【公正証書遺言の方式に関する規定と法改正による拡張】

1 公正証書遺言の方式の規定の趣旨
2 公正証書遺言の方式=作成方法
3 署名の代行
4 公正証書遺言では『筆記』不要
5 口授・読み聞かせの方式と不自由な方
6 『口授・読み聞かせ』の代替(全体)
7 『通訳』による『口授・読み聞かせ』の代替
8 『自書』による『口授』の代替

1 公正証書遺言の方式の規定の趣旨

公正証書遺言の作成に関しては方式が決められています。
本記事では公正証書遺言の方式についての規定を説明します。最初に,方式のルールの趣旨をまとめます。

<公正証書遺言の方式の規定の趣旨>

遺言者の意思を十分に確認する
→遺言に遺言者の意思を正確に反映させる

2 公正証書遺言の方式=作成方法

公正証書遺言の方式の全体をまとめます。要するに作成方法に関する形式的なルールです。

<公正証書遺言の方式=作成方法>

あ 証人の立会;1号

証人2人が立ち会う
証人となる一定の条件がある
=『証人欠格・不適格』に該当しないこと
詳しくはこちら|公正証書遺言の証人の『承認』の内容と欠格・不適格と有効性

い 遺言者の口授;2号

遺言者が公証人に遺言内容を口授する
=口頭で伝達すること
例外的な代替手段も認められている(後記※2

う 公証人の読み聞かせ;3号

公証人が遺言内容を筆記する
公証人が遺言者・証人に遺言内容を読み聞かせるor閲覧させる

え 遺言者・立会承認の承認;4号

遺言者・証人が『筆記が正確であること』を『承認』する
遺言者・証人が署名・押印をする
署名の代行ができることもある(後記※1

お 公証人の署名・押印;5号

公証人が署名・押印する
※民法969条

3 署名の代行

遺言者の署名は方式の1つとなっています(前記)。そうすると,記述ができない方は公正証書遺言を作成できなくなります。そこで,署名しなくても済むルールもあります。

<署名の代行(※1)

遺言者が証明することができない場合
→公証人がその事由を付記する
→署名に代えることができる
※民法969条4号ただし書

4 公正証書遺言では『筆記』不要

以上のように公正証書遺言の作成では遺言者自身が筆記する必要はありません。つまり,筆記ができない方でも公正証書遺言を作成できます。このことは,自筆証書遺言との大きな違いです。

<公正証書遺言では『筆記』不要>

あ 『自書』は不要

公正証書遺言の作成において
遺言者が『自書』する規定はない
遺言内容を公証人に『口授』すれば足りる
※民法969条2号

い 署名は代行が可能

公正証書遺言には遺言者の『署名』が必要である
公証人による代行が可能である(前記※1

う 具体例

筆記できない方も公正証書遺言を作成できる
例;手が不自由な方

え 自筆証書遺言の『全文自書』(参考)

自筆証書遺言の作成について
遺言者が全文を自書する必要がある
詳しくはこちら|自筆証書遺言の『自書』の解釈と判断基準や具体例

5 口授・読み聞かせの方式と不自由な方

公正証書遺言は『筆記』できない方でも作ることができます。これとは別に,公正証書遺言の方式には『口授・読み聞かせ』というルールがあります。遺言内容を伝達する方式です。これらの方式は口や耳が不自由な方には大きなハードルです。
この点,民法改正により,代替手段が作られています。
ここまでの内容をまとめます。

<口授・読み聞かせの方式と不自由な方>

あ 口授・読み聞かせの規定

遺言者と公証人の意思伝達の方法について
原則的に『口授』『読み聞かせ』が必要である
=口頭での伝達と聴取が必要である
※969条2号,3号

い 不都合な点

言語や聴覚が不自由で完全な発語・聴取ができない方について
→『口授』『読み聞かせ』の要件をクリアできない
→公正証書遺言を利用できない
『口授に該当せず公正証書遺言は無効』と判断された実例もある
詳しくはこちら|公正証書遺言の『口授』該当性の判断の目安と裁判例

う 法改正による利用拡大

平成11年の民法改正において
『口授』『読み聞かせ』に代わる方法の規定が追加された
一定の身体が不自由な方も利用できるようになった(後記※2

6 『口授・読み聞かせ』の代替(全体)

口授や読み聞かせという方式については,別の手段で代用することができるようになりました。代替手段の全体をまとめます。

<『口授・読み聞かせ』の代替(全体;※2)>

あ 『口授』の代替手段

遺言者が口がきけない者である場合
→次のいずれかの方法で『口授』に代えることができる
ア 通訳人の通訳による申述(後記※3イ 自書(後記※4 ※民法969条の2第1項

い 『読み聞かせ』の代替手段

遺言者or証人が耳が聞こえない者である場合
→次の方法で『読み聞かせ』に代えることができる
通訳人の通訳による伝達(後記※3
※民法969条の2第2項

う 代替手段の利用の可否(まとめ)
立場 耳が聞こえない 口がきけない
遺言者 代替手段OK 代替手段OK
証人 代替手段OK 代替手段NG

7 『通訳』による『口授・読み聞かせ』の代替

『通訳』によって口授・読み聞かせを代替することができます。『通訳』の具体的な内容についてまとめます。

<『通訳』による『口授・読み聞かせ』の代替(※3)

あ 条文の規定

通訳人の通訳により申述する/伝える
※民法969条第1項,2項

い 手話

典型例は手話である
通訳人の手話のスキルに関して
→何らかの資格・基準は要求されていない

う ジェスチャー

解釈としてはジェスチャーもあり得る
しかし意思の伝達の正確性が不十分となる可能性もある
→事後的に遺言が無効と判断されるリスクが高い

8 『自書』による『口授』の代替

『自書』によって『口授』に代えることができます。『自書』の内容・解釈をまとめます。自筆証書遺言の条文の『自書』とは異なる解釈です。

<『自書』による『口授』の代替(※4)

あ 基本的な解釈

『自書』について
→『文字・視覚を通した伝達』と解釈される

い 筆談

一般的には『筆談』のことである

う デジタルツールの表示による伝達

『手書き』『紙媒体(への筆記)』という限定はない
→ディスプレイ上の文字の伝達も可能である
→デジタルツールも利用できる
例;パソコン・タブレット端末・スマートフォン(iPad,iPhone)

え 自筆証書遺言の方式の『自書』(参考)

自筆証書遺言の方式の規定の1つに『自書』がある
これは『自筆』を意味する
同じ用語であるが『あ』とは解釈が異なる
詳しくはこちら|自筆証書遺言の『自書』の解釈と判断基準や具体例

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