1 遺言の訂正・変更の方式と有効性(規定)
2 方式違反の変更の結果的な効力(原則)
3 方式違反と有効性判断の傾向
4 作成過程における加除・変更と救済的解釈
5 訂正と有効性(訂正箇所による判断)
6 日付の年号の訂正と有効性判断事例

1 遺言の訂正・変更の方式と有効性(規定)

自筆証書遺言を記載した後に変更したい状況も生じます。一般的には『訂正』と言いますが,民法上は『変更』と呼びます。遺言の変更の方式には厳格なルールがあります。まずは基本的事項をまとめます。

<遺言の訂正・変更の方式と有効性(規定)>

あ 加除・変更の方式(※1)

遺言書の文字の加除その他の変更について
変更箇所に次の3つの作業を行う
ア 変更の旨を付記する
イ 署名する
ウ 押印する

い 方式違反の原則的な効力

形式的な方式(あ)に一部でも適合していない場合
→変更は効力を生じない
※民法968条2項

2 方式違反の変更の結果的な効力(原則)

変更に方式違反があった場合の効力は多少複雑です。結果的な効力をまとめます。

<方式違反の変更の結果的な効力(原則)>

あ 前提事情

遺言書の一部の記載が抹消されている
『変更』に該当する
しかし『変更』の方式(前記※1)に違反している
※民法968条2項

い 原則的な解釈

結局『変更』の効力は否定される
→元の文字が有効という状態になる
※穂積重遠『相続法 第2分冊』p377
※我妻榮ほか『親族法・相続法』p626
※中川善之助ほか『新版注釈民法(28)』p413

変更に方式違反があっても,遺言全体が無効となる,というわけではありません。

3 方式違反と有効性判断の傾向

遺言に関する一般的な方式違反と効力の傾向をまとめます。

<方式違反と有効性判断の傾向>

あ 遺言内容の判断に関する基本的方針(概要)

遺言書の文言を形式的に判断するだけでは足りない
遺言者の真意を探究する
※最高裁昭和58年3月18日
詳しくはこちら|遺言内容・文面の解釈の基本方針と具体例

い 方式違反と有効性判断の基準(目安)

遺言書を合理的に解釈する
一義的に遺言者の意思を確定できる場合
→方式違反は遺言の効力に影響しない傾向がある
=方式違反があっても遺言を有効とする傾向
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p52

変更に関する方式違反があった場合は,遺言者の真意の判断が難しくなります。『変更前/後』のどちらが真意であるかという検討が必要になるのです。

4 作成過程における加除・変更と救済的解釈

民法上の『変更』の規定は,遺言を作成し終わり,後日内容を変えることが想定されています。一方,遺言書として完成させる前,つまり作成中に文字を修正することもあります。この作成途中の加除・訂正も『変更』の方式のルールが適用されます。ただし方式のルールは多少緩和されます。

<作成過程における加除・変更と救済的解釈>

あ 規定の適用

遺言を作成している過程における加除・変更について
→加除・変更の方式の規定は適用される
※民法968条2項

い 作成過程における誤記の訂正

次の『ア・イ』の両方に該当する場合
→遺言の効力に影響を及ぼさない
ア 訂正の方式に違反がある
イ 記載自体からみて明らかな誤記の訂正である
※最高裁昭和56年12月18日

5 訂正と有効性(訂正箇所による判断)

遺言の記載の訂正(変更)は,厳格な方式のルールがあります。誤った方式だと,変更としての効果は否定されます(前記)。
しかし,誤った方式による変更の箇所によっては特別な扱いとなります。

<訂正と有効性(訂正箇所による判断)>

あ 訂正内容による判断

訂正が形式的な方法に反している
しかし訂正内容が次のいずれかに該当する場合
→遺言は無効にならない

い 無効にならない訂正内容

ア 訂正箇所が遺言事項ではない
イ 訂正前後で遺言内容が異ならない
訂正箇所は遺言事項であっても良い

6 日付の年号の訂正と有効性判断事例

遺言の日付部分の訂正に方式違反があったケースを紹介します。
訂正の方式とは別に『日付』は自筆証書遺言の方式の1つです。このルールに関する解釈として,誤りがあっても救済することがあります。
詳しくはこちら|自筆証書遺言の『日付』の解釈と判断基準や具体例
結局,訂正(変更)の方式違反があっても,日付の特定が可能であれば有効となる傾向があるのです。

<日付の年号の訂正と有効性判断事例>

あ 事案

『H』の1字が抹消され『平成』が記載されていた
法定の方式に反している

い 裁判所の判断

特定の日付を指していることは明らかである
→無効にはならない
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p52