1 預貯金に関する相続人の権利
2 相続人への払戻実行と金融機関のリスク(概要)
3 相続人の払戻請求に対する金融機関の対応
4 金融機関の払戻拒否の緩和方向

1 預貯金に関する相続人の権利

預貯金は,法律的には金銭債権です。相続財産に含まれる預貯金は可分ではなく分割承継されません。遺産分割の対象となります。
これは平成28年の最高裁の判例変更によるものです。従前は扱いが異なりました。

<預貯金に関する相続人の権利>

あ 法定相続

預貯金は可分ではない
共同相続人に分割承継されることはない
各相続人は単独で金融機関に対して払戻を請求できる
遺産分割の対象となる
※最高裁平成28年12月19日
<→★平成28年判例変更

い 分割方法の指定

遺言に分割方法の指定がある場合
→これにより承継される金額が定まる

2 相続人への払戻実行と金融機関のリスク(概要)

平成28年の判例変更前は,払戻請求を受ける金融機関の立場として,払戻に関するリスクがありました。
過去の金融機関と相続人との間でのトラブルに関しての説明として,以下この問題の説明を続けます。
金融機関の負うリスクは大きく2種類に分けられます。概要だけまとめます。

<相続人への払戻と金融機関のリスク(概要)>

あ 基本

金融機関が相続人に預貯金を払い戻すことについて
金融機関は『い・う』のリスクがある

い 払戻実行のリスク(概要)

払戻を受けた者が真の権利者ではなかった場合
→2重払いのリスクを負う
詳しくはこちら|相続人への払戻実行による金融機関のリスクと救済策

う 払戻拒否のリスク(概要)

払戻の拒否について
違法性が認められた場合
→法的な責任を負うことになる
内容=債務不履行or不法行為
詳しくはこちら|相続人への払戻拒否による金融機関の負う責任(金融商品化)

3 相続人の払戻請求に対する金融機関の対応

金融機関は,相続人の払戻請求に対して,理論的には応じる義務があります。しかし,大きなリスクも伴うのです(前記)。
その結果,実務では一般的に,金融機関は次のようなことを要求します。

<相続人の払戻請求に対する金融機関の対応>

あ 書面の要求

一定様式の書面が必要となる
ア 『遺産分割協議書』
イ 『同意書』
ウ 『相続手続依頼書』

い 法定相続人全員の承認の要求

『法定相続人全員の承認(押印)』を必要とする

う 実印+印鑑証明書の要求

『あ』や『い』に加えて
押印については全員分の『実印』+『印鑑証明書』を必要とする
※安西二郎『相続預貯金払戻請求訴訟の論点』判タ1355号p52〜

相続人としては,実際にこれらの書面などを揃えることができないこともあります。そうすると払戻を受けられない状況になります。

4 金融機関の払戻拒否の緩和方向

金融機関が払戻の拒否をすると違法となり賠償責任を負うこともあります(前記)。そこで現在の実務としては拒否の態度が緩和されつつあります。

<金融機関の払戻拒否の緩和方向>

法定相続分の払戻請求い応じるケースも増えつつある
次のような事項を相続人に確認している
(遺言がある場合)その遺言に抵触する遺言がないこと
遺言の有効性について紛争・疑義が生じていないこと
※亀井洋一『預金の相続における遺言の取扱い』銀行法務21_787号p5〜7
※渡邊博己『相続預金取扱時の留意点』銀行実務43巻3号p21
※瀬戸裕典『『相続預金』取扱いの注意点とトラブル防止策』銀行実務44巻2号p48