い 給付請求訴訟→判決

協力しない相続人が存在する場合
→移転登記請求訴訟を提起する
→判決を獲得する
判決主文=『・・・移転登記手続をせよ』

う 2段階方式|デメリット

ア コスト 手続のコストが余分にかかる
=煩雑である
イ 税務リスク 『不動産譲渡所得税・不動産取得税』が課されるリスクがある
詳しくはこちら|遺産分割のやり直しで2重の課税となることがある

税務的な一定のリスクがあります。
本来,遡及的な権利移転なので,『ダブル』では課税されないはずです。
しかし,税務上は民事とは別の解釈が取られることがあります。
一般的に,税務署から『納税者に不利な主張』がなされる傾向もあります。

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