1 相続放棄の『無効』|『取消』とは違う
2 相続放棄の『無効』|典型例=心裡留保・要素の錯誤・動機の錯誤
3 相続放棄の『動機の錯誤』→無効|典型例
4 相続放棄の『動機の錯誤』|判断基準
5 相続放棄の『無効』|法的手続|家裁の申述ではなく一般の訴訟
6 相続の『単純承認』×『取消・無効』|『相続放棄』とほぼ同様

相続放棄の『無効』について説明します。
似ていますが『取消』の制度は別記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続放棄の『取消』|騙された・間違えた・脅された|期間制限・家裁の申述

1 相続放棄の『無効』|『取消』とは違う

相続放棄について『無効』を主張し『撤回』に成功するケースもあります。
相続放棄の『取消』と似ているのですが,制度としては大きく違います。
相続放棄の『無効』の基本的事項をまとめます。

<相続放棄の『無効』>

あ 相続放棄の『無効』の扱い

意思表示に瑕疵があった場合
→『無効』が認められる

い 法律構成

民法の総則規定の『類推適用』が認められる
《総則規定》
ア 心裡留保;93条
イ 虚偽表示;94条
ウ 錯誤;95条
※『新版注釈民法(27)』有斐閣p461

2 相続放棄の『無効』|典型例=心裡留保・要素の錯誤・動機の錯誤

相続放棄が『無効』となる事情になる典型例をまとめます。

<相続放棄の『放棄』の実例>

あ 相続放棄×心裡留保

『本心ではなかった』というもの
→民法94条の類推適用が認められる
※最高裁昭和42年6月22日

い 相続放棄×『要素の錯誤』

重要な事項について誤解・勘違いがあったというもの
→民法95条の類推適用が認められる
※東京高裁昭和63年4月25日
※高松高裁平成2年3月29日

う 相続放棄×『動機の錯誤』

相続放棄をした『動機』部分に誤解・勘違いがあったというもの
→民法95条の類推適用が認められる
※東京高裁昭和63年4月25日

相続放棄は『家裁の申述』によって行います。
そこで『容易に撤回できない』という傾向があります。
しかし,特殊な事情があれば『無効主張→撤回実現』というケースもあるのです。

3 相続放棄の『動機の錯誤』→無効|典型例

『動機の錯誤』は,一般的に『取引』ではよく使われる『撤回の手法』です。
相続放棄についても流用することが認められています。
まずは『相続放棄の動機に誤解』が生じる典型例を紹介します。

<相続放棄×『動機の錯誤』|典型例>

あ 後悔した相続放棄をした者

故人(被相続人)の『配偶者』

い 相続放棄を行った『動機』

相続放棄により『子供』に遺産を承継させたい

う 『想定外=錯誤』の発生

配偶者が相続放棄を行った後,父・母が相続放棄してくれない
→父・母が相続人として遺産を承継してしまった

4 相続放棄の『動機の錯誤』|判断基準

相続放棄について『動機の錯誤』として無効と判断する基準をまとめます。

<相続放棄×『動機の錯誤』|判断基準>

あ 『動機の錯誤』の要件

次のいずれにも該当する場合
ア 相続手続において動機が表示された
イ 裁判所や利害関係人に知り得べき客観的状況があった
利害関係人=相続放棄の影響を受ける者

い 『動機の錯誤』の効果

相続放棄が『無効』となる
※東京高裁昭和63年4月25日

5 相続放棄の『無効』|法的手続|家裁の申述ではなく一般の訴訟

相続放棄の『無効』についての法的な手続をまとめます。

<相続放棄×『無効』|法的手続>

あ 家裁の『申述』

これは『取消』の規定があるが『無効』では規定がない
→『無効』の『申述』はできない

い 一般的な訴訟

一般的な権利の公的審査手続として『訴訟提起』は可能
※最高裁昭和29年12月24日
※福岡高裁平成16年11月30日

相続放棄の『取引』の場合は『家裁の申述』を申し立てます。
『無効』では,このような規定がないので『一般の訴訟』を利用することになるのです。

6 相続の『単純承認』×『取消・無効』|『相続放棄』とほぼ同様

『相続放棄』の逆の制度として『相続の承認』があります。
相続による遺産承継を受ける,というものです。
『当たり前過ぎる』のであまり意識されないものです。
この点『相続の承認』についても『取消』や『無効』を主張するケースもあります。
おおまかに言えば『相続放棄』と同じような扱いと言えます。
『単純承認』の『取消・無効』についてまとめます。

<相続の単純承認×『取消』『無効』>

あ 相続『承認』×『取消』

家裁の申述により『取消』ができる
『相続放棄の取消』と同様
※民法919条

い 相続『承認』×『無効』

単純承認の法的性質による

法的性質 無効主張の可否 再現可能制
意思表示説 できる 有力(高い;※1)
法定効果説 できない マイナー(低い)

※1 最高裁昭和42年4月27日

『無効主張』については,法的成立論の影響で見解が分かれています。