【限定承認における弁済の優先順位と売却の方法(競売と任意売却)】

1 限定承認|弁済・優先順位
2 限定承認|弁済・同順位で不足→按分
3 限定承認の売却方法には形式的競売と任意売却がある
4 形式的競売における相続人の入札
5 限定承認|任意売却の方式違反
6 限定承認の形式的競売における無剰余取消

1 限定承認|弁済・優先順位

限定承認の手続のメインイベントは『弁済』です。
強制執行や破産手続における『配当』と同様の仕組みです。
ただし『主催者』は原則的に相続人です。
裁判所が手続を行うわけではありません。

<限定承認|弁済・優先順位>

あ 優先順位1

『優先権を有する』債権者
※民法929条ただし書

い 優先順位2

ア 申出期間内に申し出た相続債権者イ 相続人に知れている相続債権者 ※民法929条本文

う 優先順位3

ア 申出期間内に申し出た受遺者イ 相続人に知れている受遺者 ※民法931条

え 優先順位4

申出期間内に申し出なかった相続債権者・受遺者
↑相続人に知れていない者
※民法935条

この中の『優先順位1』には『納税』も含まれます。
詳しくはこちら|限定承認×課税|みなし譲渡所得・納税の優先順位・弁済ミス→賠償責任

2 限定承認|弁済・同順位で不足→按分

限定承認の『弁済』の段階では『弁済する資金不足』が生じるのが通常です。
債務の方がプラス財産より大きいからこそ,相続人が限定承認を選択するのです。
『資金不足』の段階での『弁済』については規定があります。

<限定承認|弁済・同順位で不足→按分>

同順位の債権者全員への弁済ができない場合
→按分で弁済(配当)する
※民法929条本文

同順位では平等扱い,という当然のルールです。

3 限定承認の売却方法には形式的競売と任意売却がある

限定承認の手続での売却方法は原則的に形式的競売です。
しかし,家裁が選任した鑑定人の評価を用いて,競売ではない売却をする方法もあります。

<限定承認の売却方法(形式的競売・任意売却)>

あ 原則=形式的競売

限定承認の手続において相続財産を売却する場合
原則として形式的競売による
※民法923条本文

い 例外=任意売却

家裁が鑑定人を選任した
鑑定人が相続財産の評価を行った
相続人が相続財産の全部or一部の評価額を弁済した
→この場合,相続人は競売の差止を請求できる
※民法923条ただし書

う 抵当権実行への適用(否定)

相続財産について抵当権者が抵当権を実行した場合
→任意売却(い)のための競売の差止請求は適用されない
※大決昭和15年8月10日

4 形式的競売における相続人の入札

限定承認の手続の中の形式的競売では,相続人が入札することが可能です。

<形式的競売における相続人の入札>

あ 一般的な競売における債務者の入札禁止

一般的な競売手続において
債務者の入札は禁止されている
※民事執行法68条

い 形式的競売における債務者の入札

限定承認の形式的競売において
相続人が入札することは可能である
(共有物分割の形式的競売における共有者の入札と同じ)
詳しくはこちら|形式的競売における共有者の入札(買受申出)の可否

5 限定承認|任意売却の方式違反

限定承認の『弁済』プロセスは原則的に相続人が実施します。
一般の強制執行のように裁判所や執行官が行うわけではないのです。
そのため『任意売却』について『鑑定人選任をしない』というミスも散見されます。
この場合の扱いについてまとめます。

<限定承認|任意売却の方式違反>

あ 状況

鑑定人の関与なしで任意売却をしてしまった

い 法的扱い

ア 損害が生じた場合に,相続員に賠償責任が生じるイ 限定承認の効果自体は維持される ※我妻栄ほか『親族法・相続法(法律学体系コンメンタール篇)』日本評論社p505
※中川善之助『註釈相続法(上)』有斐閣p280

6 限定承認の形式的競売における無剰余取消

限定承認における競売では『既に担保権が付いている』というケースも多いです。
この場合には『担保権相当額を控除すると価値がない』ということも生じます。
このような状況における扱いを示した判例を紹介します。

<限定承認の形式的競売における無剰余取消>

あ 無剰余取消の適用

限定承認における不動産の形式的競売について
無剰余取消の規定が準用される
※民事執行法63条

い 担保権の消除主義

担保権の消除主義(消滅させる)が前提となっている
詳しくはこちら|形式的競売×担保権の処理|消除/引受主義・執行裁判所の判断
※東京高裁平成5年12月24日

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