【自筆証書遺言の方式・要式性(全体・趣旨・有効性判断の方針)】

1 自筆証書遺言の方式(要式性)
2 厳しい方式を要する趣旨(判例)
3 自書・押印を要する趣旨(要約)
4 方式違反による有効性判断の基本方針
5 形式的な遺言の無効事由の種類
6 無効な遺言が贈与として有効になる可能性(概要)

1 自筆証書遺言の方式(要式性)

自筆証書遺言は,遺言者が1人で作成することができます。作成が最も簡単であるという特徴があります。
詳しくはこちら|遺言の記載事項の種類・分類(基本)
自筆証書遺言には,最低限の方式が決められています。この方式に違反していると,原則的に遺言は無効となります。
本記事では自筆証書遺言の方式の基本的事項を説明します。

<自筆証書遺言の方式(要式性)>

あ 法律上の規定

自筆証書遺言では次のすべての方式が必要である
ア 全文の自書イ 日付・氏名の自書ウ 押印 ※民法960条,968条1項

い ネーミング

『様式』『要式性』と呼ぶことが多い
このネーミングは多少間違えやすい
→本サイトでは『方式』と呼ぶ

2 厳しい方式を要する趣旨(判例)

自筆証書遺言は法律において厳しい方式が決められています(前記)。このようなルールの趣旨をまとめます。これはいろいろな解釈の中で使われるものです。

<厳しい方式を要する趣旨(判例)>

あ 作成の真正の確保

遺言の全文などの自書とあいまって
遺言者の同一性+真意を確保する

い 文書の完成の担保

ア 慣行・法意識 日本には次のような慣行・法意識がある
作成者が署名した上その名下に押印することによって重要な文書の作成を完結させる
イ 作成意図の発現 署名・押印がある場合
→作成者に文書を完成させる意図を読み取れる
※最高裁平成元年2月16日

3 自書・押印を要する趣旨(要約)

自筆証書遺言の方式の規定の趣旨(前記)は少し難しいかもしれません。この趣旨を簡単に言い直してみます。

<自書・押印を要する趣旨(要約)>

遺言者の死後は遺言者自身に確認ができなくなる
→遺言者の意思の検証手段を残すことは重要である
全文の自書・押印などは検証手段となる
→これを法律上必須の条件とした

4 方式違反による有効性判断の基本方針

自筆証書遺言の方式違反があると遺言は無効となるのが原則です。一方で,例外的に有効となることも多いです。有効性判断の大きな方針をまとめます。

<方式違反による有効性判断の基本方針>

あ 基本

方式違反による有効性判断について
次の『い・う』の2つの方針がある
→解釈・事情の評価によって結論が変わりやすい

い 遺言の有効性に関する規定の趣旨

民法上,遺言は厳格な方式が要求されている
→方式違反により無効となりやすい
※民法967条〜

う 最終意思の尊重

遺言の解釈・判断において
→遺言者の最終的な意思を尊重する
→方式違反を救済する=有効とする方向性とすべきである
※中川善之助ほか『新版注釈民法(28)補訂版』有斐閣p3

5 形式的な遺言の無効事由の種類

以上の方式に違反があると,原則として遺言が無効となります。逆に,遺言が無効となる理由の中で,形式的なものは主に『方式違反』なのです。形式的な遺言の無効事由の種類をまとめます。

それぞれの無効事由の内容は,上記のリンクの記事で詳しく説明しています。

6 無効な遺言が贈与として有効になる可能性(概要)

様式性違反で遺言が無効となるケースも多いです(前記)。この場合でも『遺言がまったく無意味』になるとは限りません。
『贈与』としての効果が認められることもあるのです。『無効行為の転換』という法律理論の1つです。
これについては別に詳しく説明しています。
詳しくはこちら|無効な遺言を死因贈与契約として認める・典型的種類

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