【遺言作成時の注意(タイミング・変更理由の記載・過去の遺言破棄)】

1 遺言作成のタイミング
2 遺言能力に関する紛争予防の工夫
3 遺言書き換えのタイミング
4 遺言書き換えにおける変更理由の記載
5 遺言書き換えと過去の自筆証書遺言原本破棄
6 遺言作成の強要への対策(概要)

1 遺言作成のタイミング

遺言の作成は,思い立った時に『すぐに』行っておくことが好ましいです。『後回し』にして後悔するケースやトラブルにつながるケースが多いです。遺言作成のタイミングに関する注意点をまとめます。

<遺言作成のタイミング(※1)

あ ありがちな発想

『今でなくてもよい』と考える
遺言作成を後回しにしてしまう

い 作成不可となるリスク

判断能力が低下した場合
例;認知症になる
→遺言の作成ができなくなる
後悔する典型的な状況である
詳しくはこちら|認知症になると財産がデッド・ロックに陥る,回避策

う 紛争発生リスク

遺言作成時に遺言者の判断能力が低下していた場合
→遺言が無効と主張・判断されるリスクがある

え 遺言作成のタイミング

作成する必要・希望を感じた時にすぐに作成を行う
後回しにしない方が良い

2 遺言能力に関する紛争予防の工夫

自筆証書遺言では一般的に,遺言能力を否定する主張がなされることが多いです。そこで,作成の時点から『否定する主張』を想定しておくと良いです。つまり,遺言能力があることの記録・証拠を作っておくということです。

<遺言能力に関する紛争予防の工夫>

あ 録画・撮影

遺言作成時の遺言者の状況・過程を録画・撮影する

い 簡易的な知能テスト

遺言作成の直前において知能テストを行う
医師でなくても構わない
遺言書作成に立ち会う弁護士が行うことも有益である
<→詳しくはこちら|
★知能テスト

う 医師による診断

遺言作成の直前において医師による診断・検査を受ける
→次のような記録を作る
ア 医師の診断書イ 精神心理学検査結果

え 記録・証拠保管の工夫

『あ・い』の証拠について
→保管方法によって証拠価値が異なる
例;アナログの録画媒体を用いる・弁護士が保管する
→改ざんを疑われる可能性を低減できる

3 遺言書き換えのタイミング

遺言を作成した後に,内容を変えたいという状況はよくあります。このような時には,新たな遺言を作成することによって,内容の撤回や変更ができます。
詳しくはこちら|遺言の変更・撤回・書き換え|遺言の破棄・目的財産の破棄
遺言の書き換えは遺言作成の一種です。タイミングについては,一般の遺言作成と同じことが当てはまります。さらに,遺言の書き換えでは特有のリスクもあります。ですから,思いついたらすぐに行うことが特に望ましいです。

<遺言書き換えのタイミング>

あ 遺言作成と同様の発想とリスク

遺言作成後に書き換えをしたいと思った
→後まわしにしてしまう
→判断能力が低下するリスクがある
発想とリスクの内容は上記※1と同様である

い 遺言書き換え特有のリスク

撤回・変更の遺言の有効性が不明確となる
→元の遺言が復活することもある
→判断・結論がより複雑・不確実になる
詳しくはこちら|撤回が『効力を生じない』|解釈論|元の遺言の復活の有無

う 遺言書き換えのタイミング

書き換える必要・希望を感じた時にすぐに書き換えを行う
一般の遺言作成よりも強く『早期作成』が推奨される

4 遺言書き換えにおける変更理由の記載

遺言を書き換える時の工夫の1つは『変更の理由』を明記しておくことです。これにより,後から無効と判断される可能性を大きく下げることができます。

<遺言書き換えにおける変更理由の記載>

あ 前提事情

自筆証書遺言により過去の遺言を書き換えた
=遺言の撤回・変更

い 無効認定リスク

遺言者の死後『遺言を変更した理由』が判明しない場合
→撤回・変更が無効と判断されるリスクが高まる
<→★撤回・変更の合理性からの自書性判断

う リスク回避策

『遺言を変更する理由』を明記しておく
→撤回・変更が無効と判断されることを防ぐ

5 遺言書き換えと過去の自筆証書遺言原本破棄

自筆証書遺言については,遺言者以外が一切関与していません。公証人のような第三者が保管している,ということもありません。書き換えた場合に『変更前の遺言書』を残しておくとトラブルにつながることがあります。

<遺言書き換えと過去の自筆証書遺言原本破棄>

あ 前提事情

自筆証書遺言を作成後,全面的に書き換えた

い 書き換え前の遺言|原則

死後で次のような解釈の対立が生じる可能性がある
『どれが有効なものか・前後関係』
→『変更前』の遺言書原本を破棄するとベター

う 書き換え前の遺言|例外

遺言者の『気持ちの変化』が再現できる
→新たな遺言の意思解釈のヒントとなることがある

通常は『変更前の遺言原本』を破棄しておくとが推奨されます。
この点,変更後の遺言の意思解釈として『変更前の遺言』が活きることもあります。
とは言っても新たな遺言が『解釈が明確』であれば『変更前の遺言』は不要でしょう。

6 遺言作成の強要への対策(概要)

遺言の書き換えは,本来,作成後に状況・気持ちが変わった時に行います。しかし,計画的に書き換えを行うこともできます。親族から遺言作成を強要された場合に活用する実例がよくあります。
詳しくはこちら|親族の嫌がらせと遺言作成の強要への対抗策(複数の遺言作成)

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