1 遺留分×第三者保護|前提事情
2 遺留分×第三者保護|基本
3 現物返還・価額弁償の関係
4 遺留分×第三者保護|善意/悪意
5 贈与以外への類推適用|遺贈・遺言
6 取引以外への適用→否定
7 価額賠償|金額算定・見解
8 悪意の譲受人×価額弁償の抗弁

1 遺留分×第三者保護|前提事情

遺留分の権利は強く保護されています。
詳しくはこちら|遺留分|基本|趣旨・典型例・遺留分権利者・抵触する遺言の有効性
しかし『不利益』を受ける人も出てくる状況もあります。
そこで一定の『第三者』を保護する制度があります。
まずは不利益・不都合という問題点をまとめます。

<遺留分×第三者保護|前提事情>

あ 生前贈与

被相続人AがBに贈与をした
Aが亡くなった
贈与は相続人Cの遺留分を侵害している

い 遺留分減殺請求前の第三者

受贈者Bが対象物を第三者Dに譲渡した

う 遺留分減殺請求・問題点

Cが遺留分減殺請求を行った
→Dに返還すべきだとすると
→B・D間売買への信頼が裏切られる

本記事では,減殺請求『前』の譲渡を前提にします。
譲渡のタイミングの影響については別にまとめて説明しています。
詳しくはこちら|遺留分vs第三者保護|全体|減殺請求『前/後』|実務的初動

2 遺留分×第三者保護|基本

上記の状況における『第三者保護』のルールを整理します。

<遺留分×第三者保護|基本>

あ 第三者保護|原則

Dが『善意』(※1)の場合
Dに対して現物返還を請求できない
Bに対して価額の弁償を請求できる

い 第三者保護|例外(※3)

Dが『悪意』(※1)の場合
Dに対して現物返還を請求できる
Bに対して価額弁償を請求することもできる
この2つの請求は自由に選択できる(後記※2)
※民法1040条1項

3 現物返還・価額弁償の関係

第三者Dが『悪意』の場合には2つの請求ができます。
現物返還と価額弁償の請求の関係についてまとめます。

<現物返還・価額弁償の関係(※2)>

あ 前提事情

Dが『悪意』の場合
→Dに対して現物返還を請求できる(前記※1)

い 無資力要件→否定

Dに対する現物返還請求について
→『Bの無資力』は条文に規定がない
→不要である

う 結論

Cは次のいずれかを自由に選択できる
ア Dに対する現物返還請求
イ Bに対する価額賠償請求
※中川善之助『註釈相続法(下)』有斐閣p271

4 遺留分×第三者保護|善意/悪意

第三者保護規定では『善意か悪意か』で扱いが異なります。
『善意/悪意』の意味・内容をまとめます。

<遺留分×第三者保護|善意/悪意(※1)>

あ 善意/悪意|一般論

善意→『知らない』こと
悪意→『知っている』こと

い 第三者保護×『悪意』

第三者保護についての『悪意』の解釈論について
→遺留分算定対象の期間制限における解釈と同様である
※民法1030条
※『論点体系判例民法10相続』第一法規p463

5 贈与以外への類推適用|遺贈・遺言

以上の第三者保護規定では『贈与』が前提とされています。
条文に『贈与』という文言が規定されているのです。
しかしもっと拡げて解釈されています。

<贈与以外への類推適用|遺贈・遺言>

あ 条文・規定

条文では『受贈者』という文言である
=贈与を受けた者という意味である
→対象物は『贈与』された物ということになる
※民法1040条1項

い 遺贈→肯定

遺贈についても類推適用される
※最高裁昭和57年3月4日

う 相続させる遺言→肯定

『相続させる遺言』にも類推適用される
※最高裁平成11年12月16日

『相続させる』遺言については別に説明しています。
詳しくはこちら|『相続させる』遺言の法的性質や登記申請・対抗関係の法的解釈

6 取引以外への適用→否定

第三者保護の対象は『贈与』よりも拡張されています(前記)。
ただし『取引』ではないものまでは拡張されません。

<取引以外への適用→否定>

財産の移転が『取引行為』に基づかない場合
例;共有持分放棄
※民法255条
<→★255条
→遺留分に関する第三者保護規定は適用されない
=現物返還請求ができる
※高松高裁昭和45年3月24日

7 価額賠償|金額算定・見解

第三者保護が適用されると遺留分が保護されないことになります。
『現物』はもらえない代わりに救済措置があります。
『価額賠償』です(前記)。
価額賠償について,金額算定方法にはいくつか見解があります。

<価額賠償|金額算定・見解>

あ 前提=価額賠償請求

遺留分権利者が対象物を譲り渡した者に対して
→価額賠償を請求できることがある(前述)

い 算定基準時|問題点

一般的に,財産の価値は変動する
→次の問題について複数の見解がある
論点=どの時点の価値で算定するべきか

う 処分額説|最高裁

処分額を賠償額とする
処分額が相当であることが前提である
※最高裁平成10年3月10日

え 相続開始時説

相続開始時を基準とする
※東京地裁昭和61年10月30日

お 譲渡時説

目的財産の譲渡時を基準とする
※東京地裁昭和63年2月29日

8 悪意の譲受人×価額弁償の抗弁

譲受人が悪意の場合は『現物返還請求』が認められます。
しかしこの場合でも現物が戻されるとは限りません。
返還すべき譲受人の判断で『金銭として返す』ことができるのです。

<悪意の譲受人×価額弁償の抗弁>

あ 前提

遺留分減殺請求の対象物が譲渡された
譲受人は『悪意』であった
→遺留分権利者は譲受人に現物返還を請求できる(前記※3)

い 譲受人の対抗策

価額弁償により現物返還義務を免れることができる
※民法1041条2項

う 価額弁償|算定基準時

価額弁償の金額の算定基準時について
→事実審の口頭弁論終結時とする
※最高裁昭和51年8月30日