【一般的な信託契約の条項案(サンプル)】

1 信託契約書では類型的な条項が多い|条項案の凡例
2 信託財産の特定|条項案
3 信託不動産の管理・運用|条項案
4 信託不動産の使用|条項案
5 信託財産に含まれる金銭の管理・運用|条項案
6 信託不動産の転用・処分|条項案
7 受託者が行う増資新株式の引受申込|条項案

1 信託契約書では類型的な条項が多い|条項案の凡例

信託契約の内容は,通常,『信託契約書』によって特定・記録化します。
信託は,個別的なカスタマイズ→個別的条項が重要,と言えます。
とは言っても,類型的な条項として重要なものも多いです。
以下,条項の例を説明します。
最初に共通する呼称を凡例としてまとめておきます。

<凡例(※共通)>

甲=委託者
乙=受託者
丙=受益者

2 信託財産の特定|条項案

信託契約書の中で基本的な条項の1つが『信託財産の特定』です。
非常に重要なものです。
『財産目録』として分かりやすく列挙し,これを別紙とする,という方式を推奨します。

<信託財産の特定|条項案>

甲は乙に対し,甲の権利に属する別紙財産目録記載の金銭,預貯金,有価証券,不動産を乙に信託し乙はこれを引き受ける。

3 信託不動産の管理・運用|条項案

信託財産に不動産が含まれる場合,一定の『管理・運用』について明確にしておくと良いです。

<信託不動産の管理・運用|条項例>

(信託不動産の管理・運用)
受託者は,次に掲げる方法により信託不動産を管理・運用する。
1.(信託不動産の管理)
受託者は,信託土地を本件建物の敷地として管理するものとし,信託不動産の管理に関して,受益者の指名に基づき,第三者に委託することとするところ,受益者の指名に従い,プロパティ・マネジャーとの間でプロパティ・マネジメント契約を締結する。
2.(信託不動産の建物運用)
受託者が,定期建物賃貸借契約に基づき,本件建物を賃借人に対して賃貸して運用するものとし,受益者の指図によらずして定期建物賃貸借契約を合意解除することはできないものとする。受託者は,受益者の指図に基づき,定期建物賃貸借契約の規定に従った賃料の決定を行うものとする。また,かかる賃料の決定に関し,賃借人から賃貸人に対し異議が述べられた場合には,受託者は,受益者と協議のうえ,受益者の指図に従い対応する。定期建物チンt内借契約の終了後,受託者は,受益者の指図に基づき信託不動産を賃借人又は受託者の意する第三者に賃貸する。

4 信託不動産の使用|条項案

信託不動産について,『受託者が使用する』という実態も多いです。
その場合,当たり前なので明確に条項にしないことも見受けられます。
しかし,条項にしておく方が,解釈のブレ→紛争発生,を回避できますのでお勧めです。

<信託不動産の使用|条項例>

(信託不動産の使用)
受託者は,信託不動産の管理,運用業務を遂行するため必要があると認める場合には,信託不動産の一部を自ら無償で使用することができる。

5 信託財産に含まれる金銭の管理・運用|条項案

信託財産には,最初から金銭が含まれることも,信託財産からの収益として発生することもあります。
いずれにしても,その金銭の具体的な管理・運用の方法を明確に条項にしておくと良いです。

<信託財産に含まれる金銭の管理・運用>

(金銭の管理・運用)
受託者は,信託財産に属する金銭に関し,下記の賃料受取口座において収受し,別途受益者からの指図がない限り,円建無利息預金で運用する。
<賃料受取口座>
金融機関名 : ※銀行※支店
口座名義人 : ○(信託ロNo,12345)
口座種類:普通

6 信託不動産の転用・処分|条項案

信託不動産を受託者が『転用・処分』する,ということが重要な目的となっているケースも多いです。
受託者の裁量を意識的に『限定しておく』ということもあります。
意図的に,受託者に大きな裁量を与える,という方法もあります。
いずれの場合でも,『許容される範囲』を明確にしておかないと,現実的な売却などの際に,大きな支障が生じることがあります。
明確化しておくことは重要です。
ここでは,『裁量の制限』として『受益者の指図』が必要/不要,という2つに分けて条項例を示します。

(1)受益者の指図不要

<信託不動産の転用・処分|受益者の指図不要|条項例>

(信託不動産の転用及び処分)
 受託者は,受益者の指図によらないで信託不動産を売却することができる。この場合においても,委託者及び受益者は受託者に対して,一切異議を申し立てない。ただし,受託者が善良なる管理者としての注意義務及び忠実義務を怠った場合はこの限りではない。

(2)受益者の指図必要

<信託不動産の転用・処分|受益者の指図必要|条項例>

(信託不動産の転用及び処分)
1.受託者は,受益者の指図があり,かつ受託者が承諾した場合には,信託不動産を定期建物賃貸借契約に基づく用途以外の用途に用いるために転用工事を実施するものとする。この場合,設計・施行業者等,当該工事に従事する業者の選定,及び転用後の本件建物の用途については,受益者が指定するものとする。
2.前項に従って信託不動産の転用工事を実施する場合,受託者は受益者の指図に従って敷金等返還準備金を取り崩し,かかる工事の費用に充当することができる。敷金等返還準備金がかかる工事の費用に不足する場合には,受託者は(1)受益者の指示に従って信託に属する金銭を取り崩し,更に不足する場合には,(2)受益者に対して追加金銭信託を要請することができるものとする。
3.受託者は,信託期間中,受益者の指図(かかる指図を行う場合,受益者は,売却先,売却の時期,方法,価格等売却に必要な一切の条件を定めなければならない。)があった場合には,信託不動産を売却することができる(なお,売却先が未定の場合に受益者から指図がったときは,別途定める条件に従い,受託者は買主の探索を行うものとする。)。ただし,受益者は受託者と協議のうえ,売却方法として次のいずれかまたは複数の方法を選択することにより,受託者が信託不動産の売却により損害を被らないようにしなければならない。
 (1)信託不動産の購入者を宅地建物取引業法に定める宅地建物取引業者とし,かつ,売主たる受託者が瑕疵担保責任を負わない旨の特約を設ける方法。
 (2)受託者が負担する瑕疵担保責任その他信託不動産の処分に係る契約に基づく責任又は損害を,受託者が相当と認める第三者に併存的に引き受けさせ,当該債務引き受けにより生じた連帯債務の内部割合につき,受託者をゼロ,併存的債務引受人を全部とする方法。
 (3)信託不動産の購入者として賃借人若しくは賃借人と同等の事業運営能力を有すると解される法人を指定する方法。
 (4)その他受託者が相当と認める方法
4.受益者が前項の指図を行う時点において本契約により受託者が敷金・保証金返還債務を負担している場合には,受益者は,敷金・保証金返還債務を免責的に引き受けることに応ずるものを売却先として指名しなければならないものとする(なお,受託者は受益者の要請があった場合には,かかる売却を斡旋するものとする。)。この場合,受託者の処分代金請求権と売却先の免責的債務引受の対価請求権とは対当額を持って相殺されるものとし,受託者は,売却先から相殺後の残額の支払いを受けるものとする。ただし,この場合であっても,当該売却先が受託者から敷金・保証金返還債務を免責的に引き受けることについて敷金・保証金返還債務の債権者(以下『敷金・保証金返還債務債権者』という。)から承諾を得ることが必要であって,かつ,かかる承諾を取得できないときには,敷金等返還準備金を留保することができる。
5.第3甲の受益者の指図につき,受託者において第3項及び第4甲に反すると認めた場合,受託者が信託目的の遂行上著しく不適切であると認めた場合,法定,通達若しくは監督指針又はそれらの解釈に違反すると合理的に認められる場合,売却先が反社会的勢力等に該当する場合には,受託者は当該指図に従わないことができる。
6.委託者及び受託者は,受託者が第3項ないし第5項に従って信託不動産を売却する限り,受託者に対して一切異議を申し立てない。但し,受託者が善良なる管理者として注意義務を及び忠実義務を怠った場合はこの限りではない。

7 受託者が行う増資新株式の引受申込|条項案

信託財産に『株式』が含まれる場合,この株式に『増資新株』や『他社株式』が割り当てられることがあります。
当然,経済的に大きな価値(利益)が伴うものです。
これについて受託者のアクション・裁量について明確化しておくと良いです。

<受託者が行う増資新株式の引受申込|条項例>

(増資新株式等の引受申込)
1.信託財産たる株式に割当てられた増資新株式又は他社株式については,委託者が受託者の請求により株式の引受又は応募に要する証拠金,払込金その他の費用を受託者の指定する期日までに受託者に提供した場合に限り,受託者はその引受又は応募の申し込みをするものとします。
もし期日までに提供のない場合は,失権その他の損害が生じても受託者は何らその責任を負いません。
2.前項の規定により取得した増資新株式等は,この契約による信託財産に追加するものとします。

<参考情報>

国税庁ホームページ

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