1 相続分の放棄の効果|遺産を承継しないが相続債務は別
2 相続分の放棄|相続放棄・遺産分割との違い
3 相続分の放棄を利用するシーンの典型例
4 相続分の放棄の具体的方法|他の相続人への通知
5 相続分の放棄→家裁の『手続排除決定』
6 相続分の放棄→不動産登記には『放棄した者』も関与する

1 相続分の放棄の効果|遺産を承継しないが相続債務は別

『相続分の放棄』という手続があります。

<相続分の放棄|意味>

相続人がその相続分を放棄する旨の単独の意思表示
実務では家裁に対して意思表示(書面提出)をすることが多い(後述)
※潮見佳男『相続法 第3版』p145

これは『相続放棄』とは大きく異なります。
よく間違えてしまって混乱・損失につながることがあります。
まずは『相続分の放棄』でどのような効果が生じるのかをまとめます。

<相続分の放棄の効果>

あ 権利・義務の変動

ア プラス財産→『共有持分の放棄』と同じ
イ 相続債務→変化なし(免れない)
※最高裁昭和34年6月19日
※大阪高裁昭和31年10月9日
※東京高裁昭和37年4月13日

い 見かけ上の動き

『相続人という地位』が消滅したのに近い
→そのため『相続の放棄』と呼ばれる

2 相続分の放棄|相続放棄・遺産分割との違い

『相続分の放棄』は『相続放棄』とも『遺産分割』とも大きく違います。
違いを整理しました。

<相続分の放棄|相続放棄・遺産分割との違い>

比較事項 相続分の放棄 相続放棄 遺産分割
相続人全員の合意の要否 不要 不要 必要
期間制限 なし あり なし
裁判所の手続の要否 なし あり どちらも可能

3 相続分の放棄を利用するシーンの典型例

相続分の放棄には,このような特徴があります。
そこで『簡略的・スピーディーに遺産分割から抜ける』という時には有用です

<『相続分の放棄』を利用する典型的状況>

ア 遺産分割の協議・裁判から抜けたい
イ しかし,既に3か月が経過し『相続放棄』ができない
ウ また『遺産を承継しない』と言っても『承諾しない』と言う相続人がいる
→遺産分割から抜けられない

4 相続分の放棄の具体的方法|他の相続人への通知

実際に『相続分の放棄』を行う方法をまとめます。

<相続分の放棄|具体的方法>

あ 法律的な性格

相手方のない単独行為(意思表示)

い 実際の方法

他の相続人に通知する

理論的には『他の相続人に知らせない』でも実現します。
実際には他の相続人が知らないと混乱が生じるので,通知で知らせる,という手法を取ります。

5 相続分の放棄→家裁の『手続排除決定』

ここで『家裁の遺産分割調停・審判』から抜けるために『相続分の放棄』を行う場合について説明します。
家裁の手続から抜けるためには次のような手続が必要になります。

<家裁の調停・審判から抜ける手続>

『相続分の放棄』の書面を家裁に提出する
→家裁が『手続排除決定』を行う
※家事事件手続法43条

外部サイト|京都家裁|相続分放棄について(説明書)

6 相続分の放棄→不動産登記には『放棄した者』も関与する

『相続分の放棄』を行えば,遺産分割から抜けることができます。
しかし,不動産登記については『相続分の放棄をした者』も一定の関与が必要となります。

<相続分の放棄→登記の方法>

あ 法定相続による登記未了の場合

分割協議後に,承継者が単独申請をする
添付書類=『遺産分割協議書+放棄書+これらの印鑑証明書』

い 法定相続による登記後

改めて『承継者+他の相続人』とで『移転登記』の『共同申請』をする
登記原因=『相続分の放棄』(or共有持分放棄)

『相続分の放棄をした者』は『申請人(登記義務者)』となるか『印鑑証明書を提出』する必要が生じるのです。
このような『協力』がない場合,登記申請をするために『訴訟→判決獲得』が必要になってしまいます。
詳しくはこちら|相続と登記|相続人による処分などで食い違う場合は登記で決まるとは限らない